時間溶かすSNSを強制ブロック、中高生が頼るアプリ「ブロッキン」
はじめに
SNSに親しむ中高生らのスマートフォン依存に歯止めをかける日本発のアプリ「Blockin(ブロッキン)」が利用者を増やしています。2023年5月のリリース以降、国内外で累計30万ダウンロード(2024年8月末時点)を達成しました。世界で広がるSNS利用のルールづくりが国内で遅れる中、率先して利用を始める未成年が目立ちます。
10代のインターネット利用時間は1日平均7時間を超え、その多くをSNSや動画視聴に費やしています。スマホに費やす時間の長期的な累積を可視化する機能も備えたBlockinは、若者たちの自己管理を支援しています。本記事では、Blockinの機能、世界のSNS規制動向、そして日本の若者が直面するスマホ依存の実態について詳しく解説します。
Blockinの特徴と機能
強制ブロック機能の仕組み
Blockin最大の特徴は、設定した時間帯や利用時間の上限に達すると、アプリを自動で強制的にブロックする機能です。例えば、夜22時から朝7時まで特定のSNSアプリを利用できなくするなど、自分で決めたルールを強制的に守らせることができます。
この仕組みは、アクセシビリティサービスを使用してアプリの使用を検出およびブロックします。重要なのは、個人情報やアプリ使用データは収集されず、すべてのデータはユーザーのデバイスに保存される点です。プライバシーを守りながら、自己管理を支援する設計となっています。
3種類のブロック設定
Blockinには、利用者の目的に応じて3種類のブロック設定が用意されています。
1. リミットブロック(制限ブロック) 1日のアプリ使用時間に上限を設定できます。例えば、TikTokの利用を「1日2時間まで」と設定すると、2時間使用後に自動的にアクセスがブロックされます。SNSの過度な利用を防ぐのに効果的です。
2. タイムブロック(時間帯ブロック) 日常のルーチンに合わせて「ブロック時間」を設定できます。「午後9時から深夜0時」を静かな時間として予約すれば、Blockinがこの時間帯を厳格に守ります。就寝前のスマホ利用を防ぎ、睡眠の質を向上させるのに役立ちます。
3. クイックブロック 今すぐ集中したい時に全てをブロックするモードです。勉強や課題に取り組む際、25分間の作業時間と5分間の休憩を組み合わせた「ポモドーロタイマー」機能も提供されており、効率的な学習をサポートします。
可視化による動機づけ
Blockinの特徴的な機能の一つが、利用者の頑張りを可視化する仕組みです。日ごとに丸いアイコンが溜まっていき、設定を守れると青、守れないと赤が表示されます。この視覚的なフィードバックは、継続的な自己管理のモチベーションを維持するのに効果的です。
さらに印象的なのが、「人生でスマホに費やす時間」を提示する機能です。現在の利用パターンが続いた場合、生涯でどれだけの時間をスマホに費やすことになるかを計算して表示します。この長期的な視点は、多くの利用者に衝撃を与え、行動変容のきっかけとなっています。
開発背景と運営会社
創業者の思いとビジョン
Blockinは株式会社Noovaが運営しており、開発者はワシントン大学卒業後、PwCコンサルティング合同会社に入社した経歴を持ちます。開発のきっかけは、「自分に良い影響を与えることへの時間を増やしたい」という個人的な思いでした。
多くの人がスマホに時間を奪われ、本来やりたいことや大切なことに時間を使えていない現状に問題意識を持ち、2023年5月にBlockinをリリースしました。このアプリは、単なるスクリーンタイム管理ツールではなく、人生の質を向上させるためのツールとして設計されています。
利用者の拡大
2023年5月のリリース以降、国内外で累計30万ダウンロード(2024年8月末時点)を達成しています。特に中高生を中心とした若年層からの支持が厚く、自らスマホ依存を自覚し、改善したいと考える未成年の利用が目立ちます。
App StoreとGoogle Playの両方で提供されており、iOSとAndroidの両プラットフォームで利用可能です。アプリストアでの評価も高く、教育・学習カテゴリーで上位にランクインしています。
