トランプ大統領のグリーンランド取得構想、背景と戦略的意図を解説

by nicoxz

はじめに

トランプ米大統領がデンマーク自治領グリーンランドの取得に向けて、軍事力行使も辞さない姿勢を示しています。2018年の第1次政権時に浮上したこの構想は、当初「最優先事項ではない」とされていましたが、2026年現在は「絶対に必要」な重要戦略へと格上げされました。

なぜトランプ大統領はグリーンランドにこれほどまでこだわるのでしょうか。本記事では、構想の発端となった人物の存在、対中戦略としての位置づけ、そしてレアアース(希土類)争奪戦という3つの視点から、グリーンランド取得構想の全体像を解説します。

エスティ・ローダー創業家とグリーンランド構想の起源

ロナルド・ローダー氏の提案が発端に

トランプ大統領のグリーンランド取得構想は、米化粧品大手エスティ・ローダー創業家のロナルド・ローダー氏から始まったとされています。ジャーナリストのスーザン・グラッサー氏とピーター・ベイカー氏の著書「The Divider」によると、ローダー氏がメルカトル図法の地図を見せながら、グリーンランド取得の魅力をトランプ氏に説明したことが発端です。

トランプ大統領は当時の国家安全保障顧問ジョン・ボルトン氏に対し、「私の友人で、本当に経験豊富なビジネスマンが、グリーンランドを手に入れられると考えている」と語ったとされています。

ローダー氏のグリーンランド投資

興味深いことに、ローダー氏自身もグリーンランドへの投資を進めています。デンマーク紙ポリティケンの報道によると、81歳のローダー氏はグリーンランド開発パートナーズ(Greenland Development Partners)という投資コンソーシアムに参加し、グリーンランド投資グループへの出資を行っています。

デンマーク国防アカデミーの北極地政学専門家マーク・ヤコブセン氏は「この文脈で素朴でいるのはおかしい。明らかに彼の戦略的投資だ」と指摘しています。

対中強硬派が構想を「絶対に必要」に格上げ

北極圏における米中露の覇権争い

トランプ大統領がグリーンランドを「絶対に必要」と位置づける背景には、北極圏をめぐる地政学的競争があります。トランプ大統領はエアフォースワン機内で記者団に対し、「グリーンランドは非常に戦略的だ。今、グリーンランドはロシアと中国の船でいっぱいだ。国家安全保障の観点からグリーンランドが必要だ」と述べています。

グリーンランドは北極圏に位置し、ロシア・中国・北米を結ぶ戦略的要衝です。島内には米国が長年使用してきた軍事施設があり、ミサイル警戒や宇宙監視の観点からも重要な拠点となっています。

ホワイトハウス高官の発言

大統領上級顧問スティーブン・ミラー氏はCNNのインタビューで「グリーンランドは米国の一部になるべきだ」と主張し、軍事力による取得の可能性についても「グリーンランドの将来をめぐって米国と軍事的に戦う者はいない」と発言しました。

マルコ・ルビオ国務長官も議会の機密ブリーフィングで、米国がグリーンランドの購入を目指していると説明し、これが常にトランプ大統領の意向であったと述べています。

レアアース争奪戦とグリーンランドの資源価値

世界有数のレアアース埋蔵量

グリーンランドは世界第8位のレアアース埋蔵量(150万トン)を誇り、世界最大級の鉱床を2つ有しています。クバネフィールド鉱山とタンブリーズ鉱山には、ネオジム、ディスプロシウムなど産業上重要な元素が大量に眠っています。

また、リチウム、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウムなど、バッテリーや先端技術に不可欠な鉱物も豊富に存在します。これらは電気自動車、再生可能エネルギー、防衛システムに欠かせない資源です。

中国によるレアアース支配への対抗

現在、世界のレアアース加工の約90%は中国が握っています。2025年4月には中国が重希土類の輸出規制を発表し、サプライチェーンの脆弱性が改めて浮き彫りになりました。

ホワイトハウスはグリーンランドの資源を、この中国支配を打破する手段と位置づけています。元国家安全保障顧問のマイク・ウォルツ氏は「政権のグリーンランドへの注目は重要鉱物と天然資源に関するものだ」と明言しています。

採掘の現実的課題

ただし、専門家からは懸念の声も上がっています。CNBCの報道によると、グリーンランドでのレアアース採掘には根本的なボトルネックがあります。「現実には、気象条件のため作業は非常に困難で経済性も低い。たとえ採掘しても、加工のために中国に送らなければならない」との指摘があります。

グリーンランドの氷床に覆われていない地域はわずか20%で、気温はマイナス40度を下回ることもあります。実際、グリーンランドでレアアース採掘が行われた実績はまだありません。

デンマーク・欧州の反発と今後の展望

強硬な反対姿勢

デンマークのメッテ・フレデリクセン首相は「米国にはデンマーク王国を構成する3カ国のいずれをも併合する権利はない」と、これまでで最も強い反発を示しました。グリーンランド自治政府のミュート・エーゲデ首相も「極めて無礼だ」と批判しています。

英仏独など欧州主要国の首脳も共同声明を発表し、「グリーンランドの将来を決める権限は住民に属する」とけん制しました。

住民への一時金支給案

一方、ロイター通信は2026年1月8日、トランプ政権がグリーンランド住民(約5万7000人)に対し、1人当たり最大10万ドル(約1500万円)の一時金支給を検討していると報じました。総額は最大60億ドル(約9400億円)に上る計算です。

今後の協議予定

米国家安全保障会議(NSC)高官とデンマーク駐米大使、グリーンランド自治政府の代表者は1月8日にホワイトハウスで協議を行いました。今後、ルビオ国務長官がデンマーク高官と会談する予定で、外交的解決の可能性を探る動きが続いています。

まとめ

トランプ大統領のグリーンランド取得構想は、単なる領土拡張の野心ではなく、対中戦略、レアアース確保、北極圏における覇権維持という複合的な目的を持っています。エスティ・ローダー創業家のローダー氏が提案した構想は、対中強硬派の後押しを受けて国家戦略へと昇格しました。

しかし、デンマークと欧州の強い反発、採掘の技術的・経済的課題、そして国際法上の問題など、実現への道のりは険しいものがあります。今後の外交交渉の行方と、北極圏をめぐる地政学的競争の展開に注目が集まります。

参考資料:

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