トランプ政権のベネズエラ石油封鎖、260兆円利権争奪戦の実態

by nicoxz

はじめに

2025年12月16日、トランプ米大統領はベネズエラを出入りする制裁対象の石油タンカーに対する「完全かつ徹底的な封鎖」を命じました。この決定は、表向きは麻薬カルテル対策を掲げていますが、真の狙いは世界最大303億バレル(推定価値260兆円相当)の石油埋蔵量にあるとの見方が強まっています。

2026年1月3日には米軍がベネズエラを武力攻撃し、マドゥロ大統領を拘束するという前代未聞の事態に発展しました。この一連の動きは「新モンロー主義」あるいは「ドンロー主義」と呼ばれ、トランプ政権の中南米支配戦略を象徴しています。

本記事では、ベネズエラの石油利権を巡る米中ロの思惑、封鎖の実態、そして国際秩序への影響について、複数の情報源を基に詳しく解説します。

ベネズエラの石油資源:世界最大の埋蔵量

303億バレル、世界の17%を占める

ベネズエラは2024年時点で約303億バレルの確認石油埋蔵量を有しており、これは世界全体の約17%に相当します。この数字はサウジアラビアを上回り、ベネズエラを世界最大の石油埋蔵国としています。

埋蔵量の大部分は、ベネズエラ東中部内陸に広がるオリノコ・ベルト(Orinoco Belt)と呼ばれる地質学的構造に集中しています。この地域は約55,000平方キロメートルに及び、米国地質調査所(USGS)の包括的評価によれば、オリノコ・ベルト単独で9,000億〜1兆4,000億バレルの石油資源が存在すると推定されています。

巨大埋蔵量の「落とし穴」

しかし、ベネズエラの石油には大きな課題があります。303億バレルのうち200億バレル以上が、API比重10度以下という超重質原油(extra-heavy crude oil)で構成されています。この種の原油は粘度が高く、精製に複雑で高コストなプロセスを必要とします。

そのため、世界最大の埋蔵量を誇りながらも、ベネズエラの実際の石油生産量は2024年時点で日量約96万バレルにとどまり、世界第21位に過ぎません。これは1970年代のピーク時に日量350万バレルを生産していたことと比べると、劇的な減少です。

260兆円の試算根拠

報道される「260兆円」という数字は、303億バレルの原油価格を基に算出されたものと考えられます。1バレル当たり80〜100ドルで計算すると、総額は2兆4,000億〜3兆300億ドル(約350兆〜440兆円)規模になり、開発コストや精製の困難さを考慮すれば、実質的な利権価値は260兆円前後という評価になります。

トランプ政権による石油タンカー封鎖の実態

段階的にエスカレートした軍事圧力

トランプ政権のベネズエラへの圧力は段階的に強化されてきました。2025年9月からベネズエラ近海で船舶への攻撃を開始し、11月には空母ジェラルド・R・フォード、駆逐艦3隻、総勢15,000人という過去に例のない大規模攻撃編成をカリブ海に展開しました。

12月10日には超大型原油タンカー「スキッパー」を拿捕。これは2019年にベネズエラとの石油貿易を禁止する制裁措置を発動して以来、初めての実際の拿捕事例でした。

「完全封鎖」の意味

12月16日のトランプ大統領による「完全かつ徹底的な封鎖」命令は、マドゥロ政権を支援する石油を輸送する船舶を拿捕すると警告するもので、実際にベネズエラを回避する石油タンカーが増加しています。

ベネズエラ軍はタンカーの護衛を開始したと報じられており、両国間の軍事的緊張が高まっています。米国の封鎖命令とベネズエラ軍の護衛という構図は、海上での武力衝突リスクを現実のものとしています。

原油の「引き渡し」要求

2026年1月6日、トランプ大統領はベネズエラの暫定当局が制裁対象の高品質石油3,000万〜5,000万バレルを米国に引き渡すと発表しました。その収益は「ベネズエラ国民と米国民双方の利益のために」トランプ氏自身が管理するとされています。

この発表は、石油資源の直接的な収奪とも受け取れる内容で、国際法上の正当性について多くの疑問が呈されています。

表向きの理由と真の狙いの乖離

「麻薬カルテル対策」という名目

トランプ政権はマドゥロ大統領を「麻薬カルテルのボス」と呼び、米国への麻薬密輸を阻止するという名目で軍事行動を正当化しています。2025年12月、米議会に対して麻薬カルテルとの「武力紛争」状態にあると通知しました。

2025年2月には、トレン・デ・アラグアを含む8つのラテンアメリカ犯罪組織を「外国テロ組織」に指定し、中南米の犯罪組織や麻薬カルテルを外国テロ組織に指定する大統領令に署名しました。

