金価格が史上初の5000ドル突破、世界経済混乱の象徴
はじめに
2026年1月26日、金(ゴールド)の国際価格が歴史的な節目を迎えました。1トロイオンス(約31.1グラム)あたり5000ドルの大台を突破し、史上最高値を更新したのです。この「5000ドルの壁」突破は、単なる数字上の記録ではありません。
世界の政治・経済両面で進む混乱から逃避するマネーの動きを如実に映し出しています。米国とNATO同盟国との間で深刻化するグリーンランド問題、世界的なインフレの進行、そして各国中央銀行による金の買い増し。これらの要因が複雑に絡み合い、「安全資産の王様」と呼ばれる金の価格を押し上げています。
本記事では、金価格急騰の背景にある地政学的緊張と経済的要因を多角的に分析します。
金価格5000ドル突破の全貌
歴史的な価格上昇の軌跡
金価格の上昇ペースは、まさに「異例」と呼ぶにふさわしいものでした。2025年3月に3000ドル、同年10月に4000ドルを突破した金価格は、2026年1月26日についに5000ドルの大台に到達しました。
1月26日の取引では、スポット価格が一時5110.50ドルまで上昇。週間では7%超の上昇となり、2026年に入ってからすでに18%以上値上がりしています。2025年通年では64%の上昇を記録しており、これは1979年以来となる年間上昇率でした。
日本国内においても、金価格は2026年1月23日に1グラムあたり27929円という過去最高値を記録しています。円安の影響もあり、日本の投資家にとっても金の存在感は一段と高まっています。
銀・プラチナも連動して急騰
金だけでなく、他の貴金属も歴史的な高値圏で推移しています。銀は1オンス100ドルを突破し、プラチナも2800ドルを超える水準に達しました。貴金属全般への資金流入が加速していることがわかります。
これは、投資家が「安全資産」としての貴金属全体に注目していることを示しています。特に銀は、金に比べて割安感があるとして個人投資家からの人気も高まっています。
グリーンランド問題と西側同盟の亀裂
米国の強硬姿勢が招いた外交危機
金価格急騰の最大の引き金となったのが、デンマーク自治領グリーンランドをめぐる米国と欧州諸国との対立です。トランプ大統領はグリーンランド取得のために軍事力行使も排除しない姿勢を示し、NATO同盟国との関係に深刻な亀裂を生じさせています。
2026年1月17日、トランプ大統領は自身のグリーンランド領有構想に反対する欧州8カ国(デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フランス、ドイツ、イギリス、オランダ、フィンランド)に対し、2月1日から10%、6月からは25%の関税を課すとSNSで表明しました。
ホワイトハウスのミラー大統領次席補佐官は「グリーンランドは米国領であるべきだ」とする政権の公式見解を明らかにしています。これはNATOの根幹を揺るがす発言として、国際社会に衝撃を与えました。
デンマークと欧州の反発
デンマークのフレデリクセン首相は強い言葉で反発しています。「米国には、デンマーク王国を構成する3カ国のいずれをも併合する権利はない」との声明を発表し、これまでで最も強い姿勢を示しました。
ロシアのラブロフ外相は、この対立について「西側社会の危機的傾向を浮き彫りにするもの」と指摘。「団結した同盟としてのNATOの存続そのものを脅かしている」との認識を示しました。同志社大学の吉田徹教授も「NATOの集団的安全保障の基本が揺らぎかねない」と警鐘を鳴らしています。
安全資産としてのドルへの信認低下
従来、有事の際には米ドル建て資産が「安全資産」として選好されてきました。しかし、今回の事態では米国自身が国際秩序の不安定要因となっています。米国との同盟関係の将来に不透明感が生じる中、投資家はドル資産以外の安全資産を求めるようになりました。
その最大の受け皿となったのが金です。金は「無国籍通貨」とも呼ばれ、特定の国の信用リスクを持たないことが強みとなっています。
中央銀行の金買いと構造変化
3年連続で年間1000トン超の購入
世界の中央銀行による金の大量購入が、価格上昇を強力に後押ししています。ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によれば、2022年から2024年にかけて世界の中央銀行は3年連続で年間1000トン超の金を買い越しました。
これは年間生産量の約3割に相当する規模です。2025年も1〜9月で634トンを購入しており、通年では750〜900トンに達すると予想されています。中国をはじめとする新興国の中央銀行は、10ヶ月連続で大規模な金購入を継続しています。
ドル離れと外貨準備の多様化
中央銀行が金を買い増す背景には、ドル依存からの脱却という戦略的意図があります。米国による経済制裁の拡大や、グリーンランド問題に見られる同盟国への強硬姿勢は、各国にドル資産保有のリスクを再認識させました。
外貨準備の一部を金にシフトする動きは、一過性ではなく構造的な変化と見られています。この傾向は今後10年以上続く可能性が指摘されており、金価格の長期的な下支え要因となっています。
インフレと通貨価値の下落
世界的なインフレ圧力
世界的なインフレの進行も、金価格上昇の重要な要因です。2025年前半には、米国のトランプ政権が打ち出した相互関税などの政策により、「スタグフレーション」(景気停滞とインフレの同時進行)への懸念が高まりました。
インフレ局面では法定通貨の購買力が低下するため、実物資産である金の相対的な価値が高まります。金は「インフレヘッジの手段」として古くから認識されており、物価上昇が続く環境では投資需要が増加する傾向があります。
各国の財政悪化と通貨への不信
主要先進国における政府債務の拡大も、金への資金流入を促しています。拡張的な財政政策が続く中、法定通貨の信用力に対する長期的な懸念が広がっています。
金は発行主体を持たない資産であり、政府の財政状況に左右されません。この「信用リスクフリー」という特性が、債務問題を抱える国々の投資家から支持を集めています。
今後の見通しと注意点
専門家の強気な価格予想
主要金融機関は金価格についてさらなる上昇を予想しています。ゴールドマン・サックスは2026年末の予想を5400ドルに引き上げました。従来予想の4900ドルから500ドルの上方修正です。J.P.モルガンは2026年第4四半期の平均価格を5055ドルと予測しています。
一部のアナリストからは、6000ドルに達する可能性を指摘する声も出ています。Bank of Americaも2026年の金価格予測を5000ドルに設定しており、専門家の間で強気な見方が広がっています。
「荒れ相場」への警戒も必要
一方で、2026年は「荒れ相場」を警戒すべきとの見方もあります。急激な価格上昇の後には調整局面が訪れる可能性があり、短期的な価格変動リスクには注意が必要です。
地政学的な緊張が緩和に向かえば、安全資産需要が一時的に後退する可能性もあります。また、FRBの金融政策や米国のインフレ動向によっては、金価格が乱高下する場面も想定されます。
まとめ
金価格の5000ドル突破は、世界の政治・経済秩序が大きく揺らいでいることを象徴する出来事です。グリーンランド問題に端を発する米欧対立、世界的なインフレ、中央銀行によるドル離れという三つの要因が重なり、金への資金流入が加速しています。
専門家の多くは今後も金価格の上昇基調が続くと予想していますが、短期的な価格変動には注意が必要です。金への投資を検討する際は、長期的な視点を持ちつつ、分散投資の一環として位置づけることが重要でしょう。
安全資産の地図が塗り替わりつつある今、金の動向は世界経済の「体温計」として引き続き注目されます。
参考資料:
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