米関税「違憲」判決後の返還と代替措置を解説
はじめに
2026年2月20日、米連邦最高裁判所は歴史的な判決を下しました。国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいてトランプ大統領が発動した関税は違法であるとし、6対3の評決で無効を宣言したのです。
これを受けてトランプ政権は即座に対応し、2月24日から1974年通商法第122条に基づく10%の代替関税を150日間の期間限定で発動しました。一方、IEEPAの下で既に徴収された1,600億ドル(約24兆円)超の関税の返還については、道筋が見えない状況が続いています。
この記事では、最高裁判決の意味、代替関税の内容、そして企業が取るべき返還請求の対応策について解説します。
最高裁判決の内容と意義
IEEPA関税はなぜ違法とされたか
IEEPAは1977年に制定された法律で、国家緊急事態に際して大統領に経済的な制裁権限を与えるものです。トランプ大統領はこの法律を根拠に、2025年の「解放の日」関税をはじめとする広範な相互関税やフェンタニル関税を発動しました。
最高裁は「Learning Resources, Inc. v. Trump」事件において、IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていないと判断しました。判決は、関税の賦課は議会の権限に属するものであり、IEEPAの「経済取引の規制」という文言は関税の賦課を含まないと解釈しました。
この判決は、大統領の通商政策に対する大きな制約を意味します。議会の承認なしに広範な関税を発動する手段が一つ封じられたことになります。
判決の射程範囲
この判決により無効とされたのは、IEEPAに基づくすべての関税です。具体的には、各国に対する相互関税(国によって10%から25%以上まで異なる税率)、中国やカナダ、メキシコに対するフェンタニル関税、そしてその他のIEEPA根拠の追加関税が含まれます。
ただし、鉄鋼・アルミニウムに対する関税(通商拡大法第232条に基づくもの)や、自動車関税など、IEEPA以外の法的根拠に基づく関税は引き続き有効です。
代替関税の発動:通商法第122条とは
10%暫定輸入追加税の概要
トランプ大統領は最高裁判決の当日(2月20日)に布告を発出し、1974年通商法第122条に基づく10%の暫定輸入追加税(temporary import surcharge)を発動しました。適用開始は2月24日で、150日間(7月23日まで)の期限付きです。
通商法第122条は、大統領が国際収支の悪化に対応するために、最大150日間、最大15%の追加関税を課すことを認めています。150日を超えて延長するには議会の承認が必要です。
IEEPA関税との違い
代替関税はいくつかの点でIEEPA関税とは大きく異なります。
まず税率です。IEEPA関税では国ごとに異なる高率の関税(中国には最大145%など)が課されていましたが、第122条の関税は一律10%です。多くの輸入事業者にとっては負担が大幅に軽減されることになります。
次に期間です。第122条の関税は最大150日間に限定されており、IEEPAのように無期限に続けることはできません。7月23日以降も関税を維持するには、議会が新たな立法措置を講じる必要があります。
さらに、第232条(安全保障関連)の関税との重複適用は行わないという非累積ルールが設けられており、既に第232条関税が課されている品目については二重課税が回避される仕組みです。
関税返還の行方
1,600億ドル超の返還問題
CBPのデータによると、2025年12月中旬時点でIEEPA関税として約1,335億ドルが30万1,000社超の輸入事業者から、3,400万件以上の輸入取引を通じて徴収されています。2026年2月の判決時点までの総額は1,600億ドルを超えるとみられ、一部推計では1,750億ドル(約26兆円)に達する可能性があります。
最高裁は判決において、徴収済み関税の返還については具体的な指針を示しませんでした。返還の問題は国際貿易裁判所(CIT)に差し戻されています。
返還を受けるための二つの方法
企業が関税返還を請求するには、主に二つの方法があります。
CBPへの行政上の異議申立て(プロテスト): 輸入品の関税が確定(リキデーション)された日から180日以内に、CBPに対して異議を申し立てることができます。IEEPA関税の最初の確定は2025年12月中旬頃に始まっており、最初の異議申立て期限は2026年6月中旬と見込まれています。
国際貿易裁判所(CIT)への訴訟提起: 裁判所にCBPへの返還を命じるよう求める方法です。最高裁判決前の時点で、すでに2,000社以上がCITに訴訟を提起していました。フェデックスやコストコ、レブロンなどの大手企業も訴訟を通じた返還請求を進めています。
返還の見通し
法律専門家によると、返還プロセスが確立されるまでには数か月から数年かかる可能性があります。CBPが自主的に返還手続きを設けるか、裁判所がCBPに返還を命じるか、あるいは議会が立法で対処するか、複数のシナリオが考えられます。
重要なのは、最高裁がIEEPA関税を「違法」と断じた以上、法的には返還請求の根拠が明確にあるという点です。ただし、実務的にいつ、どのように返還されるかは不確定です。
注意点・展望
企業が今すぐ取るべきアクション
法律事務所各社は、輸入事業者に対して以下の対応を推奨しています。まず、IEEPA関税が含まれる過去の輸入取引を特定し、確定日と異議申立て期限を把握することです。次に、CBPへの異議申立てと訴訟の両方を並行して検討することが重要です。
また、CBP、司法省、財務省から今後発表される返還手続きに関するガイダンスに注意を払い、必要な書類を準備しておくことが求められます。
150日後の不確実性
代替関税は7月23日に期限を迎えます。それまでにトランプ政権が議会と協力して新たな関税法案を成立させるか、あるいは関税なしの状態になるかは不透明です。政権は150日の間に新たな関税の法的枠組みを整備する方針とされていますが、議会での審議がどう進むかは予断を許しません。
まとめ
米最高裁のIEEPA関税違法判決は、米国の通商政策に大きな転換点をもたらしました。トランプ政権は通商法第122条による10%の代替関税を150日限定で発動しましたが、これは暫定措置に過ぎません。
企業にとって最も重要なのは、1,600億ドル超の返還請求をどう進めるかです。CBPへの異議申立てと訴訟の両面から権利を保全し、今後の公的ガイダンスを注視することが求められます。150日後の通商政策の行方も含め、不確実性が続く中で、的確な情報収集と法的対応が不可欠です。
参考資料:
- Supreme Court Strikes Down IEEPA Tariffs: What Importers Need to Know Now - Holland & Knight
- Supreme Court Tariff Ruling: IEEPA Revenue and Potential Refunds - Penn Wharton
- Post-SCOTUS Tariff Reset: Trump Replaces IEEPA Duties with Section 122 - National Law Review
- Supreme Court rules that Trump’s sweeping emergency tariffs are illegal - CNN
- Supreme Court Trump Tariffs Ruling: Analysis - Tax Foundation
- Tariffs Redux: What Importers Should Know About IEEPA Refunds and Section 122 - Snell & Wilmer
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