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by nicoxz

トランプ大統領、パウエルFRB議長「解任せず」の真意

by nicoxz
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はじめに

トランプ米大統領は2026年1月14日、ロイター通信との単独インタビューで、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長について「解任する計画はない」と発言しました。これは、パウエル議長への刑事捜査や政治圧力が報じられる中での発言であり、その真意に注目が集まっています。

同時にトランプ大統領は、数週間以内に次期FRB議長の人事を公表する意向も示しました。パウエル議長の任期は2026年5月15日に満了予定であり、早期の後任指名によりパウエル議長の影響力を低下させる狙いがあるとみられています。

本記事では、この発言の背景にあるパウエル議長への刑事捜査問題、次期議長候補、そして中央銀行の独立性を巡る議論について詳しく解説します。

パウエル議長への刑事捜査

異例の捜査開始

トランプ政権は司法省を通じて、パウエルFRB議長に対する刑事捜査に踏み切りました。捜査の表向きの理由は、総額25億ドル規模に及ぶFRB本部の建て替え計画を巡り、パウエル議長が議会で虚偽の証言を行った疑いがあるというものです。

司法省は2026年1月9日にパウエル氏への刑事訴追の可能性を示唆する大陪審への召喚状を送付しました。パウエル議長は1月11日、自身が刑事捜査の対象になったと公表し、これがトランプ大統領による政治圧力であると示唆する声明を動画で発表しました。

パウエル議長の反論

パウエル議長は声明で「前代未聞の事態は現政権の脅しと継続的な圧力という文脈で捉えられるべきだ」と述べ、「議会証言やFRBビル改修は『口実』に過ぎない」と主張しました。

さらに「刑事訴追の脅しはFRBが大統領の意向に従うのではなく、国民に資するため最善の判断に基づいて金利を設定してきた結果だ」と反論し、「FRBが証拠と経済状況に基づいた金利決定を続けられるか、金融政策が政治的圧力や脅しに指図されるかが問われている」と訴えました。

歴代FRB議長らの反発

この事態に対し、歴代FRB議長のジャネット・イエレン、ベン・バーナンキ、アラン・グリーンスパンの3氏と元財務長官4氏は、司法省によるパウエル議長捜査を非難する声明を発表し、中央銀行の独立性を損なうと強く警告しました。

ベッセント財務長官もトランプ大統領に対し、この捜査は混乱を招き金融市場に悪影響を及ぼしかねないと忠告したと報じられています。さらに、FRBを監督する上院銀行委員会の有力共和党メンバーであるティリス上院議員は、この問題が解決するまでトランプ大統領が指名するFRBの新議長の人事案に反対すると表明しました。

次期FRB議長候補

3人の有力候補

トランプ大統領が早期に指名を予定している次期FRB議長の候補者は、主に3人とされています。NEC(国家経済会議)のケビン・ハセット委員長、元FRB理事のケビン・ウォルシュ氏、そして現FRB理事のクリストファー・ウォラー氏です。

このうち、ハセット氏が最有力候補とみられています。ハセット氏は経済学者で、2017年から2019年まで第1次トランプ政権で経済諮問委員会(CEA)の委員長を務め、大型減税を推進した実績があります。

ハセット氏の評価

ハセット氏は博士号を持つ経済学者であり、FRBの元スタッフエコノミストという経歴も候補者としての優位性を支えています。トランプ大統領に対して強い忠誠心を見せており、積極的な利下げを支持する姿勢をアピールしています。

しかし、この点が金融市場の信認を下げている面があります。市場関係者の間では、ハセット氏が新議長となった場合、トランプ大統領の言いなりとなり、通貨・物価の安定が守られなくなるとの懸念があります。

ウォルシュ氏への期待

一方、ウォルシュ氏はバーナンキ議長の下でFRB理事を務めた際に物価の安定を重視し、タカ派的な姿勢を見せていました。金融市場はウォルシュ氏の方がトランプ大統領から距離があり、より通貨・物価の安定を守ることを期待しています。

トランプ大統領は2025年12月23日にSNSで「市場が好調なら、新しいFRB議長には利下げしてほしい」と投稿し、「私に反対する者は決してFRB議長にはならない!」と明言しており、候補者選びにおいて自身への忠誠度を重視する姿勢を鮮明にしています。

