BGM使用料が歌手にも、著作権法改正で新たな報酬権導入へ

by nicoxz

はじめに

商業施設や飲食店で流れるBGM(バックグラウンドミュージック)の使用料が、これまでの作詞・作曲家だけでなく、歌手や演奏家にも支払われるようになります。文化庁は2026年の通常国会に著作権法の改正案を提出する方針で、実現すれば日本の音楽業界に大きな変化が訪れます。

海外では実演家(歌手・演奏家)への報酬支払いが広く導入されていますが、日本では法整備が遅れていました。国際的なJ-POP人気が高まる中、日本のコンテンツの「稼ぐ力」を強化するための法改正が動き始めています。

現行制度の問題点

作詞・作曲家のみが受け取る使用料

現在、店舗でBGMを流す場合、著作権使用料はJASRAC(日本音楽著作権協会)などの著作権管理団体を通じて作詞・作曲家に支払われています。カフェ、レストラン、美容室、ホテルなどの商業施設は「公衆」に対してサービスを提供する場であり、BGMの使用には著作権者の許諾が必要です。

1999年の著作権法改正により、飲食店等でCDを再生することも「演奏」として扱われるようになりました。店舗面積500平米以下の場合、JASRACへの使用料は年額6,000円(月額500円)となっています。

実演家への報酬がない現状

しかし、この使用料は作詞・作曲家のみに分配され、楽曲を歌った歌手や演奏した演奏家には一切支払われていません。これは「著作隣接権」の保護範囲の問題に起因しています。

著作隣接権とは、著作物を公衆に伝達する役割を担う実演家、レコード製作者、放送事業者などに与えられる権利です。日本の著作権法では、放送における二次使用料請求権は認められていますが、店舗でのBGM使用については実演家への報酬支払い義務がありませんでした。

海外との格差

この制度は国際的に見ると異例です。欧州をはじめ多くの国では、BGMなど公衆への音楽伝達について実演家にも報酬を受ける権利が認められています。そのため、日本の楽曲が海外の店舗で流れても、日本の実演家は対価を受け取れない状況が続いていました。

文化庁の法改正案

新制度の概要

文化庁が導入を検討している新制度では、商業施設などで流すBGMの使用料について、作詞・作曲家だけでなく歌手や演奏家も報酬を得られるようになります。飲食店や小売店などから使用料を徴収し、実演家に分配する仕組みが構築されます。

文化庁は文化審議会の小委員会で検討を進めており、2026年の通常国会への著作権法改正案の提出を目指しています。

J-POP国際競争力の強化

この法改正の背景には、国際的なJ-POP人気の高まりがあります。K-POPの世界的成功に続き、日本の音楽も海外で注目を集めています。しかし、実演家への報酬制度が未整備のままでは、日本のアーティストは海外での使用に対する正当な対価を得られません。

新制度により、日本の楽曲が国内外で使用された際に、実演家が適切な報酬を受け取れるようになることで、音楽業界全体の収益基盤が強化されることが期待されています。

海外の先行事例

EU指令による制度整備

2019年、EUでは「デジタル単一市場における著作権及び関連権に関する指令」が策定されました。この指令の第18条では、著作権等をライセンスまたは譲渡する際に、著作者および実演家は適正かつ比例的な報酬を受ける権利があるという原則が明記されています。

各EU加盟国はこの原則を国内法化する義務を負っており、実演家の報酬権が強化される動きが広がっています。

ベルギーの法改正

2022年6月、ベルギーでは著作権法が改正され、YouTubeやTikTokなどのコンテンツ共有サービス、NetflixやSpotifyなどの配信サービスでの利用について、実演家に報酬請求権が与えられました。

イギリスの動向

イギリスでは2021年7月、下院特別委員会が『音楽ストリーミングの経済情況』という報告書を公表しました。この報告書は政府に対し、ストリーミング配信に関して公正な報酬を受ける権利を実演家に与えるよう勧告しています。

課題と論点

飲食店等への影響

新制度の導入により、BGMを使用する飲食店や小売店の負担が増える可能性があります。現行のJASRACへの支払いに加えて、実演家への使用料が上乗せされることになるためです。

文化庁は利用者側の理解を得ながら、適切な料金設定や徴収方法を検討する必要があります。

徴収・分配の仕組み

実演家への使用料をどのように徴収し、どのように分配するかという実務的な課題もあります。一つの楽曲に複数の実演家が関わっている場合の分配方法や、徴収を担う団体の選定など、詰めるべき点は多くあります。

レコード会社との関係

実務上、アーティストとレコード会社の間ではレコーディング契約により、実演家の著作隣接権が譲渡されることが一般的です。新たな報酬請求権が創設された場合、この権利が実演家に留保されるのか、契約で放棄できるのかという点も論点となります。

今後の展望

2026年法改正の見通し

文化庁は文化審議会での議論を経て、早ければ2026年の通常国会に著作権法改正案を提出する予定です。法案が成立すれば、数年内に新制度が施行される見込みです。

音楽業界への影響

新制度が実現すれば、日本の音楽業界の収益構造が変わります。これまで作詞・作曲家に集中していたBGM使用料が、歌手や演奏家にも分配されることで、アーティストの収入源が多様化します。

特に、楽曲を自作しないシンガーやバックミュージシャンにとっては、新たな収入の柱となる可能性があります。

まとめ

文化庁が導入を検討するBGM使用料の実演家への支払い制度は、日本の著作権法における大きな転換点となります。作詞・作曲家のみが受け取っていた商業施設でのBGM使用料が、歌手や演奏家にも分配されるようになることで、音楽に関わるすべてのアーティストが正当な対価を得られる環境が整います。

国際的なJ-POP人気を追い風に、日本の音楽コンテンツの「稼ぐ力」を高めるこの法改正が、2026年にどのような形で実現するのか注目されます。

参考資料:

関連記事

最新ニュース