矛盾する事実

しかし、米国務省と米麻薬取締局(DEA)のデータによれば、ベネズエラは主にコカインの通過国であり、米国で社会問題化しているフェンタニルの圧倒的多数はメキシコで生産されています。原料となる前駆物質は中国やインドから調達されており、ベネズエラがフェンタニル問題の主要原因とは言えません。

麻薬問題を理由にするならば、メキシコに対する軍事行動の方が論理的ですが、トランプ氏は1月4日の会見で「メキシコにも対策を求める」と述べるにとどまり、ベネズエラのような直接的な武力行使には言及していません。

石油利権という真の目的

トランプ大統領自身が、ベネズエラの石油資源に狙いを定めていることを隠していません。ブルームバーグの報道によれば、トランプ政権は「反米マドゥロ政権が中国やロシアとの貿易を拡大することで、米国にとって『自国の裏庭』である南北アメリカ大陸を米国領土として支配しようとする政権の構想に反する」と判断しています。

CNN Businessの分析では、ベネズエラには石油以外にも米国が必要とするレアアースや鉱物資源が豊富に存在すると報じられており、資源全体への野心が背景にあることが示唆されています。

中国・ロシアとの利権争奪戦

中国の圧倒的なプレゼンス

ベネズエラの石油をめぐる国際的な争奪戦において、中国は最大のプレーヤーです。中国は米国の制裁下にあるベネズエラ産原油の約80%を輸入し、同国経済を支えてきました。

2023年9月、マドゥロ大統領と習近平国家主席が会談し、両国関係を「全天候型戦略的パートナーシップ」に格上げすると宣言しました。ベネズエラの全歳入の95%を石油収入が占め、その最大輸出先が中国であることから、両国は経済的に深く結びついています。

中国の政府系企業と民間企業は競うようにベネズエラの油田開発・精製に資金・技術両面で協力しており、中国石油化工(SINOPEC)単独でベネズエラにおいて約28億バレルの石油権益を保有していると報じられています。これにロシアのロスザルベズネフチと中国石油天然気集団(CNPC)が続きます。

債務と原油の交換スキーム

中国とロシアからの融資は、石油現物で返済するスキームとなっています。ベネズエラ政府は膨らんだ中国への債務の多くを原油で支払う形となっており、事実上、将来の石油生産が担保に入っている状態です。

この構造により、中国はベネズエラの石油資源に対する長期的な権利を確保しており、米国の介入は中国の既得権益を脅かすものと受け止められています。

中国の「激しい怒り」

2026年1月の米軍によるベネズエラ武力攻撃とマドゥロ大統領拘束に対し、中国外務省は「激しい怒り」を表明しました。中国がマドゥロ氏の釈放を訴え米国を非難したものの、具体的な軍事支援や経済支援には踏み込んでいません。

これは、中国が米国との全面対立を避けつつ、ベネズエラでの権益保護という実利を優先する姿勢を示しています。ブルームバーグの分析によれば、中国・ロシア企業が保有するベネズエラ石油権益は先行き不透明になっており、トランプ政権の攻勢により状況は流動的です。

ロシアの立場

ロシアにとってベネズエラは、米国に対抗し「OPECプラス」として協調する産油国パートナーという戦略的意義があります。しかし、ウクライナ戦争に注力している現状では、ベネズエラへの軍事的支援は限定的にならざるを得ません。

「新モンロー主義」と「ドンロー主義」

モンロー主義の歴史的背景

モンロー主義は、1823年に第5代米国大統領ジェームズ・モンローが議会演説で発表した外交方針で、南北アメリカ大陸とヨーロッパ大陸間の相互不干渉を提唱しました。その核心は「西半球(南北アメリカ)はヨーロッパ列強の介入を許さない米国の勢力圏である」という宣言でした。

20世紀初頭には、セオドア・ルーズベルト大統領が「ルーズベルト補論」を加え、中南米諸国への直接介入を正当化する論理として利用されました。

トランプ版「ドンロー主義」

2025年12月に公表された第2次トランプ政権の国家安全保障戦略(NSS)では、重点地域として西半球が最初に挙げられ、「モンロー主義トランプ補論(Trump Corollary to the Monroe Doctrine)」と名付けられています。

2026年1月、ベネズエラを攻撃してマドゥロ大統領夫妻を拘束した際、トランプ大統領は「モンロー主義」と自身の名前「ドナルド」を合成した「ドンロー主義(Donroe Doctrine)」という造語に言及しました。

従来のモンロー主義との違い

野村総合研究所の木内登英氏の分析によれば、トランプ補論は従来のモンロー主義から大きく変質しています。中南米地域への欧州の介入を防ぐというものから、米国が中南米地域を中心とする「西半球」への支配を進めることで、米国の国益を最大限高めていくことを目指すものです。

これはベネズエラだけでなく、パナマ運河権益の回復、デンマーク領グリーンランド買収、カナダを51番目の州にするといった一連の政策に共通する思想で、西半球を米国の影響下に置こうとする「新植民地主義」とも評されています。

