尖閣諸島で激化する中国の活動と日本の抑止戦略
はじめに
東アジアの安全保障環境が緊迫する中、日本の尖閣諸島周辺では中国海警局の活動が年々エスカレートしています。2025年には接続水域への入域日数が355日を記録し、領海侵入も頻発しています。さらに2025年5月には、海警局船からヘリコプターが離陸し領空侵犯する事態も発生しました。
このような状況下で、偶発的な衝突をいかに防ぎ、東アジアの安定を維持するかが重要な課題となっています。日本は「対話と抑止」を両輪とする戦略で対応していますが、その取り組みは十分なのでしょうか。
この記事では、中国海警局の活動の実態、日本の対応策、そして日米同盟の役割について詳しく解説します。
中国海警局の活動激化の実態
年々増加する領海侵入と接続水域入域
中国海警局の尖閣諸島周辺での活動は、2012年の日本による尖閣諸島国有化以降、一貫して拡大しています。海上保安庁の統計によれば、2024年の接続水域への入域日数は355日に達し、過去最多を更新しました。
2025年3月には、中国海警局の公船が92時間以上にわたり日本の領海内に留まり続けるという事態が発生しています。これは退去要請を無視した過去最長の領海侵入でした。
活動のエスカレーション
2025年5月には新たな段階に入りました。領海に侵入した海警局船からヘリコプターが離陸し、日本の領空を侵犯する事態が起きたのです。これは海警局による初めての領空侵犯となり、事態の深刻さを示しています。
さらに2026年2月1日、中国海警局は海警法施行5周年に合わせ、尖閣諸島の日本領海内から撮影した映像を初めて公開しました。これは中国が尖閣諸島での「恒常的な存在感」を国際的に誇示し、日本の施政権を否定しようとする意図の表れと専門家は分析しています。
中国の戦略的意図
元米海軍大学校のトシ・ヨシハラ教授によれば、中国は尖閣海域での存在感を継続的に示すことで、将来的な「共同管理」を既成事実化しようとしていると指摘されています。2023年11月には習近平国家主席が中国海警局の上海本部を訪問し、「釣魚島(尖閣)の主権を強化せよ」と命令したとも報じられています。
日本の対応:抑止と法の支配
海上保安庁の体制強化
日本は海上保安庁の体制を大幅に強化してきました。2016年までに尖閣諸島周辺海域の領海警備体制を抜本的に見直し、大型巡視船10隻と複数クルー制を導入しています。2025年には大型巡視船が81隻となる計画も進められています。
領海侵入が発生した際には、現場で退去要求を行うとともに、外交ルートを通じて中国政府に厳重抗議し、即時退去と再発防止を求めています。木原稔官房長官は中国海警船の領海侵入について「国際法違反であり、誠に遺憾で受け入れることはできない」と明言しています。
自衛隊との連携強化
海上保安庁と自衛隊の連携も強化されています。2021年12月には護衛艦と巡視船が参加する実践的な訓練が初めて実施されました。また2022年11月には、自衛隊法第80条の規定に従い、海上保安庁が防衛大臣の統制を受ける場合の統制要領を策定する方針が定められました。
これは、事態がエスカレーションした場合にも、海上保安庁と海上自衛隊が切れ目なく対応できる体制を整備するものです。
抑制的対応の意義と限界
日本の抑制的かつ法に則った対応は、偶発的な衝突を回避しつつ緊張を管理する枠組みの維持に貢献しています。尖閣諸島周辺でエスカレーションが発生した場合、その影響は東アジア全域に波及する可能性があるため、現状の対応は一定の評価を受けています。
一方で、中国が警察力を超えた行動に出た場合への備えも必要とされており、抑止力の強化と対話の継続という「両輪」のバランスが問われています。
日米同盟の役割と外交努力
日米安保条約第5条の適用確認
日米同盟は尖閣諸島の防衛において重要な役割を果たしています。2025年2月の日米共同声明では、米国が「核能力を含む全ての能力を用いて日本の防衛を図る」とし、日本への揺るぎないコミットメントが強調されました。
2025年11月には、グラス駐日米大使が中国海警船の領海侵入に対して「米国は尖閣諸島を含め、日本の防衛に全面的にコミットしている」とSNSで発信し、中国を牽制しています。
日中間の対話の模索
対話の面でも努力が続けられています。2025年10月末には、韓国でのAPEC首脳会議の際に高市早苗首相と習近平国家主席の首脳会談が実現し、防衛当局間の実効性ある危機管理と意思疎通の確保の重要性について一致しました。
しかし、台湾有事に関する高市首相の国会答弁をきっかけに、中国が日本産水産物の輸入を事実上再停止するなど、日中関係は依然として不安定な状態が続いています。
今後の課題と展望
偶発的衝突リスクの管理
尖閣諸島周辺での中国の活動が常態化する中、最も懸念されるのは偶発的な衝突です。双方の船舶や航空機が至近距離で対峙する場面が増えており、判断ミスや事故が重大な事態につながる可能性は否定できません。
このリスクを軽減するためには、海上での行動規範の確立や、緊急時のホットライン整備など、実務的な危機管理メカニズムの構築が急務です。
バランスの取れた対応の必要性
「対話と抑止」の両立は容易ではありません。抑止力を強化すれば緊張が高まり、対話を重視すれば弱腰と見なされるリスクがあります。日本は法の支配と国際秩序を守りながら、中国との建設的な関係構築も模索するという難しいバランスを取り続ける必要があります。
まとめ
尖閣諸島周辺での中国海警局の活動激化は、東アジアの安全保障における重要な課題となっています。日本は海上保安庁の体制強化、自衛隊との連携、日米同盟の深化によって抑止力を高める一方、外交チャンネルを通じた対話も継続しています。
偶発的衝突を防ぎつつ、日本の主権と領土を守るためには、この「対話と抑止」の両輪を適切に機能させることが不可欠です。国際法に基づく秩序を維持しながら、緊張緩和への道筋を見出すことが、今後のリーダーに求められる重要な責務といえるでしょう。
参考資料:
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