パウエルFRB議長に刑事捜査、中央銀行の独立性が危機に
はじめに
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が、刑事捜査の対象となったことを1月11日に公表しました。FRB本部の改修工事をめぐる議会証言に関連した捜査とされていますが、パウエル氏は「トランプ政権による脅しと圧力継続の一環だ」と反発し、政治的動機を示唆しています。
トランプ大統領はFRBの利下げペースが遅いと批判を繰り返してきました。議長への刑事捜査という前代未聞の事態は、中央銀行の独立性を脅かすものであり、世界経済と基軸通貨ドルの安定に影を落としかねません。
本記事では、パウエル議長への捜査の経緯と背景、そしてFRBの独立性をめぐる問題について解説します。
刑事捜査の経緯
本部改修工事をめぐる問題
司法省は1月9日、パウエル議長に対し、大陪審への召喚状を送付しました。捜査の名目は、FRB本部の改修工事に関して2025年6月に上院銀行委員会で行った証言をめぐるものです。
改修工事は25億ドル(約3,800億円)に及ぶ大規模プロジェクトで、2022年に始まり、2027年に完了予定です。予算を7億ドル(約1,000億円)上回ると推定されており、トランプ政権は華美な内装計画が一因だと問題視しています。
パウエル議長の反論
パウエル氏は異例のビデオ声明を公開し、「この前代未聞の措置はトランプ政権の脅しと圧力継続の一環だ」と強く反発しました。刑事捜査は大幅利下げという「トランプ氏の好み」に従わなかったためだと断じています。
「FRBが証拠と経済状況に基づいた金利決定を続けられるか、金融政策が政治的圧力や脅しに指図されるかが問われている」と訴え、職務を継続する姿勢を明確にしました。
トランプ政権との対立
利下げ要求への抵抗
トランプ大統領は就任以来、FRBに対して大幅な利下げを繰り返し要求してきました。「金利が高すぎる」「景気を殺している」といった批判を公然と行い、パウエル議長個人への攻撃も辞さない姿勢を見せてきました。
FRBはインフレ抑制と雇用の安定という二重の使命(デュアルマンデート)に基づき、経済指標を見ながら慎重に金融政策を決定しています。パウエル議長は、政治的な要求ではなく、データに基づいた政策決定を一貫して主張してきました。
クック理事への解任通告
トランプ政権はFRBへの圧力をエスカレートさせています。リサ・クック理事には解任を通告するなど、FRB理事会の構成にも介入を試みています。
中央銀行の人事に政治が介入することは、金融政策の独立性を損なうものとして、これまで忌避されてきました。しかし、トランプ政権は前例にとらわれない姿勢で、FRB支配を強めようとしています。
中央銀行の独立性の危機
歴代議長・財務長官が非難
パウエル議長への刑事捜査について、歴代のFRB議長3人(イエレン、バーナンキ、グリーンスパン)と元財務長官4人が連名で非難声明を発表しました。「中央銀行の独立性を損なう」と強く警告し、政権の行動を批判しています。
これほど多くの金融政策の重鎮が声をそろえて批判することは異例であり、事態の深刻さを物語っています。
世界経済への影響
FRBは世界最大の経済大国である米国の金融政策を司り、基軸通貨ドルの安定を担っています。その独立性が損なわれれば、ドルへの信認が揺らぎ、世界経済に無用の混乱をもたらしかねません。
金融市場では、政治介入によりFRBが適切な金融政策を実行できなくなるリスクが意識され始めています。ベッセント財務長官も、この捜査は混乱を招き金融市場に悪影響を及ぼしかねないとトランプ大統領に忠告したと報じられています。
今後のシナリオ
議長任期と後継人事
パウエル氏の議長任期は2026年5月に終了します。トランプ大統領は「即座の利下げ」を条件に、早ければ1月中にも次期議長を指名する意向を示しています。
しかし、FRBを監督する上院銀行委員会の有力共和党議員ティリス氏は、この問題が解決するまでトランプ大統領が指名するFRB新議長の人事案に反対すると表明しました。後任人事が難航する可能性があります。
「影の議長」の可能性
パウエル氏が辞任や解任に追い込まれた場合、トランプ大統領が指名する後継者が市場の信認を得られるかは不透明です。正式な議長が機能しない中で、市場が独自に「影の議長」的な存在を想定するような混乱も懸念されています。
また、新議長にも訴追をちらつかせることで、トランプ政権がFRBへの支配を強める可能性も指摘されています。
金融政策への影響
政策決定の独立性
中央銀行の独立性は、インフレ抑制において極めて重要です。政治家は往々にして景気刺激を優先し、低金利を求めがちですが、それがインフレを招くことがあります。独立した中央銀行が長期的な視点で金融政策を決定することで、物価の安定が保たれてきました。
FRBが政治的圧力に屈すれば、金融政策の信頼性が損なわれ、インフレ期待が不安定化するリスクがあります。
市場への影響
すでに金融市場では、FRBの独立性低下への懸念から、長期金利やドル相場に変動が見られます。政治リスクが金融政策に影響を与えるという前例ができれば、市場のボラティリティは高まる可能性があります。
まとめ
パウエルFRB議長への刑事捜査は、中央銀行の独立性をめぐる重大な局面を示しています。表向きは本部改修工事に関する議会証言をめぐる問題ですが、トランプ政権による利下げ圧力の一環との見方が広がっています。
歴代のFRB議長や財務長官が異例の非難声明を発表するなど、事態は深刻さを増しています。FRBの独立性が損なわれれば、米国経済のみならず、基軸通貨ドルを介して世界経済全体に影響が及ぶ可能性があります。議会を中心にトランプ大統領の行動に歯止めをかけ、FRBの独立性を守れるかどうかが問われています。
参考資料:
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