国際秩序への挑戦

時事通信の報道によれば、トランプ政権の方針は欧米メディアで「国際法より国益優先」と批判されています。主権国家への一方的な軍事介入は、第二次世界大戦後に確立された国際秩序の根幹を揺るがすものです。

東洋経済オンラインは「トランプ流『力による解決』の衝撃」として、国内異論を押し切った強硬策が新たな火種を呼び起こすと警告しています。

国際社会と日本への影響

同盟国の懸念

トランプ政権のベネズエラ攻撃は、NATO同盟国を含む国際社会に衝撃を与えました。主権国家への一方的な武力行使は、国連憲章が禁じる侵略行為に該当する可能性があります。

欧州諸国は公式には非難を避けていますが、内部では「米国の一方的行動主義」への懸念が高まっています。ベネズエラ危機は、ウクライナ戦争とは異なる文脈で、米国の国際法軽視姿勢を露呈させました。

日本への影響

ダイヤモンド・オンラインの分析は、「アメリカにはもう頼れない」とするトランプ大統領のベネズエラ攻撃で露わになった日本の深刻なリスクを指摘しています。

野村総合研究所の木内氏は、トランプ政権が日本に防衛費の負担増加を要求し、それを実現する中で財政悪化が加速しかねず、円安・長期金利上昇を通じて日本経済の逆風となると分析しています。

安全保障面でも、米国が「力の論理」を優先する姿勢は、日本の対中国・対北朝鮮政策に影響を与える可能性があります。米国の一方的行動が国際法の枠組みを弱体化させれば、日本自身も無法な行動の被害を受けるリスクが高まります。

エネルギー市場への波及

ベネズエラの石油生産が混乱すれば、日量96万バレルという規模は小さいものの、世界のエネルギー市場に心理的な影響を与える可能性があります。特に、中国が輸入する原油の約8%をベネズエラに依存している点は注目されます。

中国が代替供給源を中東やロシアに求めれば、原油価格の上昇圧力となり、日本を含む輸入国にとってコスト増要因となります。

注意点と今後の展望

軍事的エスカレーションのリスク

ベネズエラ軍がタンカー護衛を強化している中、米軍との偶発的な武力衝突リスクは高まっています。カリブ海での海上封鎖は、冷戦期のキューバ危機を想起させる緊張状態です。

中国やロシアがベネズエラへの軍事支援を強化すれば、代理戦争に発展する可能性も否定できません。

マドゥロ後のベネズエラ

米国が拘束したマドゥロ大統領の後継体制をどう構築するかは不透明です。親米政権を樹立できたとしても、ベネズエラ国内の反米感情や中国・ロシアの影響力を排除するのは容易ではありません。

イラク戦争後の混乱が示すように、軍事介入後の国家再建は長期化し、莫大なコストを要する可能性があります。

中国の対抗措置

中国は当面、ベネズエラへの直接的な軍事介入は避けるとみられますが、経済面での対抗措置は予想されます。米国企業への制裁、レアアース輸出規制の強化、ドル建て取引の削減など、経済戦争がエスカレートする可能性があります。

トランプ政権の次の標的

トランプ政権の「ドンロー主義」は、パナマ、グリーンランド、カナダにも向けられています。ベネズエラでの「成功」が他の地域への介入を正当化する前例となれば、西半球全体が不安定化するリスクがあります。

石油開発の技術的課題

仮に米国がベネズエラの石油資源へのアクセスを確保できたとしても、超重質原油の精製には高度な技術と巨額の投資が必要です。採算性を確保できるかは不透明で、「260兆円の利権」が額面通りの価値を生むとは限りません。

まとめ

トランプ政権によるベネズエラ石油タンカーの全面封鎖は、表向きの麻薬対策ではなく、世界最大303億バレル(推定260兆円相当)の石油利権獲得を真の目的としています。2026年1月の武力攻撃とマドゥロ大統領拘束は、「新モンロー主義」あるいは「ドンロー主義」と呼ばれる西半球支配戦略の一環です。

ベネズエラの石油資源を巡っては、米国だけでなく、原油の80%を輸入する中国、戦略的パートナーシップを結ぶロシアが権益を有しており、三大国の利権争奪戦の様相を呈しています。中国の「激しい怒り」とロシアの警戒は、この対立の深刻さを物語っています。

トランプ政権の一方的な軍事介入は国際法を軽視するもので、第二次世界大戦後の国際秩序を揺るがしています。日本を含む同盟国は、米国の「力の論理」優先姿勢に懸念を抱きつつ、自国への影響を注視しています。

今後は、カリブ海での軍事的緊張の行方、マドゥロ後のベネズエラ体制、中国の対抗措置、そしてトランプ政権の次の標的が焦点となります。260兆円の石油利権は、21世紀の新たな国際紛争の火種となりつつあります。

参考資料:

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