金価格が初の4900ドル台に、地政学リスクとドル離れが背景
はじめに
金(ゴールド)価格が歴史的な節目を迎えました。2026年1月22日、国際指標の一つであるロンドン現物価格は1トロイオンス4900ドルを初めて突破し、23日のアジア時間には4960ドル台まで上昇しました。最高値更新は5日連続となっています。
背景には、デンマーク自治領グリーンランドをめぐる米欧の対立があります。トランプ米大統領が欧州8カ国への追加関税を示唆したことで地政学リスクが高まり、安全資産である金への資金流入が加速しました。
本記事では、金価格急騰の背景と今後の見通しを詳しく解説します。
金価格4900ドル突破の経緯
史上最高値更新の流れ
金価格は2025年から上昇基調を続けてきました。2025年年初には1トロイオンス2657ドルだった価格は、10月には4381ドルまで急騰。年末には4500ドル台を突破し、年間上昇率は67%に達しました。これは1979年以来の年間最高上昇率です。
2026年に入っても上昇は止まらず、1月19日には国際価格が4676ドル、国内店頭小売価格は1グラムあたり2万6158円となりました。1月21日には国内価格が1グラムあたり2万7287円と史上最高値を更新しています。
グリーンランド問題が引き金に
今回の急騰のきっかけとなったのは、グリーンランドをめぐる米欧対立です。トランプ大統領は1月17日、デンマーク自治領グリーンランドの領有に反発する欧州8カ国(英国、ドイツ、フランス、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、オランダ、フィンランド)からの全輸入品に最大25%の関税を課す意向を表明しました。
2月1日から10%の関税を課し、6月1日に25%に引き上げるとし、「グリーンランドの完全かつ全面的な購入に関する合意が成立するまで継続する」と強調しました。
欧州の反発と関税取りやめ
欧州側は強く反発しました。対象となった8カ国は1月18日に共同声明を発表し、追加関税は欧米関係を毀損するものだと批判。EU(欧州連合)は930億ユーロ(約17兆900億円)相当の米国製品に関税を課す可能性を協議し始めました。
この緊張の高まりを受けて金価格は急騰しましたが、トランプ大統領は1月21日に追加関税を取りやめると発表。NATOのルッテ事務総長と「将来的な取引の枠組み」で合意したと明らかにしました。ただし、ダボス会議ではグリーンランド領有への意欲を改めて表明しており、問題は完全には解決していません。
金価格上昇の構造的要因
中央銀行のドル離れと金シフト
金価格上昇の背景には、より構造的な要因があります。世界の中央銀行が外貨準備でドル離れを進め、金へのシフトを強めているのです。
2024年末時点で外貨準備高全体に占めるドルの割合は57.8%と、1995年の統計開始以降、年末ベースで最低となりました。一方、金の比率は20%に達し、ユーロ(16%)を初めて上回りました。
2025年3月末時点では金の外貨準備に占める割合は23.5%となり、2000年以降の最高水準に達しています。
新興国が金を積み増す理由
特に新興国の中央銀行が積極的に金を購入しています。中国は外貨準備に占める金の比率が3年で2倍になりました。
この動きの背景には、米国がロシアへの金融制裁の一環でドル決済網から締め出したことがあります。新興国は特定の国と結びつかない「無国籍通貨」である金を積み増すことで、制裁リスクや国際通貨体制の変化に備えようとしています。
2025年の調査では、58%の中央銀行当局者が「今後1、2年で準備資産の多様化を計画している」と回答しました。
地政学リスクの常態化
地政学リスクの高まりも金価格を押し上げる要因です。ロシアによるウクライナ侵攻は2022年に始まり、2026年時点でも完全な終結には至っていません。
中東地域の緊張、台湾海峡をめぐる対立、米中関係の不透明感など、世界情勢には不安定要素が残っています。こうした「地政学リスクの常態化」が、安全資産としての金の需要を支えています。
投資家の動向と市場の反応
ゴールドマン・サックスの強気予想
米ゴールドマン・サックスは1月22日、2026年末の金価格予想を従来の4900ドルから5400ドルに引き上げました。個人投資家や新興国の中央銀行による買いが続くとの見方です。
同社は2025年から金価格の上昇を予測していましたが、上昇ペースは予想を上回っています。強気な予測では1オンス5000ドルに達するとの見方もあります。
金ETFへの資金流入
個人投資家の間でも金への関心が高まっています。金価格に連動するETF(上場投資信託)への資金流入が増加しており、投資需要の拡大が価格上昇を後押ししています。
ただし、ETF投資の急増には危うさもあります。価格が大幅に下落した際に売りが殺到し、さらなる下落を招く可能性があるためです。
宝飾品需要への影響
価格高騰は宝飾品需要には逆風となります。世界最大の金消費国であるインドや中国では、価格が高騰しすぎると宝飾品需要が抑制され、上値を抑える重石となる可能性があります。
円建て金価格の動向
国内金価格も史上最高値
円建ての金価格も史上最高値を更新しています。2026年1月21日には1グラムあたり2万7287円に達しました。
円安が進行する中、ドル建て金価格の上昇が円建て価格を一層押し上げています。円安ヘッジとしての金投資需要も増加しています。
日本の投資家への影響
日本の個人投資家にとって、金は円安対策としても注目されています。円の購買力が低下する環境下で、金は資産保全の手段として選ばれる傾向があります。
ただし、円高に転じた場合は円建て金価格が下落するリスクがあることも理解しておく必要があります。
注意点・今後の展望
上昇ペースの鈍化可能性
2026年も金価格は高い水準を維持する見通しですが、上昇ペースは前年までと比べて緩やかになる可能性があります。
価格が高騰しすぎると宝飾品需要が抑制されること、また利益確定の売りが出やすくなることが要因です。
金利動向との関係
金は利息を生まない資産であるため、金利環境の影響を受けます。米国の利下げ観測が後退すれば、金価格の上値は重くなる可能性があります。
一方、インフレヘッジとしての需要は金利環境にかかわらず継続すると予想されます。
長期的な上昇トレンドは継続か
地政学リスクの高まり、ドル離れの加速、貨幣価値の希薄化と、複数の要因が金価格を長期的に押し上げる構造は変わっていません。
中央銀行による金購入は今後10年にわたり続く可能性があり、需要面からの下支えは続くと見られています。
まとめ
金価格が史上初めて4900ドルを突破し、安全資産としての存在感を一段と高めています。グリーンランド問題での米欧対立という短期的な要因に加え、中央銀行のドル離れや地政学リスクの常態化という構造的要因が価格上昇を支えています。
ゴールドマン・サックスは2026年末の予想を5400ドルに引き上げており、強気な見方が優勢です。ただし、価格高騰による宝飾品需要の減少や利益確定売りなど、上値を抑える要因もあります。
金投資を検討する際は、短期的な価格変動に一喜一憂せず、長期的な資産分散の観点から判断することが重要です。
参考資料:
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