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by nicoxz

欧州の米国債売却論が浮上、グリーンランド問題で金融戦争の懸念

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はじめに

2026年1月、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラム(WEF)年次総会が、予期せぬ緊張の舞台となりました。トランプ米大統領がデンマーク自治領グリーンランドの領有に固執する中、欧州が保有する巨額の米国債を売却するという「最終兵器」論が急浮上しています。

デンマークの年金基金が米国債売却を表明したことをきっかけに、欧州全体が保有する8兆ドル以上の米国債が政治的カードになりうるとの観測が広がりました。この記事では、米欧対立の背景、金融市場への影響、そして今後の展望について詳しく解説します。

グリーンランドを巡る米欧対立の構図

トランプ大統領の領有発言と関税威嚇

トランプ大統領は2026年1月17日、米国がグリーンランドを取得するまで欧州8カ国に10%の追加関税を課すと表明しました。対象国はデンマーク、英国、フランス、ドイツ、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、オランダです。

2月1日から10%、6月1日からは25%に引き上げるという段階的な関税強化を宣言し、「完全かつ全面的に購入する」まで関税を継続すると主張しました。北極圏の安全保障を理由に挙げ、ロシアと中国の脅威に対抗するためグリーンランドが不可欠だと説明しています。

欧州の激しい反発

この発言は欧州に衝撃を与え、NATO内部にも深刻な緊張を生じさせました。EUのフォンデアライエン欧州委員長はダボス会議で演説し、北極圏の安全保障強化に向けた支援策を検討していると表明。グリーンランドへの「大規模投資」を通じてEUとしての関与を強める姿勢を示しました。

フランスのマクロン大統領はEUに「貿易バズーカ」と呼ばれる反威圧措置(ACI)の発動を要請しました。これはEU市場へのアクセス制限や輸出規制など、米国への幅広い対抗措置を可能にする枠組みです。

浮上した米国債売却論

デンマーク年金基金の決断

2026年1月20日、デンマークの研究者向け年金基金「アカデミカーペンション」のアンダース・シェルデ最高投資責任者(CIO)が、米ブルームバーグ通信に対して衝撃的な発表を行いました。約1億ドル(約158億円)規模の米国債を1月末までに売却するというものです。

シェルデCIOは「米財政は持続可能ではない」と指摘し、財政規律の緩みとドル安を売却理由として挙げました。トランプ大統領のグリーンランド領有発言も理由の一つとしています。アカデミカーペンションは、欧州で最も厳しい倫理的投資基準を適用していることで知られる基金です。

「8兆ドルの武器」という観測

この発表を受けて、欧州が保有する巨額の米国債が「金融の武器」になりうるとの観測が広がりました。ドイツ銀行の為替調査責任者ジョージ・サラベロス氏は「欧州はグリーンランドを所有している。そして欧州は大量の米国債も保有している」と指摘しました。

欧州各国の投資家が保有する米国債は合計で8兆ドル以上とされます。仮にこれが一斉に売却されれば、米国債市場に甚大な影響を与える可能性があります。

米財務長官の dismissive な反応

一方、米国のスコット・ベッセント財務長官は欧州の米国債売却に対して極めて冷淡な反応を示しました。ダボスでの取材に対し「デンマークの米国債投資は、デンマーク自体と同様に取るに足らない(irrelevant)」と発言。「1億ドル未満であり、彼らは何年も前から米国債を売却している。全く心配していない」と述べました。

この発言は外交的に物議を醸しましたが、米国政府がこの問題を深刻に受け止めていない姿勢を示すものでした。

金融市場への影響

株式・債券市場の動揺

米欧対立の激化は金融市場に即座に反映されました。デンマーク年金基金の発表後、米国債は下げを拡大し、10年債と30年債の利回りは当日の最高水準に達しました。

「セル・アメリカ(米国売り)」と呼ばれる動きが広がり、株価、債券価格、ドルがそろって下落する異例の展開となりました。S&P500からは1日で1.2兆ドル以上の時価総額が消失したと報じられています。

日経平均株価も影響を受け、2026年1月19日には前週末比352円安の53,583円で取引を終了。一時は下げ幅が800円を超える場面もあり、市場には強い警戒感が広がりました。

金価格は最高値更新

リスク回避の動きから、安全資産とされる金の価格は最高値を更新しました。投資家が米国資産から逃避し、代替的な安全資産を求める動きが鮮明になっています。

米国債の海外保有構造

誰が米国債を持っているのか

米財務省の統計によると、2025年3月末時点で海外勢の米国債保有額は9兆500億ドルに達し、過去最高を更新しています。国別では日本が1兆1308億ドルで首位、英国が7790億ドルで2位、中国が7653億ドルで3位となっています。

注目すべきは、かつて最大保有国だった中国が保有を縮小し続けている点です。中国は2019年半ばに日本に抜かれて以降、継続的に米国債を売却しています。2025年3月には190億ドルを売り越し、特に長期債では275億ドルの売り越しと、比較可能な期間で最大の売却となりました。

欧州の保有構造

英国を含む欧州勢の米国債保有は巨額であり、合計すると8兆ドルを超えると推計されています。個別の年金基金による売却は限定的な影響しかありませんが、欧州全体が協調して売却に動けば、市場に大きな衝撃を与える可能性があります。

急転直下の関税撤回

ダボス演説と「枠組み合意」

2026年1月21日、トランプ大統領はダボス会議でビデオ演説を行い、米国がグリーンランドを「手に入れなければならない」と改めて主張しました。一方で、同日夜に急転直下の展開がありました。

トランプ大統領は、NATOのマルク・ルッテ事務総長との間で「将来の合意の枠組み」に達したとして、2月1日に予定していた欧州8カ国への関税発動を見送ると発表しました。Truth Socialへの投稿で「この理解に基づき、2月1日に発効予定だった関税は課さない」と表明しています。

残る不確実性

関税発動は回避されましたが、グリーンランド問題自体は解決していません。トランプ大統領は領有への意欲を繰り返し表明しており、交渉の行方次第では再び緊張が高まる可能性があります。

今後の展望と注意点

金融武器としての米国債の限界

欧州が米国債を「武器」として使う可能性は、理論上は存在します。しかし実際にそれを実行するには大きな障壁があります。

まず、大規模な売却は自らの保有資産の価値を毀損します。また、米国債に代わる同規模の安全資産は存在しません。さらに、協調行動を取ること自体が困難です。各国の年金基金や中央銀行は独自の投資方針を持っており、政治的な理由での一斉売却は現実的ではありません。

市場の構造的変化への注目

より重要なのは、米国債市場の構造的な変化です。中国の保有縮小が続く中、米国債の需給バランスがどのように変化するかが注目されます。トランプ政権の財政政策次第では、外国人投資家の米国債離れが加速する可能性もあります。

日本への影響

日本は最大の米国債保有国として、この問題に無関係ではいられません。日米関係への影響、円ドル為替への影響、そして日本の保有戦略への影響を注視する必要があります。

まとめ

グリーンランドを巡る米欧対立は、単なる領土問題を超えて、国際金融システムの脆弱性を浮き彫りにしました。欧州の米国債売却論は「最終兵器」として語られていますが、実際に発動される可能性は低いと見られています。

しかし、この議論が浮上したこと自体が、米国の同盟国との関係悪化が金融市場に波及しうることを示しています。投資家は地政学リスクと金融市場の連動性に一層の注意を払う必要があります。

今後も米欧関係の動向、特にグリーンランド問題の交渉進展と、それに伴う金融市場の反応を注視していくことが重要です。

参考資料:

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