日本の若者が直面するスマホ依存の実態
10代の利用時間は1日平均7時間超
総務省の調査によれば、10代のインターネット利用時間は仕事・学校と私用を合わせて1日平均7.3〜7.7時間に達しています。具体的には、10代女性は7.7時間(仕事・学校2.5時間、私用等5.2時間)、10代男性は7.6時間(仕事・学校2.7時間、私用等4.9時間)です。
この数字は、起きている時間の約半分をインターネットに費やしていることを意味します。睡眠時間を8時間とすると、残りの16時間のうち7〜8時間がオンラインという計算になります。
高校生の3割以上が7時間以上利用
令和5年度の調査では、高校生のインターネット利用時間で7時間以上使用している割合は33.0%に達しています。その内訳は、7時間以上8時間未満が7.8%、8時間以上9時間未満が6.5%、9時間以上が18.8%となっています。
令和6年度の調査でも、高校生の7時間以上の利用は33.2%とほぼ同水準を維持しており、長時間利用が常態化していることがわかります。
過去5年で利用時間が大幅増加
令和3年度の調査によると、小学生(10歳以上)の平日1日あたりのインターネット利用時間は約3時間27分、中学生は約4時間19分で、共に前年度から約1時間も長くなっていました。この傾向はさらに進行し、現在では10代全体で7時間を超える水準に達しています。
過去5年間で若年層のスマホ利用時間は大幅に増加しており、コロナ禍によるオンライン学習の普及やSNS・動画配信サービスの浸透が背景にあります。
動画視聴の長時間化
2024年の調査では、10代男性、10代女性、20代女性の約3割が1日6時間以上スマートフォンで動画を視聴しています。YouTube、TikTok、Instagramのリールなど、ショート動画を含む様々な動画コンテンツが、時間を「溶かす」主要因となっています。
学力への悪影響
脳科学の研究によれば、スマホを3時間以上使う子どもの成績は平均以下になる傾向があるとされています。スマホの長時間利用は、集中力の低下、記憶力の減退、睡眠の質の悪化などを引き起こし、学習効率を大幅に低下させます。
スマホ依存は単なる時間の浪費にとどまらず、学業成績、精神的健康、対人関係など、若者の人生全般に悪影響を及ぼす可能性があります。
世界で広がるSNS規制の動き
オーストラリア:世界初の16歳未満SNS禁止法
オーストラリア連邦政府は2025年12月10日、16歳未満による主要ソーシャルメディア(SNS)の新規アカウント作成および既存アカウントの保有を制限する法律を施行しました。国家として世界で初めての年齢に基づくSNS利用規制となります。
対象となっているプラットフォームは、Facebook、Instagram、YouTube、TikTok、Snapchat、X(旧Twitter)、Kick、Reddit、Threads、Twitchの10社(2025年12月現在)で、違反した場合には運営企業に対して最大で約4,950万オーストラリア・ドル(約51億円)の罰金が科せられる可能性があります。
2025年1月から試験運用を開始し、様々な調整を実施した上で、1年後に禁止措置が発効する予定です。この法律は、若者のメンタルヘルスを守り、SNSによる悪影響から保護することを目的としています。
フランス:15歳未満は保護者同意必須
フランスでは2023年、15歳未満の子どもがSNSアカウントを作る際に、保護者の同意を義務付ける法律が制定されました。ただし、利用者の年齢の確実な認証が技術的に難しく、実効的な施行には至っていません。
さらに、2024年9月の新学期から約200カ所の中学校で、学生のスマートフォン使用を禁止する「デジタルコンマ」政策を施行しています。学校内にロッカーを設けて、登校した生徒からスマホを回収し、下校する時に返却する仕組みです。
各国の動き
ニュージーランド、ギリシャ、ルーマニアなどは、オーストラリアと同様の措置を検討中です。
