米軍がロシア国旗タンカー拿捕、ベネズエラ石油制裁を強化
はじめに
米軍は2026年1月7日、ベネズエラを出入りする石油タンカー2隻を拿捕したと発表しました。1隻はロシア国旗を掲げて航海していましたが、米国は「偽装で無国籍」と認定しています。ロシア政府は同船が自国籍であるとして反発しており、米ロ関係に新たな緊張をもたらす可能性があります。
トランプ政権はベネズエラへの軍事介入を実施し、石油資源の確保を進めています。「影の船団」と呼ばれる制裁逃れの船舶への取り締まり強化は、その一環として位置づけられています。
拿捕の経緯
マリネラ号の追跡
米当局が拿捕したタンカーの1隻は、ロシア船籍の「マリネラ」(旧名ベラ1)です。同船は2025年12月から大西洋で米当局の追跡を受けており、その間に船籍をロシアに変更していました。
マリネラ号は2025年8月19日にイランのハルグ島付近で衛星画像により確認され、12月17日にイランを出航してベネズエラに向かいました。米沿岸警備隊はこの動きを察知し、追跡を開始しました。
臨検の拒否
12月21日、米沿岸警備隊はカリブ海で同船が有効な国旗を掲げていないと判断し、国際法に基づき臨検を試みました。しかし、マリネラ号はこの命令に従わず航行を続けました。
2026年1月1日、同船は大西洋上に現れ、米沿岸警備隊の追尾が再開されました。1月6日にはアイルランド沖約500マイルの地点で米軍が追跡しているとの報道があり、翌7日に拿捕されました。
2隻目のタンカー
カリブ海で拿捕されたもう1隻のタンカーは「ソフィア」号です。米南方軍はこれを無国籍船と認定し、米沿岸警備隊が米国に移送していると説明しています。
英国防省も、米国からの要請を受けてマリネラ号の拿捕を支援したことを明らかにしました。
米国の主張
「影の船団」との認定
米ホワイトハウスのレビット大統領報道官は記者会見で、マリネラ号がロシア国旗を掲げて航海していたものの、「偽装で無国籍」と認定したと説明しました。
報道官は、同船を身元や活動を隠しながら石油を運ぶ「影の船団(シャドーフリート)」の一部だと述べました。影の船団とは、制裁対象国の石油を密かに輸送する船舶のネットワークを指し、ロシアやイラン、ベネズエラの制裁逃れに使われているとされています。
制裁の取り締まり強化
トランプ政権はベネズエラに対する制裁の取り締まりを強化しています。1月初頭には、トランプ政権がタンカー拿捕の警告を発したことで、ベネズエラを回避する石油タンカーが増えているとの報道もありました。
ロシアの反発
国際法違反との主張
ロシア運輸省は米軍による拿捕を非難しました。1982年の国連海洋法条約の下では「いかなる国も他国で適切に登録された船舶に対して武力を行使する権利はない」と主張しています。
ロシア側は、マリネラ号がロシアに正式に登録された船舶であるとの立場を取っています。
乗組員の処遇を要求
ロシア外務省は、タンカーに乗船しているロシア国民の「人道的かつ尊厳ある待遇」の確保と、早期の帰国を米国に要求しました。
米ロ関係への影響
緊張の高まり
今回の拿捕は、すでに悪化している米ロ関係にさらなる緊張をもたらす可能性があります。ロシアはウクライナ侵攻以降、西側諸国から厳しい経済制裁を受けており、石油輸出は重要な外貨獲得源となっています。
ベネズエラ、イラン、ロシアは米国の制裁対象国であり、これらの国々の間での石油取引に対する米国の取り締まりが強化されています。
法的な争点
米国とロシアは、マリネラ号の船籍について異なる見解を示しています。米国は無国籍と主張し、ロシアは自国籍と主張しています。国際法上、公海上での船舶の拿捕は船籍国の同意なく行うことは原則として認められていないため、法的な争いに発展する可能性があります。
ベネズエラ情勢との関連
トランプ政権のベネズエラ政策
トランプ政権はベネズエラのマドゥロ政権に対して強硬姿勢を取っており、軍事作戦を実施して石油の確保を進めています。今回のタンカー拿捕も、ベネズエラへの圧力強化の一環として位置づけられます。
石油資源の確保
トランプ大統領は自身のSNSで「ベネズエラ暫定当局が高品質の石油3000万〜5000万バレルを米国に引き渡す」と投稿しており、ベネズエラの石油資源の確保を進めています。
影の船団とは
制裁逃れの手法
影の船団とは、制裁対象国の石油を密かに輸送する老朽船舶のネットワークです。船名や船籍を頻繁に変更し、位置情報発信装置(AIS)をオフにするなどして追跡を逃れます。
ロシアのウクライナ侵攻以降、西側の制裁を逃れるためにロシア産原油の輸送に使われる影の船団の数が急増したとされています。
国際社会の対応
影の船団は環境・安全上のリスクも指摘されています。老朽船舶が多く、事故や原油流出のリスクが高いためです。国際社会では、影の船団に対する規制強化の議論が進んでいます。
まとめ
米軍によるロシア国旗を掲げた石油タンカーの拿捕は、ベネズエラに対する制裁強化とともに、米ロ関係にも新たな緊張をもたらしています。米国は「無国籍の影の船団」と主張し、ロシアは「自国籍船への違法行為」と反発しており、法的・外交的な争いに発展する可能性があります。
トランプ政権が「力による秩序」を追求する中、国際法と米国の利益追求の間での対立が表面化しています。
参考資料:
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