エプスタイン文書公開で欧州政界・王室に激震が走る
はじめに
2026年1月30日、米司法省は故ジェフリー・エプスタイン氏に関する捜査資料を追加公開しました。約2,000本のビデオと18万点の写真を含む300万ページ以上が新たに開示され、累計で約350万ページの資料が公になりました。
この大規模な情報公開は「エプスタイン文書透明化法」に基づくもので、2025年11月にトランプ大統領が署名して成立した法律です。公開された文書には欧州の政界や王室関係者との交流を示すメールや写真が多数含まれており、各国で大きな波紋を広げています。
本記事では、エプスタイン文書の公開経緯と、欧州各国への影響を詳しく解説します。
エプスタイン文書透明化法とは
法律の成立経緯
エプスタイン文書透明化法は、2025年11月18日に米下院で427対1という圧倒的多数で可決されました。反対票を投じたのはクレイ・ヒギンズ議員(共和党)のみでした。同日、上院も全会一致で承認し、翌11月19日にトランプ大統領が署名して法律が成立しました。
この法律は、エプスタイン氏の訴追に関するすべての文書を「検索・ダウンロード可能な形式」で公開することを司法長官に義務付けています。対象となる文書には、エプスタイン氏とその共犯者ギスレーン・マクスウェル氏に関する資料、フライトログ、拘留中の死亡に関する記録などが含まれます。
公開された資料の規模
司法省は2025年12月19日の法定期限までに一部の資料を公開しましたが、その量が少ないとして超党派から批判を受けました。2026年1月30日の追加公開で、累計約350万ページの資料が開示されました。司法省は約600万ページが公開対象になる可能性があると認めていますが、今回の公開で法的義務を果たしたとしています。
英国への衝撃
アンドルー元王子の新たな写真
公開された資料の中で最も注目を集めたのは、英国のアンドルー・マウントバッテン・ウィンザー氏(元ヨーク公爵)に関する写真です。床に横たわる女性の上に四つんばいでかがみ込む姿が写っていると報じられています。
また、メールではエプスタイン氏がアンドルー氏に「賢く、美しく、信頼できる」26歳のロシア人女性を紹介すると持ちかけていたことも明らかになりました。このやり取りは、エプスタイン氏が2008年に未成年者への性的勧誘で有罪を認めた後に行われたものです。
キア・スターマー英首相は2月1日、アンドルー氏に対して米国の捜査当局に協力するよう求めました。アンドルー氏はすでに2022年にチャールズ国王により王子の称号を剥奪され、公務からも外されています。
マンデルソン議員の離党
労働党の重鎮で元EU貿易担当委員のピーター・マンデルソン議員も、文書公開の影響を受けました。司法省のウェブサイトでは彼の名前が5,000回以上言及されており、エプスタイン氏との間で数百通のメールやテキストメッセージがやり取りされていたことが明らかになりました。
さらに、2003年から2004年にかけてエプスタイン氏からマンデルソン氏に計75,000ドル(約1,100万円)が3回に分けて支払われていたことも判明しました。マンデルソン氏は「これ以上の恥辱を党に与えないため」として、党員資格を返上することを表明しました。
ノルウェー王室への波紋
メッテ・マリット王太子妃の謝罪
ノルウェーでは、メッテ・マリット王太子妃とエプスタイン氏の関係が大きな問題となっています。公開された文書には王太子妃への言及が約1,000件含まれており、2011年から2014年にかけて多数のメールがやり取りされていたことが明らかになりました。
また、2013年にはフロリダ州パームビーチにあるエプスタイン氏の邸宅に4日間滞在していたことも判明しました。王太子妃は王室を通じて声明を発表し、「判断力の欠如」について謝罪するとともに、エプスタイン氏の被害者への同情を表明しました。
スロバキア政府高官の辞任
ラヨチャーク氏の即時辞任
最も迅速に政治的影響が現れたのはスロバキアでした。ロベルト・フィツォ首相の国家安全保障顧問を務めていたミロスラフ・ラヨチャーク氏が、文書公開の翌日に辞任しました。ラヨチャーク氏は元国連総会議長であり、スロバキアの元外相でもある外交界の重鎮です。
公開された文書には、2018年10月当時外相だったラヨチャーク氏とエプスタイン氏の間で若い女性について話し合うテキストメッセージが含まれていました。また、2017年にはオスカー賞のノミネートに関して女性映画プロデューサーへの協力をエプスタイン氏に依頼するメールも見つかりました。
