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by nicoxz

トランプ新関税発動、150日のつなぎ策の全容

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はじめに

2026年2月24日午前0時1分(米東部時間)、トランプ米大統領による新たな関税が発動しました。これは2月20日に米連邦最高裁判所が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく相互関税を6対3で無効と判断したことを受けた、いわば「プランB」にあたる措置です。

トランプ大統領は最高裁判決からわずか数時間後に「1974年通商法122条」を発動し、当初10%としていた税率を翌日には法律が許容する上限の15%に引き上げました。この関税は150日間限定の時限措置であり、その後は「通商法301条」に基づく制裁関税への移行が計画されています。過去に一度も使われたことのない法的根拠を用いた異例の対応であり、すでに新たな法的挑戦の可能性も指摘されています。本記事では、この新関税の仕組みと影響、そして今後の見通しを詳しく解説します。

最高裁判決と通商法122条の発動

IEEPAに基づく相互関税の無効判決

2月20日、米連邦最高裁判所はロバーツ首席判事の執筆による判決で、トランプ大統領がIEEPAに基づいて課してきた相互関税を違法と断じました。判決は6対3で、ロバーツ首席判事にソトマイヨール、ケイガン、ゴーサッチ、バレット、ジャクソンの各判事が同調し、トーマス、カバノー、アリートの各判事が反対意見を出しました。

判決の核心は、IEEPAが大統領に関税を課す権限を委任していないという点にあります。最高裁は、IEEPAの条文に「関税や課税に関する言及が一切ない」ことを重視し、「規制する権限には課税する権限は含まれない」と明確に判断しました。いわゆる「解放の日」以降の相互関税は、ほぼすべての貿易相手国からの輸入品に10%から最大50%の税率を課すものでしたが、この判決により法的根拠を失いました。

なお、これらの関税は2月20日までに連邦政府に1,600億ドル以上の歳入をもたらしており、2035年までには1.4兆ドルの歳入が見込まれていました。最高裁は還付問題については判断を留保し、米国国際通商裁判所での審理に委ねています。

通商法122条とは何か

最高裁判決を受けてトランプ大統領が持ち出したのが、1974年通商法122条です。この条項は、「深刻かつ大規模な国際収支赤字」に対処するため、大統領に最大15%の一時的な輸入課徴金を課す権限を与えるものです。1974年の制定以来、過去に一度も使用されたことがない極めて異例の法的根拠です。

トランプ大統領は2月20日夜に大統領令を発令し、米国が通商法122条の意味における「根本的な国際収支問題」を抱えていると宣言しました。当初の税率は10%でしたが、翌21日には法律が認める上限の15%に引き上げると表明しました。この関税は2月24日から150日間(2026年7月24日まで)の時限措置として発効し、150日を超える延長には議会の承認が必要です。

新関税の仕組みと経済的影響

適用範囲と免除品目

新たな15%関税は、米国に輸入されるほぼすべての物品に適用されます。ただし、ホワイトハウスの発表によれば、以前のIEEPA関税と同様の免除措置が設けられています。自動車、コーヒー、電子機器など一部の品目は免除対象となっています。また、鉄鋼やアルミニウム、半導体などすでに通商拡大法232条に基づく個別関税が課されている品目については、別途の扱いとなります。

なお、最高裁判決は通商法301条や通商拡大法232条に基づく既存の関税には影響を与えていません。鉄鋼、アルミニウム、銅、自動車、自動車部品、木材、中大型トラック、半導体への関税は引き続き有効です。

新関税の対象となる輸入額は年間約1.2兆ドル(全輸入額の約34%)に上ります。

家計と経済への影響

イェール大学バジェット・ラボの分析によれば、122条関税が予定通り150日で失効した場合でも、物価水準は0.5%から0.6%上昇し、平均的な家計にとって600ドルから800ドルの負担増になると試算されています。また、2026年末までに失業率が0.3ポイント上昇し、長期的には米国経済が恒常的に0.1%(年間約300億ドル相当)縮小する可能性があるとされています。

JPモルガンのアナリストは、平均関税率が最終的に9%から10%前後に落ち着くとの基本シナリオを維持しつつも、今後数か月は大きな不確実性が続くと指摘しています。企業にとっては、150日後にどのような関税体制に移行するのかが最大の関心事となっています。

注意点・展望

法的課題と301条への移行計画

通商法122条の使用にはすでに法的疑義が呈されています。最大の論点は、現在の米国経済が本当に122条が想定する「国際収支赤字」の状態にあるかという点です。通商専門家や経済学者の多くは、1974年当時の「国際収支赤字」は現在の「貿易赤字」とは異なる概念であり、変動為替相場制を採用する米国には国際収支赤字は存在しないと主張しています。貿易赤字は資本収支の黒字で完全に相殺されており、全体としての国際収支は均衡しているというのがその論拠です。

こうした法的脆弱性を認識してか、トランプ政権は並行して通商法301条に基づく調査を開始するよう米通商代表部(USTR)に指示しています。301条は不公正な貿易慣行に対する制裁関税を認める条項で、調査結果に基づく関税には明確な期限がありません。政権は「主要貿易相手国のほとんど」に対して301条調査を開始する方針を示しており、150日後の7月24日以降は301条に基づくより恒久的な関税体制への移行を目指しています。

ただし、301条調査には通常数か月から1年以上の時間がかかるため、150日の期限内にスムーズな移行が実現するかは不透明です。議会による122条関税の延長承認も政治的に容易ではなく、7月下旬に向けて通商政策をめぐる不確実性がさらに高まる可能性があります。

まとめ

トランプ政権は最高裁による相互関税の無効判決に対し、通商法122条という前例のない法的根拠で迅速に対応しました。15%の新関税は2月24日から150日間の時限措置として発効し、平均的な家計に600ドルから800ドルの負担増をもたらすと見込まれています。

しかし、この措置自体にも法的挑戦が予想され、150日後の301条移行計画にも多くの不確実性が残ります。企業や投資家にとっては、7月24日の期限に向けた政策動向を注視しつつ、複数のシナリオを想定した経営判断が求められる局面です。日本を含む各国の貿易相手国も、変動する米国の通商政策に柔軟に対応する必要があります。

参考資料:

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