トランプ氏が新関税15%に引き上げ、発動前の方針転換
はじめに
トランプ米大統領は2026年2月21日、世界各国に対して発動を予定していた10%の新関税を「15%に上げる」と自身のSNSで表明しました。前日の20日に米最高裁がIEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく相互関税を違憲と判断し、代替措置として通商法122条に基づく10%の一律関税を発動するとしたばかりでした。
わずか1日での方針変更は「徹底的かつ詳細に精査した結果」とされていますが、市場関係者や各国政府に混乱を広げています。通商法122条は大統領に15%までの関税を150日間課す権限を与えており、15%への引き上げはこの法的上限を使い切る判断です。
本記事では、15%への引き上げの経緯と法的根拠、今後の追加関税措置の可能性、そして世界各国の反応について解説します。
1日で変わった方針の経緯
最高裁判決から新関税発動まで
2月20日、米連邦最高裁はIEEPAに基づく関税を6対3で違憲と判断しました。トランプ大統領は同日夜、通商法122条に基づく全世界一律10%の関税に署名し、2月24日午前0時1分(米東部時間)に発動すると表明しました。
しかし翌21日午前、トランプ氏はSNSで「10%を15%に引き上げる」と投稿しました。「即時発動」としながらも、元となる10%の関税自体がまだ発動していない段階での引き上げ表明であり、発動前の「予告変更」という異例の展開です。
なぜ15%なのか
15%という数字には法的な意味があります。通商法122条は、大統領が議会の承認なしに課すことのできる関税率の上限を15%と定めています。10%から15%への引き上げは、この法的上限を最大限に活用する判断です。
トランプ大統領は「今後数カ月のうちに法的に許容される新たな関税を決定する」とも述べており、通商法122条の関税はあくまで「つなぎ」の措置であり、より本格的な関税体系の構築を目指していることを示唆しています。
通商法122条の法的枠組み
150日間の時限措置
通商法122条は1974年に制定された通商法の一部で、「巨額かつ重大な国際収支赤字」への対処を目的として大統領に関税権限を与えています。ただしこの権限は無制限ではなく、150日間という時限が設けられています。
150日間を超えて関税を継続するには議会の承認が必要です。2月24日に発動した場合、議会の承認なしには7月下旬までしか維持できない計算です。トランプ政権がこの間に通商法301条などに基づく恒久的な関税体系を構築できるかが焦点となります。
法的リスクと訴訟の可能性
通商法122条に基づく関税も、法的挑戦を受ける可能性があります。ピーターソン国際経済研究所(PIIE)の分析によれば、122条は「国際収支赤字への対処」を目的としており、トランプ政権が主張する「巨額の貿易赤字」がこの要件に該当するかどうかは議論の余地があります。
これまで通商法122条を発動した大統領はおらず、法的な前例がありません。企業や業界団体が訴訟を起こした場合、再び裁判所の判断を仰ぐことになる可能性もあります。
世界各国の反応と影響
EUの対応
欧州連合(EU)はトランプ大統領の15%関税引き上げに対して警戒を強めています。フランスのフォリシエ貿易大臣は、EUは対応するための「ツールを持っている」と述べ、加盟国は「統一したアプローチ」を取るべきだとの考えを示しました。
欧州議会の貿易委員会は2月24日に米国との貿易協定に関する投票を予定していましたが、最高裁判決とトランプ大統領の新関税により、協定の将来は不透明になっています。EU委員会の報道官は、米国政府との「緊密な連絡」を維持しているとコメントしています。
日本を含むアジアへの影響
日本からの輸入品に対しては、IEEPA関税の下でも15%が課されていたため、通商法122条に基づく15%の関税は税率面では変化がありません。自動車や鉄鋼に対する分野別関税(通商拡大法232条)も従来通り維持されています。
ただし、今後の通商法301条に基づく国別調査の結果次第では、日本に対する個別の関税率が変更される可能性があります。アジア各国の政府は、新たな関税体系が自国の既存の貿易協定にどのような影響を与えるか、急いで分析を進めています。
市場への影響
発動前の税率変更という異例の事態にもかかわらず、金融市場の反応は比較的落ち着いています。122条の上限である15%は事前に予想されていた範囲内であり、「最悪のシナリオではない」との見方が広がっているためです。ある市場アナリストは「消費者と企業にとっては悪いニュースだが、サプライズではない」と指摘しています。
注意点・展望
最大の注目点は、150日間の期限が切れる7月下旬までに、トランプ政権がどのような恒久的関税体系を構築するかです。通商法301条に基づく国別調査は既に開始されており、中国やブラジルなどが名指しされています。
また、徴収済みのIEEPA関税の還付問題も未解決です。最高裁は還付について明示しておらず、企業が個別に訴訟を起こす必要がある可能性があります。推定数百億ドル規模の還付は、米国の財政にも影響を与えます。
1日で方針が変わるという不確実性の高さは、企業の投資判断やサプライチェーン構築に悪影響を及ぼします。貿易政策の予見可能性の低下は、中長期的には米国経済にとってもマイナスに働く可能性があります。
まとめ
トランプ大統領による新関税の10%から15%への引き上げ表明は、通商法122条の法的上限を使い切る判断です。150日間の時限措置であるため、この間に恒久的な関税体系が構築されるかが最大の焦点となります。
世界各国は新たな関税環境への対応を急いでいますが、方針が短期間で変更される不確実性が最大のリスクです。企業や投資家は、通商法301条に基づく国別調査の進展と、122条関税の期限が切れる7月下旬の動向に注意を払う必要があります。
参考資料:
- トランプ氏、世界一律関税の15%への引き上げを表明 - Bloomberg
- Trump’s new tariffs plan: How Section 122 and the 10% shift works - Axios
- How will Trump’s new 15 percent tariff fare in court? - PIIE
- Trump to raise US global tariff to 15% - Al Jazeera
- State of Tariffs: February 21, 2026 - Yale Budget Lab
- トランプ氏、新関税を15%へ引き上げ - 読売新聞
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