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by nicoxz

欧州車6社がEV損切り6.7兆円、エンジン回帰の重荷

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はじめに

欧州自動車メーカー6社の2025年12月期決算が出そろい、業界に衝撃が走っています。EV(電気自動車)需要の世界的な低迷を受け、各社がEV戦略の大幅な見直しに踏み切った結果、合計363億ユーロ(約6兆7,000億円)という巨額の特別損失が計上されました。

ステランティスなど3社は最終赤字に転落し、2社が減益となっています。EUが掲げたEV普及政策が「逆効果」だったとの批判が高まる中、各社はエンジン車への回帰を模索していますが、そこには「埋没コスト」と「排出規制」という2つの重荷が立ちはだかっています。

本記事では、欧州自動車業界のEV損切りの実態と、エンジン回帰に伴う構造的な課題を分析します。

欧州6社の決算が示す「EV損切り」の実態

ステランティス:史上初の最終赤字、4兆円規模の損失

最も深刻な打撃を受けたのがステランティスです。2025年通期決算で223億ユーロ(約263億ドル)の最終赤字を計上しました。前年は55億ユーロの黒字だったことから、1年で約280億ユーロの業績悪化となります。グループ設立以来初の年間赤字です。

赤字の主因は、EV戦略の抜本的な見直しに伴う約254億ユーロの特別損失です。アントニオ・フィローザCEOは「エネルギー移行のペースを見誤ったコストを反映した結果だ」と認め、EV一本足の戦略が誤りだったことを公式に表明しました。同社は今後、内燃機関車を含む「フルレンジ戦略」に転換し、V8エンジンの復活も含む大幅な方向転換を打ち出しています。

フォルクスワーゲン:営業利益53%減、ポルシェが足かせに

欧州最大手のフォルクスワーゲン(VW)グループも厳しい決算となりました。2025年通期の売上高は約3,219億ユーロとほぼ前年並みを維持したものの、営業利益は前年比53%減の88億7,000万ユーロに急落しました。

特に大きかったのはポルシェ関連の損失です。ポルシェのEVモデル戦略の見直しに伴い、のれん代の減損27億ユーロを含む約59億ユーロの特別損失を計上しています。ポルシェはEVモデルの一部を延期・中止し、ハイブリッド車やエンジン車の開発を優先する方針に転換しました。2025年7〜9月期にはVWグループ全体で約2,300億円の営業赤字に転落する事態にもなっています。

その他の欧州メーカーも軒並み苦戦

メルセデス・ベンツは純利益が前年比48.8%減と大幅に悪化しました。中国市場での価格競争の激化とEV販売の低迷が響いています。BMWは売上高が6.3%減の1,334億5,000万ユーロとなり、純利益は3%減の74億5,000万ユーロにとどまりました。米国の関税政策が営業利益率を約1.25ポイント押し下げています。

業界全体では、過去1年間でEV関連の減損処理が550億ドル(約8.5兆円)を超えたとの試算もあり、EVシフトの「代償」の大きさが浮き彫りになっています。

エンジン回帰を阻む2つの重荷

第1の重荷:EV投資の埋没コスト

欧州メーカーはEUの政策に従い、過去数年で巨額のEV関連投資を行ってきました。専用プラットフォームの開発、バッテリー工場の建設、ソフトウェア部門の拡充など、数百億ユーロ規模の資金を投じています。

エンジン車に回帰するということは、これらの投資の多くが「埋没コスト」になることを意味します。ステランティスの254億ユーロの特別損失が象徴するように、EV関連資産の減損処理は一時的に大きな財務的ダメージをもたらします。さらに今後4年間で約65億ユーロの現金支出が見込まれており、EV撤退のコストは決算上の損失にとどまりません。

エンジン車の開発ラインや生産設備をすでに縮小していたメーカーにとって、再びエンジン車の生産体制を整えるには追加の設備投資も必要になります。「戻る」こと自体にもコストがかかるのです。

第2の重荷:CO2排出規制の継続

EUは2025年12月に、2035年のエンジン車販売全面禁止を事実上撤回しました。新方針ではCO2排出量を2021年比で90%削減する目標に緩和され、プラグインハイブリッド(PHEV)やハイブリッド車(HEV)の販売継続が認められています。

しかしこの「緩和」は、エンジン車の自由な販売を意味するものではありません。90%の排出削減は依然として非常に高い目標であり、従来型のガソリン車やディーゼル車をそのまま売り続けることはできません。2030年の中間目標も維持されており、メーカーは一定比率のEVまたは低排出車を販売し続ける義務があります。

新設された「バンキング&ボローイング」制度(2030〜2032年の間で超過・不足を相殺できる仕組み)などの柔軟化措置はあるものの、排出規制そのものは残ります。エンジン車に完全に「回帰」することは制度的に不可能であり、メーカーはEVとエンジン車の両方に投資を続ける必要があるのです。

EUのEV政策は「逆効果」だったのか

急進的な規制が招いた歪み

EUが2035年のエンジン車販売禁止を打ち出したのは2021年でした。この政策を受け、欧州メーカーは急速にEVシフトを加速させましたが、消費者の需要がそのペースに追いつきませんでした。

EV普及の障壁として、充電インフラの不足、航続距離への不安、車両価格の高さ、そして中古車としての残価率の低さが指摘されています。特に欧州では中国製EVとの価格競争が激化し、欧州メーカーのEVは「売れても儲からない」状態に陥りました。

中国メーカーとの競争激化

欧州メーカーがEV投資で苦しむ一方で、中国のBYDなどはコスト競争力で優位に立ち、欧州市場でのシェアを拡大しています。VWグループは中国市場で深刻な販売減に見舞われており、かつてのドル箱市場が収益の足を引っ張る構図に転じています。

規制主導のEVシフトが結果として欧州メーカーの競争力を弱め、中国メーカーの台頭を助ける形になったとの指摘は少なくありません。

注意点・展望

日本メーカーの立ち位置

欧州メーカーのEV損切りを受け、トヨタをはじめとする日本メーカーの「マルチパスウェイ(全方位)」戦略が再評価されています。EVだけでなくハイブリッド、水素、合成燃料など複数の技術に投資する戦略は、リスク分散の観点から有効だったといえます。

ただし、今後もEV市場は拡大が見込まれており、「EVが失敗した」と断じるのは早計です。問題は移行のスピードと規制のあり方にあったと理解すべきです。

2026年以降の業界再編

巨額の損失を計上した欧州メーカーの中には、業界再編やM&Aに向かう可能性があります。ステランティスは燃料電池車(FCV)開発からの撤退も表明しており、経営資源の集中が進むとみられます。今後はEVとエンジン車のバランスを取りながら、いかに収益性を回復できるかが各社の課題です。

まとめ

欧州自動車メーカー6社が計上した6兆7,000億円の特別損失は、過度に急進的なEVシフトの「精算」を意味しています。ステランティスの史上初の赤字転落やVWの営業利益半減が示すように、市場の実態を無視した規制主導の転換には大きなリスクが伴います。

エンジン車への回帰が進む一方で、EV投資の埋没コストとCO2規制の継続という2つの重荷が各社にのしかかっています。EUの政策修正を追い風にしつつ、EV・ハイブリッド・エンジン車を組み合わせた現実的な戦略への転換が、今後の競争力を左右することになるでしょう。

参考資料:

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