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by nicoxz

金価格が急落、安全資産の神話が揺らぐ背景

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はじめに

2026年1月末、金(ゴールド)市場に激震が走りました。1月29日から30日にかけて、金価格は最高値の1トロイオンスあたり約5,600ドルから一気に4,700ドル付近まで急落。わずか2日間で約16%もの下落を記録し、金と銀を合わせた時価総額は推定7.4兆ドル(約1,100兆円)が消失しました。

この1年間、地政学リスクやドル不信を背景に「安全資産」として人気を集めてきた金ですが、今回の暴落は投機的な色合いが強まっていた実態を浮き彫りにしました。本記事では、急落の背景にある複数の要因と、今後の見通しについて解説します。

急落の引き金:ウォーシュ次期FRB議長指名

トランプ大統領の人事発表

今回の金価格急落の最大の引き金となったのは、トランプ大統領による次期FRB(米連邦準備制度理事会)議長の人事発表です。2026年1月30日、トランプ大統領はケビン・ウォーシュ元FRB理事を次期議長に指名すると発表しました。

ウォーシュ氏は2006年に史上最年少の35歳でFRB理事に就任した経歴を持つ人物です。上院の承認を経て、2026年5月に任期満了を迎えるジェローム・パウエル現議長の後任となる予定です。

「タカ派」への期待とドル高

市場がウォーシュ氏の指名に強く反応した理由は、同氏が「タカ派」として知られていることにあります。タカ派とは、インフレ抑制を重視し、引き締め的な金融政策を支持する立場です。

ウォーシュ氏はFRBのバランスシート縮小を主張しており、量的緩和(QE)に伴うインフレ圧力を排除すべきだと論じてきました。この姿勢が「ドルの価値を守る議長が就任する」という期待につながり、ドル指数は2025年5月以来の大幅な上昇を記録しました。

ドル高は金価格にとって逆風です。金はドル建てで取引されるため、ドルが上昇すると海外投資家にとって金の割高感が増し、売り圧力が強まります。

暴落を加速させた構造的要因

CMEによる証拠金引き上げ

ウォーシュ氏の指名発表だけが急落の原因ではありません。1月27日にCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)がシルバー・プラチナ・パラジウム先物の証拠金率を9%から11%に引き上げ、29日にはゴールドの証拠金も5%から6%に引き上げると発表しました。

証拠金の引き上げは、レバレッジをかけて取引していた投資家にとって追加の担保が必要になることを意味します。資金が足りない投資家は強制的にポジションを解消せざるを得ず、これが売りの連鎖を生みました。

投機マネーの過熱

2026年に入ってから1月中旬までに、金価格は約29%もの急上昇を記録していました。この上昇の背景には、各国中央銀行の買い増しに加え、中国の個人投資家を中心とした投機的な資金流入がありました。

短期間での急騰は「利益確定の売り」を誘発しやすい状況を作り出します。何らかのネガティブなニュースが出れば、一斉に利益を確定しようとする動きが殺到し、価格の下落が下落を呼ぶ悪循環に陥ります。今回はまさにその典型的なパターンでした。

銀の歴史的暴落

金以上に衝撃的だったのが銀(シルバー)の動きです。銀は1月30日に30〜35%もの暴落を記録し、1トロイオンス120ドル付近から75〜78ドルまで急落しました。これは1980年以来最悪の1日の下落率です。銀は金よりも市場規模が小さく、投機マネーの影響を受けやすいため、より激しい値動きとなりました。

「安全資産」の神話と現実

安全資産が危険資産に変わるとき

金は伝統的に「安全資産」として位置づけられてきました。株式市場の暴落時やインフレ時の逃避先として、ポートフォリオの安定装置の役割を担ってきたのです。

しかし今回の暴落は、金が「安全資産」であるという前提そのものに疑問を投げかけました。投機的な資金が大量に流入した結果、金は本来の「価値の保存手段」から「高リスク・高リターンの投機商品」へと性質が変化していたのです。

多くの投資家が同じ方向にポジションを積み上げた場合、ひとたび反転が始まると流動性が枯渇し、急激な価格変動が発生します。「全員が安全だと思って集まる場所は、もはや安全ではない」という皮肉な現象が起きたといえます。

暗号資産への資金シフトの兆候

金価格の急落を受けて、ビットコインをはじめとする暗号資産への資金シフトが一部で観測されています。「デジタルゴールド」として金の代替的な安全資産の地位を狙うビットコインにとって、金の信頼性低下は追い風となる可能性があります。

ただし、暗号資産市場もまた高いボラティリティ(価格変動性)を抱えており、安全資産としての位置づけが確立されているとは言い難い状況です。

注意点・展望

短期的な調整か、構造的な転換か

多くのアナリストは、今回の急落を「構造的な強気相場における健全な調整」と位置づけています。UBSやJ.P.モルガンなど大手金融機関のアナリストは、長期的な上昇トレンドは維持されるとの見方を示しています。

その根拠として、世界の中央銀行が金の買い増しを続けている点、地政学リスクが解消されていない点、そして長期的なドル不信が依然として存在する点が挙げられます。

ウォーシュ氏承認の不透明感

一方で、ウォーシュ氏のFRB議長就任には不確実性があります。共和党のトム・ティリス上院議員がパウエル現議長に対する連邦捜査が完了するまでウォーシュ氏の指名に反対すると表明しており、承認手続きが難航する可能性があります。上院院内総務のジョン・スーンも、ティリス議員の支持なしには承認は「恐らく不可能」と述べています。

承認が遅延または頓挫した場合、ドル高の根拠が揺らぎ、金価格が再び上昇に転じる可能性もあります。

まとめ

2026年1月末の金価格急落は、安全資産とされてきた金が投機マネーの流入によって高リスク資産へと変質していたことを示しました。FRB議長人事、CMEの証拠金引き上げ、投機ポジションの巻き戻しという複数の要因が重なり、歴史的な下落幅を記録しました。

投資家にとって重要な教訓は、「安全資産」というラベルを過信しないことです。どのような資産であれ、短期間で急騰した後は大きな調整リスクを伴います。金への投資を検討する際は、長期的な視点を持ちつつ、ポートフォリオ全体のバランスを意識することが不可欠です。

参考資料:

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