中部電力・浜岡原発データ不正発覚——「捏造に近い」と規制委
はじめに
中部電力が浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の再稼働審査において、地震データを不正に操作していた疑いが発覚しました。
原子力規制委員会(NRA)は「捏造に近い事案」と断じ、浜岡原発の安全審査を中断。中部電力の林欣吾社長は「原子力事業の根幹を揺るがしかねない」と謝罪し、原子力部門の「解体的再構築」も視野に入れると表明しました。
南海トラフ巨大地震の想定震源域に立地する浜岡原発——その安全審査の信頼性が根本から問われる事態となっています。
発覚した不正の内容
地震データの「いいとこ取り」
中部電力によると、浜岡原発の安全審査に提出した「基準地震動」(原発が耐えるべき最大の揺れ)の算出において、担当社員が意図的にデータを操作した疑いがあります。
具体的には、20パターンの地震波データから「平均に最も近いもの」を選んだと規制委に説明していましたが、実際には審査を円滑に通過させるため、揺れが小さく見えるデータを意図的に選んでいた可能性があるとしています。
2019年から続いていた問題
問題の起源は2019年に遡ります。同年に規制委に報告した地震動の評価から、都合の良いデータを選ぶ行為が始まっていたとみられます。社内からは疑問の声も上がっていましたが、不適切な行為は継続されていました。
原子力部門の担当者数人が関与を認めており、組織的なデータ操作だった可能性も浮上しています。
内部告発から発覚へ
この問題は2025年2月に内部告発者が規制委に不審点を通報したことで発覚しました。規制委が調査を開始し、2025年12月に浜岡原発3・4号機の安全審査を中断。2026年1月に中部電力が正式に問題を公表する流れとなりました。
原子力規制委員会の厳しい反応
「捏造に近い事案」
規制委の反応は極めて厳しいものでした。山中伸介委員長は「これは重要な検査データの捏造であり、明らかに不正行為と考える」と断言しました。
規制委幹部も「捏造に近く、他の事業者による事案とは本質的に異なる」と述べ、1月7日の定例会合で今後の対応を議論するとしています。
「事業者としての適格性に疑問」
規制委幹部からは「信じられない。事業者への信頼を完全に打ち砕くものだ」「適格性に疑問を抱かせる」との発言もありました。
原発の安全審査は事業者への信頼を前提に行われます。その根幹が揺らいだことで、浜岡原発の審査再開は極めて困難な状況に陥りました。
中部電力の対応
社長が謝罪、「解体的再構築」を表明
中部電力の林欣吾社長は1月5日の記者会見で「地域の皆様やステークホルダーの信頼を失墜させ、原子力事業の信頼を揺るがしかねない事案と深刻に受け止めている」と謝罪しました。
さらに「原子力部門の解体的な再構築も視野に入れて、覚悟を持って取り組んでいきたい」と述べ、抜本的な組織改革の可能性を示唆しました。
第三者委員会を設置
中部電力は弁護士らで構成する独立した第三者委員会を設置し、全容解明を進めています。不正行為の範囲、関与した人数、組織的関与の有無などが調査対象となります。
株価は急落
この問題を受け、中部電力の株価は1月6日に約10%下落しました。これは13年以上ぶりの下落幅です。市場は問題の深刻さを織り込んでいます。
浜岡原発をめぐる背景
南海トラフ地震の想定震源域
浜岡原発は、南海トラフ巨大地震の想定震源域に位置しています。政府の地震調査委員会は、南海トラフ地震が今後30年以内に70〜80%の確率で発生すると予測しており、浜岡原発の耐震性は特に重要な審査項目です。
基準地震動を過小評価していたとすれば、原発の安全性評価そのものが根底から覆る可能性があります。
2011年から停止中
浜岡原発は、2011年の福島第一原発事故後に全機停止し、現在も運転を再開していません。中部電力は再稼働に向けた安全審査を進めてきましたが、今回の問題で2026〜27年の再稼働見通しは大幅に後退しました。
相次ぐ不祥事
中部電力は2025年11月にも、浜岡原発の安全対策工事で不適切な契約が発覚したばかりでした。2013〜19年に不適切な仕様変更手続きが行われていた問題で、原子力本部長の副社長ら幹部2人が引責辞任しています。
度重なる不祥事は、中部電力の原子力部門におけるガバナンス不全を浮き彫りにしています。
政府・地元の反応
経産省が報告を要求
経済産業省は1月5日、中部電力に対し、事実関係や経緯、原因などを調査した上で再発防止策を4月6日までに報告するよう求めました。
静岡県知事「大変遺憾」
静岡県の鈴木康友知事は「県民の信頼を損なう重大な事案であり大変遺憾」とコメント。地元自治体との信頼関係も損なわれる結果となりました。
原発政策への影響
再稼働推進への逆風
政府は原発の最大限活用を掲げ、再稼働を推進しています。しかし、中部電力の不正は、原子力事業者への信頼という前提を揺るがすものです。
他の原発でも同様の問題がないか、規制委による監視強化を求める声が高まる可能性があります。
電力供給への影響
浜岡原発の再稼働が大幅に遅れることで、中部電力管内の電力供給計画にも影響が出る可能性があります。脱炭素電源比率の向上という目標達成にも支障が生じかねません。
注意点と今後の展望
全容解明には時間がかかる
第三者委員会による調査が進められていますが、不正の全容解明には相当の時間がかかると見られます。組織的関与の範囲、経営陣の認識、再発防止策の実効性など、多くの論点が残されています。
信頼回復への道のりは長い
一度失われた信頼を取り戻すのは容易ではありません。林社長が言う「解体的再構築」がどこまで実行されるか、また規制委や地元住民がそれをどう評価するかが、浜岡原発の将来を左右することになります。
まとめ
中部電力・浜岡原発のデータ不正問題は、日本の原子力産業にとって深刻な信頼危機です。「捏造に近い」と断じた原子力規制委員会の厳しい姿勢は、問題の重大性を物語っています。
南海トラフ地震の想定震源域に立地する浜岡原発の安全性——その評価の根幹が揺らいだことで、再稼働への道のりは一層険しくなりました。中部電力がどのように信頼回復を図るのか、また日本の原発政策全体にどのような影響を与えるのか、今後の展開が注目されます。
参考資料:
- 浜岡原発の安全審査中断 信頼揺るがした中部電力 - 日本経済新聞
- 中部電力、浜岡原発の地震評価に不正な手法 - 日本経済新聞
- 浜岡原発の再稼働審査で基準地震動データを不正操作疑い - 中日新聞
- Cherry-picked quake data might have been submitted for Hamaoka nuclear plant - The Japan Times
- Japan stops Chubu Electric’s nuclear review due to flawed seismic data - The Japan Times
- Data fraud scandal hits Japan nuclear power plant in megaquake zone - South China Morning Post
- 浜岡原子力発電所の新規制基準適合性審査における基準地震動策定に係る不適切事案について - 中部電力
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