ビットコインと金銀が同時急落、ドル回帰の背景
はじめに
2026年2月に入り、金融市場で異例の同時安が発生しています。ビットコインは一時7万7000ドルを割り込み、約10カ月ぶりの安値を記録しました。金は1日で10%超の急落、銀に至っては30%以上の暴落となり、安全資産とされてきた貴金属市場が大きく動揺しています。
こうした混乱の背景にあるのが、米ドルへの資金回帰です。トランプ大統領によるFRB次期議長の指名をきっかけに、ドルの信認が急速に回復し、金銀や暗号資産から資金が流出しました。本記事では、この同時急落のメカニズムと、各資産間の「流動性格差」について解説します。
ドル回帰を引き起こしたFRB人事
ケビン・ウォーシュ氏の指名
1月30日、トランプ大統領は次期FRB議長にケビン・ウォーシュ元FRB理事を指名しました。ウォーシュ氏は2006年から2011年にかけてFRB理事を務めた経験を持ち、金融危機の渦中でもインフレリスクを警戒して利下げに慎重な姿勢を示した「タカ派」として知られています。
市場では、トランプ大統領が大幅な利下げを推進する「イエスマン」的な人物を指名するとの観測が広がっていました。しかし、ウォーシュ氏の指名はその予想を裏切るものでした。ウォールストリートの反応は「比較的タカ派の選択」というもので、FRBのバランスシート縮小や金利の高止まりを容認するシグナルと受け止められました。
ドル高の急進
ウォーシュ氏の指名を受け、為替市場では主要通貨(G10通貨)全てに対して米ドルが上昇しました。ドル指数(DXY)の急反発は、それまでのドル安トレンドを一変させるものでした。ドルの信認回復は、「ドル不信」を背景に買われてきた金や銀にとって逆風となりました。
ドルが強くなると、ドル建てで取引される金は国際的な買い手にとって割高になります。この為替要因が、実需の減退を通じて価格下落を加速させました。
金銀市場の歴史的暴落
金:46年ぶりの下落率
金先物価格は1月30日、前日比600ドル超の急落となり、終値は1トロイオンス4745ドル前後を記録しました。1日の下落率は10%を超え、1980年以来46年ぶりの大幅安です。
金は2026年1月だけで29%もの上昇を見せており、一時は5600ドルに迫る場面もありました。しかし、急騰の裏側では投機的なポジションが膨れ上がっており、ウォーシュ氏指名という「タカ派シグナル」が利益確定売りの引き金となりました。
銀:史上最大の1日下落
銀の暴落はさらに激しいものでした。一時1トロイオンス120ドルの史上最高値をつけた直後に急反落し、30%超の下落を記録しました。これは銀の歴史上、最大級の1日下落率です。
CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)が銀・プラチナ・パラジウムの証拠金率を9%から11%に引き上げていたことも、下落を増幅させました。証拠金の引き上げにより、レバレッジをかけて取引していた投機筋が強制的にポジションを解消せざるを得なくなり、売りが売りを呼ぶ展開となりました。
ビットコインへの波及と流動性格差
暗号資産市場の連鎖安
貴金属市場の混乱は暗号資産にも波及しました。ビットコインは2月2日未明に一時7万7000ドルを割り込み、2025年4月以来の安値を記録しました。1月末時点で8万3000ドル前後だった水準から、さらに下値を探る展開となっています。
注目すべきは、金とビットコインの相関関係です。過去12カ月の相関係数は0.01とほぼ無相関ですが、今回は「ドル回帰」という共通の力学によって同時に売られました。金が「安全資産」として、ビットコインが「デジタルゴールド」として買われてきた前提が、ドルの復調によって同時に崩れた格好です。
流動性の「格の違い」
今回の急落で浮き彫りになったのは、資産クラス間の流動性格差です。米ドルは世界最大の取引量を誇る通貨であり、その市場の厚みは他の資産を圧倒しています。
金は実物資産としての歴史と信頼がありますが、市場規模はドルに比べれば限定的です。銀はさらに市場が小さく、今回の30%超の暴落はその薄さを露呈しました。ビットコインは24時間取引が可能である一方、機関投資家の参入はまだ限定的で、大口の売買が価格に与える影響は大きいままです。
ドルへの信認が回復すると、こうした「流動性の低い」資産から「流動性の高い」ドルへ資金が急速に移動します。これが今回の同時安の本質的なメカニズムです。
注意点・展望
短期的な調整か構造的な転換か
多くのアナリストは、今回の急落を「構造的な強気相場の中での健全な調整」と位置づけています。UBSやJPモルガンなどの大手金融機関も、貴金属の長期的な強気ファンダメンタルズは維持されるとの見方を示しています。
ただし、ウォーシュ氏のFRB議長就任が実現すれば、金融引き締めの長期化が現実味を帯びます。金利が高止まりする環境では、利息を生まない金やビットコインの機会コストが高くなり、投資妙味が薄れます。
今後の注目ポイント
ウォーシュ氏の上院承認プロセスが最大の焦点です。共和党内からも承認に慎重な声が上がっており、確定までには不透明感が残ります。また、2月の米雇用統計やインフレ指標が、今後の金融政策の方向性を占う重要な材料となります。
仮にFRBが2026年後半に利下げサイクルに入れば、ドル安と流動性改善を通じて金やビットコインが再び上昇する可能性もあります。
まとめ
2026年2月の金融市場では、FRB次期議長へのウォーシュ氏指名をきっかけに、ドルが急速に回復し、金銀やビットコインが同時に急落しました。この現象は、各資産クラス間の「流動性格差」を改めて浮き彫りにしています。
投資家にとっての教訓は、ドルの動向が全ての資産価格に影響を及ぼすという基本的な構図です。「安全資産」や「代替資産」と呼ばれるものも、ドルの信認が揺らぐ時に買われ、回復する時に売られるという点では同じ力学に支配されています。今後はウォーシュ氏の承認動向と米国の経済指標に注目が集まります。
参考資料:
- ビットコイン急落、何があった?8万ドルを守れるか
- Gold and silver crash puts crypto back in focus - TheStreet
- Precious metals crash with silver plunging 32%, gold 11% - CoinDesk
- Trump taps Kevin Warsh to chair Federal Reserve - NBC News
- 金・銀暴落の背景〜次期FRB議長にケビン・ウォーシュ氏指名
- Chaotic Asset Markets: Silver Plunges 30%, Bitcoin Crashes Below $80,000 - Seoul Economic Daily
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