浜岡原発で地震データ不正、安全審査が中断
はじめに
中部電力が運営する浜岡原子力発電所(静岡県)で、安全審査に提出した地震データを恣意的に選別していた疑惑が浮上しました。原子力規制委員会は「不正行為」と断定し、審査を中断する事態となっています。
2011年の福島原発事故以来停止している浜岡原発の再稼働は、さらに遅れることが確実となりました。国民の原発への信頼を揺るがす深刻な問題として、厳しい批判を浴びています。
この記事では、今回の不正疑惑の詳細、規制委員会の対応、そして今後の影響について詳しく解説します。
不正疑惑の概要
地震データの恣意的選別
中部電力は、浜岡原発の安全審査に必要な「基準地震動」を算出する際、20種類の地震波パターンの中から、平均に最も近いものを選んで提出していました。
しかし問題は、この選択が審査をスムーズに通過させるために意図的に行われた可能性があることです。担当者が恣意的にデータを選別し、都合の良い結果を規制委員会に提出していた疑いが持たれています。
内部告発がきっかけ
この問題が発覚したきっかけは、2025年2月に寄せられた内部告発でした。原子力規制委員会(NRA)に対し、中部電力が提出した地震データに不整合があると通報がありました。
規制委員会は調査を進め、2025年12月に浜岡原発3号機・4号機の安全審査を一時中断。2026年1月になって、中部電力が地震データの不正使用の可能性を公式に認めました。
中部電力の対応
経営陣が謝罪
2026年1月6日、中部電力の林欣吾社長らは名古屋で記者会見を開き、深々と頭を下げて謝罪しました。
林社長は「地震データの選択に問題があった可能性がある」と認め、第三者委員会を設置して詳細な調査を行う方針を表明しました。
意図的かどうかは「調査中」
中部電力は、データ選別が意図的に行われたかどうかについては「調査中」としています。担当者個人の判断だったのか、組織的な関与があったのかは、今後の調査結果を待つ必要があります。
株価が急落
不正疑惑の発覚を受け、中部電力の株価は1月6日(火曜日)に約10%下落しました。これは13年以上ぶりの急落で、投資家の信頼を大きく損なう結果となりました。
原子力規制委員会の対応
「不正行為」と断定
原子力規制委員会の山中伸介委員長は、1月7日の定例会合で「これは重要な検査データの捏造であり、明らかに不正行為と考える」と厳しい見解を示しました。
規制委員会として、中部電力の行為を「不正(wrongdoing)」と正式に認定しています。
安全審査を中断
規制委員会は、浜岡原発の安全審査を正式に中断しました。データの信頼性が確認されるまで、審査を再開することはできないとの立場です。
この中断により、浜岡原発の再稼働時期は大幅に遅れることが確実となりました。
浜岡原発の現状
2011年から停止中
浜岡原発は、2011年の福島第一原発事故後、政府の要請を受けて全号機が運転を停止しています。当時の菅直人首相が、東海地震の想定震源域に位置する浜岡原発の危険性を指摘し、停止を求めました。
以来、中部電力は安全対策を進め、再稼働に向けた審査を受けてきました。
3・4号機の再稼働を目指していた
中部電力は浜岡原発3号機と4号機の再稼働を目指し、原子力規制委員会の新規制基準適合性審査を受けていました。2026年から2027年頃の再稼働を目標としていましたが、今回の問題で大幅な遅延が見込まれます。
安全対策に多額の投資
中部電力は浜岡原発の安全対策に約4,000億円を投資してきました。高さ22メートルの防潮堤建設など、大規模な対策を講じてきましたが、今回の不正疑惑でその努力が水泡に帰す恐れがあります。
基準地震動とは
原発の安全性を決める重要指標
「基準地震動」とは、原発の設計で想定すべき地震の揺れの強さを示す指標です。この値が大きいほど、より強い地震に耐えられる設計が求められます。
原子力規制委員会の安全審査では、基準地震動の算定が最も重要な項目の一つとなっています。
恣意的選別の問題点
今回問題となったのは、基準地震動を算出するための地震波データの選び方でした。
20種類のパターンから「平均に近いもの」を選ぶこと自体は、一見合理的に見えます。しかし、審査を通りやすくするために意図的に選んだのであれば、安全性の評価が甘くなる恐れがあります。
原発への信頼への影響
再稼働への逆風
日本では福島事故以来、原発への不信感が根強く残っています。今回の不正疑惑は、せっかく積み上げてきた信頼を再び損なう結果となりました。
他の原発の再稼働にも影響を与える可能性があり、原子力業界全体にとって痛手となっています。
データの信頼性問題
原発の安全性は、膨大なデータに基づいて評価されています。そのデータが恣意的に操作されていたとなれば、安全審査の根幹が揺らぎます。
規制委員会は今後、中部電力だけでなく他の電力会社にも同様の問題がないか確認を求める可能性があります。
内部告発の重要性
今回の問題が発覚したのは、内部告発がきっかけでした。組織の不正を正すうえで、内部告発制度の重要性が改めて示された形です。
電力会社には、不正を許さない企業文化と、告発者を保護する体制の構築が求められます。
今後の見通し
調査結果を待つ
中部電力は第三者委員会を設置し、詳細な調査を行う方針です。調査結果がまとまるまでには数カ月を要する可能性があります。
調査の結果、組織的な関与や隠蔽が認められれば、さらに厳しい処分が下される可能性があります。
再稼働は大幅遅延
浜岡原発の再稼働時期は、当初の予定から大幅に遅れることが確実です。審査の中断に加え、信頼回復のための追加的な対応も必要となるでしょう。
2027年以降、場合によっては2030年代にずれ込む可能性も指摘されています。
中部電力の経営への影響
原発が再稼働できなければ、中部電力は火力発電に依存し続けることになります。燃料費の負担が経営を圧迫し、電力料金への影響も懸念されます。
まとめ
浜岡原発の地震データ不正疑惑は、原子力発電の安全審査への信頼を根底から揺るがす深刻な問題です。原子力規制委員会は「不正行為」と断定し、審査を中断しました。
中部電力は第三者委員会を設置して調査を進めていますが、再稼働の大幅遅延は避けられません。原発の安全性は、正確なデータと厳格な審査によってのみ担保されます。今回の問題を教訓に、電力業界全体で信頼回復に取り組むことが求められています。
参考資料:
- Japan stops Chubu Electric’s nuclear review due to flawed seismic data - The Japan Times
- Cherry-picked quake data might have been submitted for Hamaoka nuclear plant - The Japan Times
- Chubu Electric Probes Safety Data Mishandling at Nuclear Plant - Bloomberg
- Japanese nuclear plant operator may have misused quake data for restart - Nikkei Asia
- Chubu Electric May Have Underestimated N-Plant Quake Risks - Nippon.com
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