デンマークは15歳未満の利用禁止計画を発表しました。
ノルウェーは最低年齢を13歳から15歳に引き上げることを提案しています。
アメリカ・フロリダ州では2024年3月、14歳未満のソーシャルメディアの利用を禁止する州法が成立しました。
このように、世界各国でSNSの若年層利用を制限する動きが急速に広がっています。子どもたちをSNSの悪影響から守ることは、国際的な共通課題となっています。
日本の規制の遅れと自主的取り組み
法規制の不在
世界で広がるSNS利用のルールづくりに対して、日本では国レベルでの法規制は存在しません。青少年インターネット利用環境整備法などの枠組みはありますが、SNS利用に特化した年齢制限や時間制限の法律はありません。
この規制の遅れは、若者たちを野放しの状態に置いているとも言えます。保護者や学校の自主的な取り組みに頼る現状では、スマホ依存の拡大を防ぐには限界があります。
未成年が率先して利用開始
興味深いのは、法規制が遅れる中、日本では未成年自身が率先してBlockinのようなアプリを利用し始めている点です。自分のスマホ依存を自覚し、何とか改善したいと考える中高生が、自らこうしたツールを求めています。
これは、若者たちがスマホ依存の問題を深刻に受け止めており、受動的に規制を待つのではなく、能動的に解決策を探していることを示しています。大人の規制を待つのではなく、自己管理ツールを活用する姿勢は、デジタルネイティブ世代の成熟度を表しているとも言えます。
教育現場での活用
一部の学習塾や学校では、Blockinの利用を生徒に推奨する動きも見られます。勉強時間中にスマホをブロックすることで、集中力を高め、学習効率を向上させる効果が期待されています。
さくら個別など、具体的にBlockinを導入している教育機関もあり、生徒の自主性を尊重しながら、デジタルデトックスを支援する取り組みが広がっています。
Blockinの効果と課題
利用者の声
実際の利用者からは、「スマホに費やす時間を見て衝撃を受けた」「夜寝る前のSNSチェックがなくなり、睡眠の質が向上した」「勉強時間が増え、成績が上がった」といった肯定的な声が多く寄せられています。
特に、「人生でスマホに費やす時間」を可視化する機能は、多くの若者に行動変容のきっかけを与えています。「このままでは人生の3分の1をスマホに費やすことになる」という具体的な数字は、強烈なメッセージとなります。
回避の可能性
一方で、Blockinのような自己管理アプリには構造的な課題もあります。最終的にはユーザー自身が設定をオフにすることも可能であり、強い意志がなければ回避されてしまう可能性があります。
ただし、Blockinは「回避できないようにする」ことを目指すのではなく、「回避したくなくなる」仕組みを重視しています。可視化や達成感の提供を通じて、内発的な動機づけを促すアプローチです。
プライバシーとセキュリティ
アクセシビリティサービスを利用する仕組み上、プライバシーとセキュリティへの懸念もあります。Blockinは個人情報やアプリ使用データを収集せず、すべてのデータをユーザーのデバイスに保存する設計としていますが、利用者はこうした点を理解した上で使用する必要があります。
今後の展望
機能拡張の可能性
今後、Blockinはさらなる機能拡張が期待されます。例えば、保護者が子どものスマホ利用を管理できるペアレンタルコントロール機能、友人同士で励まし合うソーシャル機能、AIによる使用パターン分析とパーソナライズされた提案などが考えられます。
教育機関との連携
学習塾や学校との連携を強化し、教育現場でのデジタルデトックスを組織的に支援する取り組みも有望です。生徒の集中力向上と学業成績改善に貢献できれば、より多くの教育機関での採用が進むでしょう。
法規制との補完関係
日本でも将来的にSNS利用に関する法規制が導入される可能性があります。その際、Blockinのような自主的な管理ツールは、法規制を補完する役割を果たすことができます。規制だけでなく、自己管理能力の育成を支援するツールの組み合わせが、最も効果的なアプローチとなるでしょう。
