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by nicoxz

ワコールが追う中国発「ゴーストベンダー」の実態と対策

by nicoxz
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はじめに

中国発の模倣品が日本市場に大量に流入し、消費者被害が深刻化しています。OECDとEUIPOが2025年5月に公表した報告書「Mapping Global Trade in Fakes 2025」によれば、2021年時点で世界の模倣品貿易額は約4,670億ドル(世界輸入総額の約2.3%)に達しました。税関で押収された模倣品の約45%が中国から直接出荷されたものとされています。

こうした状況のなか、下着大手のワコールは中国を拠点とする模倣品販売集団、いわゆる「ゴーストベンダー」との闘いを続けています。SNS上の詐欺広告から偽ECサイトへ誘導する巧妙な手口は年々進化し、摘発は困難を極めています。本記事では、ゴーストベンダーの実態と日本の水際対策、そして企業が取り組むブランド保護の最前線を解説します。

急増する模倣品と日本の税関差し止め状況

過去最多を更新した2024年の差し止め件数

財務省が公表した令和6年(2024年)の税関における知的財産侵害物品の差止状況によると、全国の税関での差し止め件数は33,019件で、前年比4.3%増加し、統計公表を開始した1987年以来の過去最多を更新しました。差し止め点数も1,297,113点に達し、前年比22.8%の大幅増です。

仕出国・地域別では、中国が全体の80.6%(26,604件)を占め、圧倒的な割合を示しています。次いでベトナムが9.7%(3,215件)、マレーシアが3.0%(979件)と続きます。衣料品やバッグなどのファッション関連だけでなく、加熱式たばこカートリッジ、電池、医薬品、自動車部品など、健康や安全に直結する商品の模倣品も増加している点が深刻です。

世界的な模倣品貿易の規模

OECDとEUIPOの共同報告書「Mapping Global Trade in Fakes 2025」は、模倣品が世界経済にもたらす脅威を数値で示しています。衣料品・履物・皮革製品が押収品全体の約62%を占め、最も被害が大きいカテゴリーとなっています。模倣品は約50の異なる製品カテゴリーにわたって確認されており、その範囲は日常生活のあらゆる側面に及んでいます。

2022年の改正関税法施行により、海外事業者が郵送などで日本国内に持ち込む模倣品も「輸入してはならない貨物」として取締り対象に加わりました。個人使用目的の購入であっても、海外の通販サイトから送付される商品が商標権や意匠権を侵害する模倣品である場合は輸入できません。

ゴーストベンダーの手口とSNS詐欺広告の実態

4,000超の偽ドメインを操る詐欺ネットワーク

2025年、サイバーセキュリティ企業のSilent Pushは「GhostVendors」と名付けた大規模詐欺ネットワークの実態を明らかにしました。この集団は4,000以上の偽ドメインを登録し、Amazon、Costco、Nordstrom、Rolex、Birkenstockなど68以上の有名ブランドになりすまして消費者を欺いていました。

GhostVendorsの手口は巧妙です。まずFacebook Marketplaceなどに格安商品の広告を出稿します。たとえば、本来数百ドルするはずの工具セットが39ドルから128ドルという不自然な低価格で表示されます。消費者がこの広告をクリックすると、精巧に作られた偽ECサイトに誘導されます。そこで決済情報を入力すると、商品が届かないか、まったく別の粗悪品が送られてくるのです。

さらに問題を複雑にしているのが、Meta(Facebook)の広告ポリシーの抜け穴です。Metaは社会問題や政治に関する広告を7年間保存しますが、一般的な商品広告はキャンペーン終了後に削除されます。GhostVendorsはこの仕組みを悪用し、数日間だけ広告を出稿してからキャンペーンを停止することで、広告ライブラリから一切の痕跡を消していました。ドメイン生成アルゴリズム(DGA)を用いて大量の偽ドメインを次々と生成し、テイクダウン(削除要請)の対応が追いつかない状態を作り出しています。

