Research

Research

by nicoxz

英政府が香港BNOビザ拡充、ジミー・ライ氏禁錮20年を受け

by nicoxz
URLをコピーしました

はじめに

2026年2月9日、英国政府は香港市民向けの特別ビザ制度「BNO(英国海外市民)ビザ」の拡充を発表しました。この決定は、香港の民主派新聞「蘋果日報(アップル・デイリー)」創業者で英国籍を持つ黎智英(ジミー・ライ)氏(78歳)に対して禁錮20年の量刑が言い渡されたことを直接の契機としています。

香港では2020年に施行された国家安全維持法のもと、言論や政治活動への統制が強まっており、国際社会からの懸念が高まっています。英国が移民受け入れ政策を拡充したことは、香港の自由に対する国際的な対応の新たな一歩です。

ジミー・ライ氏への禁錮20年判決

国安法裁判の経緯

ジミー・ライ氏は、2020年に施行された香港国家安全維持法(国安法)に基づき、「外国勢力との共謀」2件と「扇動的出版物の共謀」1件で起訴されました。2025年12月に有罪判決を受けた後、2026年2月9日に禁錮20年の量刑が確定しています。

この20年という量刑は、国安法に基づく裁判としては過去最も重いものです。ライ氏の弁護団は健康上の理由による減刑を求めましたが、裁判所はこれを認めませんでした。78歳という年齢を考慮すると、人権団体からは「事実上の終身刑」との指摘が出ています。

アップル・デイリーの廃刊と報道の自由

ライ氏が創刊した「蘋果日報」は、香港で最も読まれた民主派メディアの一つでした。2021年6月、当局による資産凍結と警察の強制捜査により、約1,800万香港ドル(約2億3,200万円)の資産が凍結され、従業員への給与支払いが不可能となり廃刊に追い込まれました。最終号は100万部を売り上げ、香港市民の支持を象徴する出来事となりました。

アップル・デイリーの廃刊以降、香港では900人以上のジャーナリストが職を失い、複数のメディアが閉鎖または海外への移転を余儀なくされています。報道の自由をめぐる環境は大きく変化しました。

英政府によるBNOビザ制度の拡充

新たな対象者

英政府が発表した制度拡充の核心は、BNO資格保有者の成人した子どもが単独で申請できるようになった点です。従来は親の申請に付随する形でしか申請できなかった成人の子どもたちが、独立してビザを取得できるようになります。

具体的には、1997年の香港返還時に18歳未満だったBNO資格保有者の子どもが対象です。申請者のパートナーや子どもも同行が可能です。英政府は、この拡充により今後5年間で約2万6,000人が英国に到着すると推計しています。

BNOビザ制度の実績

BNOビザ制度は2021年1月31日に導入されました。2025年3月までに約16万3,400人が英国に到着しており、ビザの発給数は累計で約17万9,000件に達しています。移住者は主に30代から40代が中心で、約70%が大学卒業者、約39%が専門職の経歴を持つ層です。

ただし、申請件数は2021年第2四半期のピーク時(2万5,000件超)から徐々に減少傾向にあります。今回の制度拡充は、新たな対象者を加えることで移住ルートの間口を広げる狙いがあります。

BNOとは何か

BNO(British National Overseas:英国海外市民)とは、1997年の香港返還前に英国が香港住民に付与した特殊なパスポート資格です。返還後も有効ですが、従来は英国への居住権を伴うものではありませんでした。2020年の国安法施行を受けて英国政府がビザ制度を創設し、BNO保有者に英国での居住・就労の道を開きました。

国際社会の反応と中国の反発

中国の強い反発

中国は英国の決定に対して厳しい非難を表明しました。在ロンドン中国大使館は、ビザ制度の拡充を「卑劣で非難すべき」行為と批判し、内政干渉であると主張しています。中国側は一貫して、香港問題への外国政府の関与を「一国二制度」の原則に反するものとして反対してきました。

国際的な懸念の広がり

ライ氏への禁錮20年判決は、米国やEUなど各国政府からも批判を受けています。ヒューマン・ライツ・ウォッチは判決を「でっち上げの国安法違反」と評し、アムネスティ・インターナショナルは「報道の自由にとって最も暗い日」と表現しました。国際社会では、香港における法の支配と人権の状況に対する懸念が強まっています。

注意点・展望

BNOビザ制度の拡充は、香港市民にとって重要な選択肢を提供するものですが、いくつかの課題もあります。

まず、BNO資格を持たない若い世代の香港市民は対象外という点です。1997年の返還後に生まれた世代はBNO資格を持っておらず、今回の拡充の恩恵を受けることができません。香港の自由が最も制約されている中で育った世代が制度の対象外となる矛盾があります。

また、英国に移住した香港市民の定着支援も課題です。言語や文化の壁、資格の互換性、住居確保など、移住後の生活基盤を築くための包括的な支援体制の充実が求められます。

今後の展開としては、中国と英国の外交関係への影響が注目されます。英国は人権問題での毅然とした対応と、経済・通商関係の維持という二つの目標のバランスを取る必要があります。

まとめ

ジミー・ライ氏への禁錮20年判決を受けた英国のBNOビザ拡充は、香港における自由の縮小に対する具体的な政策対応です。2021年の制度導入以来、16万人以上が英国に移住しており、今回の拡充でさらに数万人に門戸が開かれます。

香港からの人材流出は、香港の国際金融センターとしての地位にも影響を与える可能性があります。国安法施行以降の香港の変容と、それに対する国際社会の対応は、今後も重要な国際問題として注視が必要です。

参考資料:

関連記事

最新ニュース