グローバル展開
累計ダウンロード数は国内外で30万を達成していますが、スマホ依存は日本だけの問題ではありません。世界中の若者が同様の課題に直面しており、Blockinのグローバル展開には大きな可能性があります。
多言語対応を強化し、各国の文化や規制に適応したカスタマイズを行えば、国際市場でのさらなる成長が期待できます。
まとめ
SNSに時間を奪われる中高生を中心に、強制ブロック機能を備えた「Blockin(ブロッキン)」の利用が広がっています。累計30万ダウンロードを達成したこのアプリは、世界でSNS規制が進む中、日本では未成年が自ら率先して利用を始めているという特徴的な現象を生んでいます。
10代の1日平均インターネット利用時間は7時間を超え、その多くをSNSや動画視聴に費やしている現状は深刻です。オーストラリアが世界初の16歳未満SNS禁止法を施行するなど、各国が規制強化に動く中、日本では法整備が遅れています。
しかし、若者たち自身がスマホ依存を自覚し、Blockinのような自己管理ツールを積極的に活用し始めている点は希望的です。強制ブロック、可視化、動機づけという機能を通じて、Blockinは単なるスクリーンタイム管理ツールを超え、人生の質を向上させるツールとして機能しています。
今後、法規制と自主的な管理ツールの組み合わせが、若者をスマホ依存から守る最も効果的なアプローチとなるでしょう。Blockinの更なる機能拡張とグローバル展開に期待が集まります。
参考資料:
関連記事
AIだけのSNS「Moltbook」登録150万体、不気味な会話の正体
AIエージェントだけが投稿できるSNS「Moltbook」が話題です。人間への反抗を呼びかける投稿の真相と、セキュリティ上の懸念について解説します。
選挙YouTube動画、再生数の7割が匿名発信の衝撃
衆院選関連のYouTube動画を調査したところ、再生数の7割が匿名投稿者によるものでした。切り抜き動画やショート動画が選挙に与える影響と、フェイクニュース拡散の課題を解説します。
令和の若者言葉「まである」の意味と背景を解説
SNSで広がる若者言葉「まである」の意味・使い方・語源を解説。令和時代の日本語変化とSNSが言葉に与える影響を多角的に読み解きます。
ユニクロのキッズダウンを大人が着る新トレンドの背景
ユニクロのキッズ用パフテックダウンを大人がタイトに着こなすトレンドがSNSで急拡大。Z世代を中心に広がる流行の3つの要因と、ファッショントレンドの転換点を解説します。
自民党が「高市人気」をSNS選挙戦略の軸に据える理由
2026年衆院選で自民党候補が高市首相の名前を前面に打ち出す戦略を採用。宮城県知事選以降のSNS分析から見える選挙戦術の変化を解説します。
最新ニュース
ビットコイン7万ドル台急落、テック株売りが暗号資産に波及
ビットコインが約1年3カ月ぶりの安値となる7万2000ドル台に急落しました。米ハイテク株の売りが暗号資産市場に波及した背景と、MicroStrategyの含み損問題について解説します。
日銀の量的引き締め出遅れと円安の関係を解説
日銀のマネタリーベース縮小が米欧に比べ緩やかな理由と、それが円安に与える影響について解説します。FRB新議長候補ウォーシュ氏の金融政策姿勢にも注目が集まっています。
書店600店の在庫を一元化|返品率30ポイント削減の新システム
紀伊国屋書店、TSUTAYA、日販が出資するブックセラーズ&カンパニーが、56社603店の在庫を横断管理するデータベースを始動。返品率6割減を実現した事例と、出版業界の構造改革を解説します。
中国海警局の尖閣周辺活動が過去最多に、日中の緊張続く
2025年、中国海警局の船舶が尖閣諸島周辺の接続水域に357日出没し過去最多を更新。日本の対応策と偶発的衝突防止の課題を解説します。
中国の土地売却収入がピーク比半減、地方財政に深刻な打撃
中国の地方政府の土地売却収入が2025年も前年比14.7%減少し4年連続の減少を記録。ピークの2021年から52%減となり、不動産不況が地方財政を圧迫し続けています。