円・国債売り一服、自民圧勝後の市場が落ち着いた理由
はじめに
2026年2月8日の衆議院選挙で自民党が310議席超を獲得する歴史的大勝を収めた後、金融市場に興味深い変化が起きています。選挙前に広がっていた「積極財政による円安・国債売り」への警戒が後退し、市場は小康状態に入りました。
円相場は対ドルで152円台まで上昇し、日経平均株価は5万6000円台の最高値圏で推移しています。市場参加者は高市早苗首相の政権基盤安定を好感し、「無軌道な財政拡張には踏み切らない」と期待しています。この市場の楽観と、その背景にある構造的要因を詳しく解説します。
衆院選後の市場反応
予想に反した円高の進行
自民党の圧勝が伝えられると、多くの市場関係者は「高市トレード」の再燃、つまり積極財政への懸念から円安が進むシナリオを予想していました。しかし、実際に起きたのはその逆でした。
2月12日には対ドルで一時152円20銭台をつけ、幅広い通貨に対して円が上昇しました。この「予想外の円高」にはいくつかの理由があります。
まず、高市首相が財政規律への配慮を明確に打ち出したことです。2026年度予算案では新規国債発行額を29.6兆円に抑え、「2年連続で30兆円を下回る」実績を示しました。積極財政の旗を掲げつつも、市場が恐れたような野放図な財政拡張は行わないという姿勢が評価されています。
日経平均は最高値圏を維持
株式市場はさらに分かりやすい形で好感を示しました。衆院選翌日の10日には日経平均株価が5万6363円で取引を終え、初の5万6000円台を記録しました。海外投資家を中心に「政権基盤の安定」と「サナエノミクスの政策推進力強化」を評価する買いが集まった結果です。
政権基盤が安定したことで、成長投資が計画通りに進む確度が高まったとの見方が広がっています。AI・半導体支援に1兆2390億円を計上するなど、戦略的な成長分野への投資が具体的に動き出す期待が株高を支えています。
財政規律と成長投資の両立
2026年度予算案の全体像
高市政権が編成した2026年度予算案は、一般会計の歳出総額が過去最大の122.3兆円となりました。「積極財政」を反映した大型予算ですが、税収面では企業業績の好調を背景に過去最大の83.7兆円を見込んでおり、財政健全化の道筋も示しています。
高市首相自身が「強い経済の実現と財政の持続可能性を両立させる予算案」と表現しているように、成長投資と財政規律のバランスを重視する姿勢が見て取れます。
成長投資の具体的な中身
予算案には具体的な成長投資が盛り込まれています。特に注目されるのがAI・半導体分野への1兆2390億円の支援で、特別会計を通じて実施されます。また、2026年から始まる高校授業料と小学校給食の無償化には約7000億円が充てられ、人的資本投資としての意味合いも持っています。
市場はこれらの投資を「将来の税収増につながる戦略的支出」と評価しており、単なるバラマキとは異なるとの認識が広がっています。
国債費の膨張というリスク
一方で、注意すべき要素もあります。国債の償還や利払いに充てる国債費は31兆2758億円と、6年連続で過去最大を更新しました。金利上昇の影響が本格化しつつあり、今後の利上げ局面でさらに膨張する可能性があります。
2026年1月には新発10年物国債の利回りが一時2.125%に達し、1999年2月以来約27年ぶりの高水準を記録しました。日銀が利上げを継続する中で、国債費の増加は財政規律の維持を一層難しくする要因です。
日銀の金融政策と市場の見通し
利上げ継続の観測
市場の円高進行を支えるもう一つの要因が、日銀の追加利上げ観測です。2月5日に公表された国内経済指標で賃金の伸びが確認されたことをきっかけに、日銀の利上げ前倒し観測が強まりました。
日銀が公表した「経済・物価情勢の展望」では物価上昇率の見通しが引き上げられており、これも早期の追加利上げの可能性を示唆するものとして市場に受け止められています。市場では半年に1回程度のペースでの利上げが見込まれており、日米金利差の縮小が円高方向への圧力となっています。
「高市トレード」は消滅したのか
2024年の自民党総裁選で高市氏が有力候補として浮上した際、市場では「積極財政=円安」のシナリオが「高市トレード」として意識されました。しかし、実際に首相に就任し、2年連続で国債発行額を30兆円以下に抑えるなど財政規律への配慮を見せたことで、この警戒感は大幅に後退しています。
ただし、3分の2の議席を得たことで衆院での再可決が可能となり、より大胆な政策に踏み切る可能性も残っています。市場は高市政権の今後の財政運営を注視し続ける必要があります。
今後の展望と注意点
楽観シナリオのリスク
現在の市場の楽観は、いくつかの前提条件の上に成り立っています。第一に、高市政権が財政規律を維持し続けること。第二に、日銀の利上げが経済を大きく冷やさないこと。第三に、世界経済に大きなショックが起きないことです。
特に、衆院選で3分の2超の議席を得た自民党が、今後の補正予算や追加経済対策で大規模な財政出動に踏み切った場合、円安と国債売りの圧力が再び強まる可能性があります。
金利上昇と株式市場への影響
日銀の利上げ継続は、円高要因であると同時に、株式市場にとってはマイナス要因にもなり得ます。特に金利感応度の高い成長株やグロース市場への影響には注意が必要です。
一方で、円高は輸入コストの低下を通じて企業の仕入れコストを改善し、内需関連銘柄にとってはプラスに働きます。市場全体のバランスが今後どのように変化するかが注目点です。
まとめ
衆院選での自民党圧勝後、金融市場は意外にも落ち着きを見せています。高市政権の財政規律への配慮、日銀の利上げ観測による円高、成長投資への期待が三位一体となって、株高・円高・国債利回り安定という好循環が生まれています。
しかし、この均衡は財政運営と金融政策の微妙なバランスの上に成り立つものです。国債費の膨張や今後の補正予算の規模次第では、市場の評価が一変する可能性もあります。投資家は高市政権の政策動向と日銀の金融政策を注意深くフォローすることが重要です。
参考資料:
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