金価格が急落、4兆ドル超が消失した背景を解説
はじめに
2026年1月末、金(ゴールド)市場に激震が走りました。金価格の国際指標であるロンドン現物価格は、1月29日に史上初めて1トロイオンス=5500ドルを突破したわずか翌日、一転して急落。1日で約4.3兆ドル(約670兆円)もの時価総額が吹き飛びました。
これは1980年以来、約40年ぶりの大幅な下落です。金融市場で「安全資産」の代名詞とされてきた金が、なぜここまで激しく売り込まれたのでしょうか。
本記事では、金価格急落の背景にある投機マネーの動き、2025年からの急騰要因、そして今後の金市場の見通しについて解説します。
金価格急落の全容
史上初の5500ドル突破から一転
2026年1月29日、金のスポット価格は史上初めて1トロイオンス=5595ドルに到達しました。田中貴金属の店頭小売価格も、初めて1グラム3万円を超えました。
しかし、その喜びも束の間でした。翌30日、金価格は一転して急落。ニューヨーク時間の取引で、金スポット価格は一時9.75%下落し、4900ドル付近まで落ち込みました。MKSパンプの金属戦略責任者ニッキー・シールズ氏は「2026年1月は貴金属史上最もボラティリティの高い月だった」と述べています。
銀はさらに激しい下落
金よりもさらに激しく売り込まれたのが銀です。銀価格は1トロイオンス=121ドルという史上最高値から、一気に78〜80ドル付近まで下落。1日の下落率は約30%に達し、1980年代初頭以来の歴史的な暴落となりました。
金と銀を合わせた時価総額の減少は、わずか3日間で約10兆ドル(約1500兆円)に達したとの推計もあります。
ドル高が引き金に
急落の直接的なきっかけは、1月30日のケビン・ウォーシュ氏のFRB議長指名発表でした。金融タカ派として知られる同氏の登用により、「金利が長期間高止まりする」との見方が広がりました。
これを受けて米ドルが急上昇。ドル建てで取引される金は、ドル高になると海外投資家にとって割高になります。大規模な利益確定売りとリスク回避の動きが一気に加速しました。
投機マネーが招いた過熱
中国投機勢力の存在
今回の急騰と急落の背景には、中国からの投機マネーが大きく関与していました。ブルームバーグの報道によると、この数週間で中国の投機勢力が金と銀を大量に買い上げ、相場を過熱させていました。
上海市場では、国際価格を大きく上回るプレミアムが発生していました。1月25日時点で、銀のプレミアムは1トロイオンスあたり5.78ドル、金のプレミアムは109.28ドルに達していました。
個人投資家から機関投資家まで
中国では、個人投資家から大手株式ファンドまで、幅広い層がコモディティ市場に参入していました。自国通貨・人民元の価値下落リスクに備えて金保有を増やす動きが顕著でした。
価格が急騰するにつれ、トレンドフォロー型の商品投資顧問(CTA)も追随買いに動きました。これが相場に「泡」を加え、過熱を一層深刻化させました。
利益確定売りの連鎖
「安全資産」としての金が、「投機商品」としての色合いを強めていたことが、今回の急落で露呈しました。ある市場関係者は「多くの投機家が市場に参入しており、ボラティリティが極めて高くなっている」と指摘しています。
価格上昇が続いている間は良いですが、いったん下落が始まると、レバレッジをかけたポジションの強制清算が連鎖します。テクニカル的にも、1月の急騰局面ではポジション、レバレッジ、オプション取引量のすべてが短期ピークの典型的な水準に達していました。
2025年の金価格急騰を振り返る
中央銀行による記録的な買い
2025年から2026年にかけての金価格急騰の主因は、各国中央銀行による記録的な金購入でした。ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の調査によると、世界の中央銀行の95%が「今後12カ月で金準備は増加する」と回答。これは過去最高の数字です。
特に中国、インド、トルコ、ポーランドなどの新興国が積極的に金を買い増しています。彼らは短期利益ではなく、国家の安全保障として金を保有しているため、多少の価格上昇では売りに出ません。この「売らない買い手」の存在が、金価格の下支えとなっていました。
ドル離れと外貨準備の多様化
金購入の背景には、「ドル離れ」の動きがあります。WGCの調査では、中央銀行の73%が「今後5年間で世界の外貨準備に占めるドルの割合は低下する」と予想。同時に76%が「2030年までに金の割合は上昇する」と回答しています。
ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁で、ドル建て資産凍結のリスクが顕在化しました。これを契機に、新興国を中心に外貨準備の多様化が加速しています。
金ETFへの資金流入
2025年には、5年ぶりに金ETF市場が純流入に転じました。機関投資家や個人投資家の資金が、現物裏付けの金ETFに流入しています。
2025年最初の6カ月のうち5カ月で資金流入を記録し、世界の金ETFからの資金流出サイクルが転換したことが明らかになりました。この構造的な変化も、金価格の上昇を支えました。
地政学リスクと米国の金融政策
2025年は、米国経済の減速シグナルとインフレ鈍化を受け、FRBによる利下げ観測が市場に広がりました。1月27日にはトランプ大統領が「ドル安は素晴らしい」と発言し、ドル指数が約4年ぶりの低水準に急落。ドルの代替資産として金への資金流入が加速しました。
地政学的リスクも金価格を押し上げました。ロシア・ウクライナ情勢に加え、トランプ政権の関税政策への警戒感が、リスク回避先としての金需要を刺激しました。
注意点と今後の展望
調整であって暴落ではない
今回の急落をどう解釈すべきでしょうか。UBSやJ.P.モルガンなど大手金融機関のアナリストは、「構造的な強気相場の中での健全な調整」と見ています。
金価格6000ドルへの道のりは「より険しく」なりましたが、地政学的緊張や世界的な債務問題といった根本的な上昇要因は変わっていません。UBSは2026年3月、6月、9月の金価格目標を6200ドルに引き上げています。
中央銀行の買い支えは継続
短期的な投機マネーの動きに左右されても、中央銀行による金購入という構造的な需要は継続する見通しです。ゴールドマン・サックスは2026年末の金価格予想を従来の4900ドルから5400ドルに引き上げました。
中央銀行は価格変動に左右されず、長期的な視点で金を購入し続けます。この「売らない買い手」の存在が、金価格の下限を支える要因となります。
投機のリスクを認識すべき
一方で、今回の急落は金市場のリスクも明らかにしました。「安全資産」とされる金も、投機的な買いが集中すれば激しい価格変動に見舞われます。
特に中国からの投機マネーの影響力が大きくなっています。今後も上海市場の動向が、国際金価格を左右する可能性があります。レバレッジをかけた投資には十分な注意が必要です。
まとめ
2026年1月末の金価格急落は、1日で約4.3兆ドルの時価総額が消失するという歴史的な出来事でした。直接の引き金はFRB議長人事によるドル高でしたが、その背景には中国投機マネーによる相場の過熱がありました。
「安全資産」とされる金も、投機商品としての側面を持っています。今回の急落は、この事実を市場に突きつけました。ただし、中央銀行による継続的な買いや、ドル離れの潮流といった構造的な上昇要因は健在です。専門家の多くは、これを強気相場の中の調整局面と見ており、中長期的な上昇トレンドは続くとの見方が優勢です。
参考資料:
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