ラヨチャーク氏は「犯罪や非倫理的な行為は一切していない」と否定しつつも、「首相に政治的コストを負わせないため」として辞任しました。フィツォ首相はフェイスブックで辞任を受け入れたことを発表し、ラヨチャーク氏を「外交と外交政策における貴重な経験の源」と評しました。
米国内での反応
ビル・ゲイツ氏への言及
文書にはマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏に関する記載も含まれていました。エプスタイン氏が作成したとされる草稿メールには、ゲイツ氏の婚外関係や薬物使用に関する主張が書かれていましたが、メールが実際に送信されたかは不明です。
ゲイツ財団はこれらの主張を「まったくばかげており、完全に虚偽」と強く否定しました。ゲイツ氏は2021年のインタビューで、エプスタイン氏との付き合いを「大きな間違いだった」と述べています。
イーロン・マスク氏のメール
テスラCEOのイーロン・マスク氏とエプスタイン氏の2012年のメールのやり取りも公開されました。マスク氏はエプスタイン氏にカリブ海の島への訪問について「あなたの島で一番ワイルドなパーティーはいつですか?」と尋ねていました。
マスク氏はX(旧Twitter)で、「エプスタイン氏とのメールのやり取りが誤解され、中傷に使われる可能性があることは十分承知していた」とコメントしました。同時に「誰よりもエプスタイン文書の公開を強く求めてきたのは私であり、ようやく実現したことを嬉しく思う」とも述べています。
今後の見通しと注意点
追加の訴追はない見込み
トッド・ブランチ司法副長官は2月2日、エプスタイン関連で新たな訴追を行う可能性は低いと発表しました。「多くのやり取り、メール、写真がある」としながらも、「必ずしも誰かを訴追できる内容ではない」と説明しています。
文書に名前があることの意味
重要な注意点として、公開された文書に名前が記載されていることは、必ずしも違法行為への関与を意味しません。多くの著名人はエプスタイン氏と社交的な付き合いがあっただけで、彼の犯罪行為には一切関係していないと主張しています。
プライバシーに関する懸念
司法省の公開方法には批判も出ています。当初、被害者を含む個人の顔が写った未編集の写真が公開され、ニューヨーク・タイムズの指摘を受けて削除されました。ウォール・ストリート・ジャーナルの調査によると、少なくとも43人の被害者の実名が公開され、そのうち24人以上は虐待時に未成年でした。
まとめ
エプスタイン文書の大規模公開は、欧州の政界と王室に大きな衝撃を与えました。スロバキアでは即座に政府高官が辞任し、英国ではアンドルー元王子への圧力が一層強まっています。ノルウェー王太子妃も謝罪を余儀なくされました。
一方で、文書に名前があることと違法行為は別問題であり、冷静な判断が求められます。司法省は追加の訴追を行わない方針を示しており、この問題は法的にではなく、政治的・社会的な形で各国に影響を与え続けることになりそうです。
今後も残りの文書の公開を求める声は続くと予想され、この問題の波紋は当面収まりそうにありません。
参考資料:
- DOJ Disclosures | United States Department of Justice
- Epstein files: Europe’s royals, politicians and elite in new documents - Newsweek
- Epstein Files Trigger Political Fallout Across Europe - The European Conservative
- Bill Gates, Elon Musk among big names in Epstein files - CBS News
- Slovakia National Security Adviser Resigns Over Epstein Files - US News
- Epstein Files Transparency Act - Wikipedia
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