米財務長官「金利上昇は日本から波及」トリプル安で発言
はじめに
2026年1月20日、米国市場で株式・債券・為替がそろって売られる「トリプル安」が発生しました。スイス・ダボスで開催中の世界経済フォーラム年次総会に出席していたベッセント米財務長官は、米長期金利の急上昇について「日本からの波及効果を切り離して考えることは非常に難しい」との見解を示しました。
トランプ大統領が欧州各国への追加関税を表明したことが売りの要因との見方もありましたが、ベッセント長官はこれに異論を唱え、日本国債市場の急落が世界の債券市場に波及していると指摘しました。本記事では、米国のトリプル安と日本発の金利上昇圧力について解説します。
日本国債市場の「メルトダウン」
記録的な利回り上昇
2026年1月、日本国債市場で歴史的な売りが発生しています。
40年債の利回りは4%を突破し、1983年に40年債が導入されて以来の最高水準を記録しました。30年債の利回りは1日で30ベーシスポイント(0.3%)上昇し、過去2日間で42ベーシスポイント上昇して3.91%に達しました。これは1999年の30年債導入以来の最高水準です。
10年債の利回りも2.3%を超え、約30年ぶりの高水準となりました。
高市首相の財政拡大策
国債売りの引き金となったのは、高市早苗首相が打ち出した財政拡大策です。高市首相は食料品に対する消費税率を0%に引き下げる方針を発表しましたが、減収分をどう補填するかについて明確な説明がありません。
「減税の財源が不明確であり、市場は国債増発で賄われると予想している」と、ニッセイ基礎研究所の福本幸男上席研究員は指摘しています。「債券市場は事実上、炭鉱のカナリアの役割を果たしている」
衆議院解散と総選挙
高市首相は今週末に衆議院を解散し、2月8日に総選挙を実施する方針を発表しました。与党は議席を増やすと予想されており、財政拡大政策がさらに推進されるとの見方が広がっています。
ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントのマサヒコ・ルー氏は「これは典型的な『高市トレード』——日経上昇、国債下落、円安——の再現だ」と述べています。昨年10月に高市氏が緩和的な財政政策を示唆した際にも同様の動きが見られました。
日本発の金利上昇が世界に波及
ベッセント財務長官の発言
ダボス会議に出席したベッセント財務長官は、CNBCのインタビューで米長期金利の上昇について言及しました。
「日本からの波及効果を切り離して考えることは非常に難しい」——この発言は、米国債市場の混乱がトランプ政権の関税政策だけでなく、日本国債市場の動向にも起因していることを認めたものです。
ベッセント長官は日本の財務大臣とも連絡を取り、状況について協議したと報じられています。
世界の債券市場への連鎖
日本国債の急落は、米国を含む世界の債券市場に波及しています。
米国10年債利回りは10月下旬の4%未満から約4.3%まで上昇しました。この金利上昇だけで、連邦政府の利払い費用は数十億ドル増加することになります。
貿易摩擦の再燃で米国資産の魅力が低下する中、日本国債の売りが米国債の下落を加速させた格好です。
米国市場のトリプル安
株・債券・為替の同時下落
1月20日の米国市場では、株式・債券・通貨がそろって下落する「トリプル安」となりました。
通常、株価が下落する局面では安全資産として債券が買われますが、今回はそうなりませんでした。インフレ懸念が投資家に債券購入を躊躇させているためです。
「大国でトリプル安が生じることは珍しい。ドルはもはや安全資産ではなく、危険資産として敬遠され、代わりに金が選好されているのかもしれない」との指摘もあります。
欧州からの売り観測
市場では、欧州諸国が米国債を売却するとの観測も飛び交いました。デンマークの年金基金アカデミカーペンションが月末までに米国債を売却すると発表したことで、米国の同盟国に対する強硬姿勢の金融的影響への懸念が再燃しました。
フランス、ドイツ、英国は合わせて約1.35兆ドルの米国債を保有しており、これらの国が売却に動けば「核オプション」とも言える影響があります。
ベッセント長官の火消し
ベッセント長官はこうした懸念を「メディアのヒステリー」と一蹴しました。
「もし彼ら(EU・英国)が米国債を売れば、人民元を買わなければならず、自国通貨が強くなる。彼らはまさにその逆をやってきた」とベッセント長官は指摘し、「皆、深呼吸する必要がある」と呼びかけました。
また、「米国債市場は世界で最もパフォーマンスの良い市場であり、G7債券市場で最高のパフォーマンスを記録し、2020年以来最高の成績だった。最も流動性が高く、すべての金融取引の基盤だ」と強調しました。
日本の財政リスク
膨らむ政府債務
日本財務省によると、2025年10月時点で日本の政府債務総額は約1,341.7兆円(約9兆ドル)に達し、名目GDPの約240〜250%に相当します。
2026年度の予算案は122.3兆円と過去最大規模で閣議決定されました。長期金利の上昇を受けて、国債の元利払い費用は31.28兆円と過去最高を更新しています。
日銀の金融政策
市場の注目は今週の日銀金融政策決定会合にも集まっています。12月の利上げを受けて、今回は政策金利を0.75%に据え置くとの見方が大勢ですが、6月の追加利上げに向けた植田和男総裁のタカ派的なシグナルがあるかどうかが焦点です。
高市政権が財政拡大を進める一方で、日銀が金融引き締めに向かえば、国債市場への売り圧力がさらに強まる可能性があります。
今後の展望と注意点
金利上昇の影響
金利上昇は様々な形で経済に影響を与えます。
企業の資金調達コストが上昇し、設備投資が抑制される可能性があります。住宅ローン金利の上昇は不動産市場を冷やすかもしれません。政府の利払い負担増加は財政余力を縮小させます。
特に日本は債務残高がGDP比で世界最高水準にあり、金利上昇に対する脆弱性が高いとされています。
投資家が注意すべきポイント
債券投資家にとっては、日本と米国の金利動向を注視することが重要です。両市場の連動性が高まっており、一方の急変動がもう一方に波及するリスクがあります。
為替市場では、日米金利差の縮小が円高ドル安圧力となる一方、日本の財政不安が円安要因となるという相反する力が働いています。
株式市場では、金利上昇によるバリュエーション調整のリスクに注意が必要です。特に成長株(グロース株)は金利上昇に敏感とされています。
まとめ
ベッセント米財務長官の「日本からの波及」発言は、日本国債市場の急落が世界の金融市場に与える影響の大きさを示しています。高市首相の財政拡大策に対する市場の警戒感が、日本発の金利上昇圧力となって米国市場にも波及しました。
米国のトリプル安については、トランプ政権の関税政策への懸念に加え、日本国債市場の動向が重なったという複合的な要因があります。
日米両国の金融・財政政策の行方と、それが債券市場に与える影響を注視していく必要があります。世界の金融市場は緊密に連動しており、一国の政策変更が即座にグローバルな影響をもたらす時代となっています。
参考資料:
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