米長期金利急騰に日本の影響か ベッセント財務長官が波及を指摘
はじめに
2026年1月20日、米国の金融市場で株式・債券・ドルが同時に売られる「トリプル安」が発生しました。この中で特に注目を集めたのが、ベッセント米財務長官の発言です。長官は米国債金利の急上昇について「日本からの波及効果を分離して考えることは非常に難しい」との見方を示し、日本の金利動向が米国市場に影響を与えている可能性を指摘しました。
同日、日本の40年債利回りは2007年の発行開始以来初めて4%を突破し、過去最高を記録しました。日本国債市場の混乱が米国債市場に波及するという、これまであまり意識されてこなかった構図が浮かび上がっています。本記事では、この日米金利連動の背景と今後の見通しについて詳しく解説します。
日本国債市場で何が起きているのか
40年債利回りが史上初の4%突破
2026年1月20日、日本の40年債利回りは一時4.22%まで上昇し、2007年の発行開始以来初めて4%の大台を突破しました。これは日本のあらゆる年限の国債利回りが4%に達した初めてのケースで、30年以上ぶりの出来事です。
10年債利回りも2.38%と1999年以来の高水準を記録し、20年債利回りは3.47%まで急騰しました。30年債と40年債の1日の上昇幅は25ベーシスポイントを超え、2025年4月のトランプ大統領による相互関税発動時以来の大きさとなりました。
高市政権の財政拡張路線が背景
この急激な金利上昇の背景には、高市早苗首相の財政拡張政策があります。高市首相は1月19日に衆議院の解散と2月8日の総選挙実施を表明し、選挙公約として食品への消費税率を2年間ゼロにする方針を打ち出しました。
市場はこれを財政悪化のシグナルと捉えました。2025年11月に高市政権が発足して以降、20年債と40年債の利回りは約80ベーシスポイント上昇しています。投資家の間では「高市トレード」と呼ばれる取引パターンが定着し、政策発表のたびに国債が売られる展開が続いています。
日銀の金融政策正常化も影響
日本銀行は2025年12月に政策金利を0.50%から0.75%に引き上げました。これは1995年以来、約30年ぶりの高水準です。植田和男総裁は経済・物価の動向が見通しに沿って推移すれば利上げを続ける方針を示しており、市場では次回の利上げ時期を探る動きが活発化しています。
長期金利の上昇は日銀の政策正常化を織り込む自然な動きとも言えますが、政策金利と10年金利のスプレッドが急拡大している点は通常の利上げ局面とは異なります。これは財政拡張に対する市場の警戒感を反映しているとされています。
米国市場への波及メカニズム
日本は最大の米国債保有国
日本の金利上昇が米国市場に影響を与える理由は、日本が世界最大の米国債保有国だからです。2025年11月時点で、日本の投資家は約1.2兆ドルの米国債を保有しています。
日本国内の金利が上昇すると、機関投資家にとって国内債券の魅力が高まり、海外資産から資金を引き揚げる「レパトリエーション(本国回帰)」の動きが強まる可能性があります。市場関係者の間では「米国債とドルの売りを加速させているのは日本であり、国内のインフレ対応と国債利回り上昇を支えるために世界市場から資金を引き揚げる懸念がある」との見方が広がっています。
ベッセント長官の発言と日米連携
ベッセント財務長官はダボス会議での発言で、日本の金融当局と連絡を取り合っていることを明らかにしました。長官は「日本のカウンターパートと連絡を取っている」とした上で、「彼らは市場を落ち着かせるための発言を始めるだろう」と述べ、日本当局による対応への期待を示しました。
これを受けて片山さつき財務相は「市場を安定させるためのことはやってきているし、これからもやることは必ず約束できる」と発言し、市場の沈静化に努める姿勢を見せました。
1月20日の米国市場の動向
1月20日の米国市場では、30年債利回りが一時4.95%近くまで上昇し、2025年9月以来の高水準を記録しました。10年債利回りも4.31%と約4カ月ぶりの高水準に達しています。5%という心理的な節目に接近する中、債券市場の警戒感は高まっています。
株式市場ではダウ工業株30種平均が前週末比870ドル安と大幅に下落。為替市場でもドルがユーロなど主要通貨に対して売られ、「トリプル安」の様相を呈しました。
グリーンランド関税問題も重なる
トランプ大統領の関税表明
米国市場の混乱には、トランプ大統領によるグリーンランドを巡る関税表明も影響しています。トランプ大統領は1月17日、デンマーク自治領であるグリーンランドを米国が取得するまで、欧州8カ国に追加関税を課すと表明しました。
この発言は欧州各国の強い反発を招き、地政学リスクの高まりとして市場に重くのしかかりました。一部報道では、デンマークの職域年金基金が今月末までに米国債投資から撤退する計画があるとも伝えられ、米国債の売り圧力を強めた可能性があります。
「安全資産」としての米国の地位に疑問
今回の事態について、市場関係者からは「新たな重要な変化は、米国が不確実性の避難先ではなく、不確実性の発生源になっていることだ」との指摘が出ています。従来、地政学リスクが高まる局面では米国債が買われる傾向がありましたが、米国自身が混乱の原因となる場合、この構図は成り立ちません。
欧州諸国が報復として米国債の保有を減らすのではないかという懸念も広がっており、従来の市場力学が変化する可能性が意識されています。
今後の注目点と展望
「トラス・ショック」の再来への警戒
海外投資家の間では、日本の国債利回り急上昇を2022年の英国における「トラス・ショック」に近い深刻さで捉える向きがあります。当時、英国のトラス首相(当時)が打ち出した大規模減税策が財政悪化懸念を招き、英国債と英ポンドが急落する事態となりました。
日本でも「高市ショック」が起きる可能性が指摘されています。金利上昇がトリガーとなって生命保険の解約が増え、生保が債券を売らざるを得なくなる構造が内包されているとの見方もあり、警戒が必要です。
日銀会合と選挙の行方
1月22〜23日には日銀の金融政策決定会合が予定されています。直近の市場混乱を受けて追加利上げは見送られるとの見方が大勢ですが、展望レポートでのインフレ見通しや円安への言及が注目されています。
また、2月8日の衆議院選挙の結果も重要です。高市政権が財政拡張路線を継続できるかどうかは、選挙結果と野党との関係に大きく左右されます。市場は選挙戦の行方を注視しながら、不安定な値動きが続く可能性があります。
まとめ
ベッセント米財務長官が指摘したように、日米の金利市場の連動性はこれまで以上に高まっています。世界最大の米国債保有国である日本の金利動向は、もはや国内問題にとどまらず、世界の金融市場に大きな影響を与える要因となりました。
高市政権の財政拡張路線と日銀の金融政策正常化、そしてトランプ政権の関税政策という複数の要因が重なり合う中、市場の不確実性は当面続く見通しです。投資家にとっては、日米両国の政策動向と市場の反応を注意深く見守ることが求められる局面となっています。
参考資料:
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