EU、エンジン車禁止を撤回へ 2035年以降も条件付き販売容認
EU、2035年「エンジン車禁止」を撤回・緩和へ
環境目標を維持しつつ現実路線へ回帰、自動車業界と加盟国の反発受け方針転換
欧州連合(EU)は2025年12月16日、これまで法令で義務付けてきた2035年からの内燃機関車(ガソリン・ディーゼル車)の新車販売禁止について、実質的な撤回案および緩和案を欧州委員会レベルで提示した。これにより、条件次第では35年以降もエンジン車の販売が可能になる方向性が打ち出された。
背景:2035年禁止規制とは何だったのか
EUは2010年代後半から輸送分野のCO₂削減を政策の重要柱とし、2023年には2035年から新車販売をCO₂排出ゼロの車両に限る規制を決定。これによりガソリン車・ディーゼル車は販売禁止となり、全て電気自動車(EV)などゼロエミッション車が対象となる予定だった。
この規制は「ゼロエミッション車100%」という極めて厳しい目標であり、EU全体の輸送部門の排出削減戦略や、気候中立目標(2050年)実現の要ともされた。
なぜ撤回・緩和するのか?
産業界・政治圧力と現実的な困難
今回の方針転換の背景には、複数の要因が絡む:
1. 自動車メーカーからの強い反発
ドイツやイタリアなどの自動車産業は、EVシフトの進行が遅いこと、投資負担が重いこと、充電インフラの未整備などを理由に、計画の緩和を長く求めていた。特に大手メーカーや部品サプライヤーは内燃機関技術やハイブリッド車等の継続開発を主張していた。
2. 競争環境の変化
欧州メーカーは中国・米国勢とのEV競争で苦戦しており、規制の厳格化が欧州産業の競争力を削ぐとの懸念が強まっていた。
3. 加盟国政府からの政治的圧力
ドイツやイタリアなど主要産業国の政府も、雇用・産業保護の観点から規制緩和を求める声を上げていた。
新しい方針:何が変わるのか?
EUの新提案では、禁止そのものを撤回するのではなく、**「あくまで柔軟性を持たせた規制」**に見直す方向が示されている。
主なポイントは以下の通りだ:
- 2035年時点で新車販売のCO₂排出を100%ゼロにする義務を廃止
→ 代わりにCO₂排出量を2021年比で90%削減する目標を設定。 - プラグインハイブリッド車や、内燃機関を持つ範囲内でのEV(レンジエクステンダー等)が販売可能に。
- **バイオ燃料やe‑Fuel(合成燃料)**など、低炭素技術を活用する車種も容認対象へ。
- 商用車など一部カテゴリーの削減目標も緩和。
このパッケージ案は欧州委員会で採択された後、欧州議会と加盟国理事会の承認を得るプロセスに入る。
各方面の反応は?
自動車業界
一部では歓迎の声が上がっている。特に内燃機関技術を重視するメーカーは「柔軟性を与える正しい一歩」と評価。
ただし、ステランティスなど一部企業は「依然として実行可能性に乏しい」と慎重な意見もある。
環境団体・EV推進派
規制の後退は「気候政策の後退」「EVシフトへの大きな逆風」と批判が強い。
政治・加盟国
規制緩和を求めたドイツやイタリアと、従来通りの強力なEV推進を主張するフランス・スペインなどで意見が分かれている。
今後の展望:EUの気候戦略はどうなるのか
今回の見直しは、単にエンジン車を残すための政策転換だけでなく、EUの気候戦略全体の現実路線へのシフトという重大な意味を持つ。
EUは依然として2050年までの気候中立を掲げるが、短期的な達成目標については、産業界・消費者・国際競争力を勘案し、より柔軟な政策設計に舵を切ったと見ることができる。
まとめ
EUが2035年の内燃機関車販売禁止計画を見直す決断をした背景には、産業界の強い反発・政治的圧力・EVシフトの現実的制約がある。新しい案では、禁止そのものではなく柔軟なCO₂削減目標へと転換し、条件付きでエンジン車販売を容認する方向となった。
この動きは、EUの環境政策の牽引力に一石を投じるものであり、世界の自動車市場に広範な影響を及ぼす可能性がある。今後も欧州議会や加盟国理事会でどのような最終合意が形成されるかが、最大の注目点となる。
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