中央銀行の独立性を巡る攻防

独立性の歴史的意義

中央銀行の政府からの独立性は、長い歴史の中で生み出された「人類の英知の産物」といえるものです。深刻なインフレに見舞われた1960年代、70年代を経験した中央銀行の多くは、政治的な干渉を受けずに金利水準を定める裁量余地の拡大を求めて戦い、それを勝ち取りました。

日本でも西南戦争で政府が戦費調達のために通貨を大量発行し、それがハイパーインフレを招いた反省から、政府から独立した中央銀行である日本銀行が設立されたという経緯があります。

ボルカー議長の教訓

1970年代後半、米国は深刻なインフレに苦しんでいました。ポール・ボルカーFRB議長は急激なインフレを抑制するため、政策金利を過去最高の20%まで引き上げました。これは1981年から82年のリセッションを招きましたが、その後インフレは抑えられ、安定した経済成長の時代がもたらされました。

この経験は中央銀行の独立性を支持する強力な根拠となっています。政治的圧力に屈して安易な金融緩和を続ければ、長期的には通貨価値の下落とインフレを招き、国民生活を損なうリスクがあるからです。

トルコの教訓

近年の事例として、トルコの経験があります。エルドアン大統領がインフレ下で中央銀行に利下げを強いた結果、通貨リラが暴落し、経済と国民生活に深刻な混乱をもたらしました。

政府が金融政策に強く関与すれば、緩和的な金融政策の傾向が強まり、それが通貨価値の過度の下落を通じて国民生活を損ねてしまう恐れがあります。この教訓は、中央銀行の独立性がいかに重要かを示しています。

トランプ政権の他のFRB介入

クック理事への解任圧力

トランプ大統領はパウエル議長だけでなく、他のFRB理事に対しても圧力をかけています。2025年8月25日、住宅ローン申請書類を巡り不正を働いたとして、FRBのクック理事を解任する考えを示しました。

クック理事の弁護士は、トランプ大統領にクック理事を解任する権限はないと述べ、訴訟を提起すると表明。実際に8月28日、クック理事はワシントンの連邦裁判所に提訴し、中央銀行の独立性を巡るFRBと政治との法廷闘争が始まりました。

法的な制約

大統領がFRB理事を解任するには「正当な理由(for cause)」が必要であり、これは1935年の最高裁判決に基づき「非能率、職務怠慢、職務上の不正行為」が該当すると考えられています。政策金利の妥当性はこれに含まれず、解任の理由にはならない可能性が高いとされています。

パウエル議長は2024年11月FOMC後の記者会見において「(FRB議長の解任は)法律上認められていない」と明言しており、中央銀行の独立性を堅持する姿勢を強調しています。

注意点・展望

金融市場への影響

年明け早々にハセット氏が議長に指名されれば、金融市場では通貨価値や物価の安定に対する懸念が生じ、ドル安・債券安となる可能性があります。逆にウォルシュ氏が指名されれば、通貨価値・物価の安定に対する懸念が緩和され、ドル高・債券高の反応となりやすいと予想されています。

市場はすでにFedの独立性が損なわれるリスクに対し、長期金利が若干上昇し、ドルが若干下落する反応を見せています。投資家は今後の人事発表に細心の注意を払う必要があります。

議会承認のハードル

パウエル議長への刑事捜査は、皮肉にも後任議長の議会承認を難しくする可能性があります。ティリス上院議員のように、この問題が解決するまで新議長人事に反対する議員が出てきているためです。

トランプ大統領がFRBの独立性を軽視する候補者を指名すれば、超党派の反発を招く可能性があり、政治的な駆け引きが複雑化することが予想されます。

まとめ

トランプ大統領の「パウエル議長を解任する計画はない」という発言は、法的制約や政治的リスクを踏まえた現実的な判断と考えられます。しかし、早期の後任指名によりパウエル議長の影響力を低下させ、実質的に自身の意向に沿った金融政策を実現しようとする姿勢は明らかです。

中央銀行の独立性は、歴史的な教訓から生まれた重要な制度的枠組みです。政治的圧力に屈した金融政策はインフレや通貨価値の下落を招き、最終的には国民生活を損なうリスクがあります。

今後数週間以内に発表される次期FRB議長の人事は、米国の金融政策の方向性だけでなく、世界の金融市場にも大きな影響を与える重要なイベントとなります。投資家や市場関係者は、候補者の経歴や政策スタンスを注視していく必要があるでしょう。

参考資料:

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