日本市場を狙うSNS誘導型詐欺広告

日本国内でも、SNSを起点とした模倣品詐欺が急増しています。特許庁の委託によりJETROが2025年3月に公表した「SNS等インターネット上の誘導型詐欺広告を利用した模倣品流通に関する調査」は、この問題の深刻さを浮き彫りにしました。

調査結果によると、被害が確認されたSNSプラットフォームのうち、Facebookが93.8%と圧倒的に多く、Instagramが43.8%、YouTubeが37.5%、TikTokが31.3%と続きます。侵害される権利としては商標権が最も多く、被害企業のほぼ全てが商標権の侵害を受けていました。

中国拠点の広告主は摘発が困難で、日本国内での削除対応にも限界があります。最近ではロゴを使わず音声のみの広告も増加しており、権利侵害の検出がさらに難しくなっているとされています。

ワコールのブランド保護への取り組み

2007年から続く模倣品との闘い

ワコールの模倣品対策は2007年に本格化しました。中国で紙ラベルが偽造された模倣品が発見されたことがきっかけです。その後、中国の大手ECサイトでも模倣品が増加し、ワコールはIP FORWARDなどのサービスを導入してECサイトのモニタリングを強化しました。模倣品を発見し次第、プラットフォームに出品削除を要請する活動を継続しています。

ワコールの知的財産部門では、ブランド価値を守るための三つの柱として活動しています。第一に、他者権利の侵害を防ぐための精度の高い調査。第二に、新たな発明や創作を生み出すための開発支援。第三に、模倣品や侵害品を排除するためのブランド保護活動です。

拡大する被害と消費者への注意喚起

消費者庁は2023年12月、ミズノやワコールの商品ブランドロゴを使用した女性用衣料品を販売すると称する偽サイトに関して注意喚起を発表しました。2022年夏以降、SNSでこれらのブランドの広告が表示され、リンク先のウェブサイトで商品を注文したところブランド品ではない商品が届いたという相談が、各地の消費生活センターに多数寄せられていました。

ワコール自身も公式サイトで詐欺サイトへの注意喚起を行っています。偽サイトの特徴として、極端な値引き、日本のウェブサイトでは見慣れない書体の使用、中国語の簡体字の混入、不自然な日本語の文章、「特定商取引法に基づく表記」の欠如などが挙げられています。2024年10月には、ワコールを装ったなりすましメールに関する注意喚起も行われました。

模倣品の問題は中国にとどまらず、ベトナム、台湾、フィリピン、マレーシア、インドネシアなどにも拡大しており、ワコールはグローバルなECサイトモニタリングと調査を行っています。

注意点・展望

模倣品問題の根絶には、まだ多くの課題が残されています。ゴーストベンダーのような詐欺集団は、ドメインを短期間で使い捨て、広告の痕跡を消去するなど、従来の取り締まり手法では対応しきれない手口を駆使しています。AI技術を使った偽商品画像の生成や、架空のレビュー作成なども報告されており、消費者が真偽を見分けることはますます困難になっています。

JETROの報告書では、SNS詐欺広告への対策として、プラットフォーム事業者による広告審査の強化、権利者によるモニタリング体制の拡充、国際的な法執行協力の必要性が指摘されています。2026年2月には、SNS詐欺広告経由の模倣品被害防止のための動画制作コンペも実施され、啓発活動も進んでいます。

消費者としても、極端に安い価格の広告には警戒する、正規の公式サイトから購入する、URLやサイトの日本語表記に不自然な点がないか確認するといった自衛策が重要です。

まとめ

中国発の模倣品問題は、2024年の税関差し止め件数が過去最多を記録するなど、依然として深刻化しています。ゴーストベンダーと呼ばれる詐欺集団は、SNS広告と偽ECサイトを組み合わせた巧妙な手口で消費者を欺いており、その全貌の把握は容易ではありません。

ワコールをはじめとする日本企業は、長年にわたりECサイトモニタリングや削除要請などの対策を続けていますが、相手の手口が進化し続けるなか、企業単独の対応には限界があります。プラットフォーム事業者、政府機関、国際機関が連携した包括的な対策と、消費者一人ひとりのリテラシー向上が、模倣品のない健全な市場を実現するための鍵となります。

参考資料:

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