日立・東原会長が描いた大改革、巨額赤字から「稼げる会社」へ
はじめに
2008年度、日立製作所は7,873億円という製造業史上最大(当時)の赤字を計上しました。リーマンショックの直撃を受け、「日本の製造業の終焉」とまで言われた危機的状況でした。
しかし、そこから日立は見事に復活を遂げます。川村隆氏、中西宏明氏、そして東原敏昭氏(現会長)の3代にわたるトップが継続的に構造改革を推進。2022年には上場子会社22社がゼロになり、総合電機からITソリューションを軸にした社会インフラ企業へと大変貌を遂げました。
本記事では、東原敏昭会長が主導した改革の内容、「稼げる会社」への転換の道のり、そして日立が示した大企業改革のモデルについて解説します。
巨額赤字からのV字回復
7,873億円の衝撃
2009年3月期、日立製作所は7,873億円の最終赤字を計上しました。売上高10兆円を超える巨大企業が、これほどの赤字に沈んだのです。株価は急落し、存続すら危ぶまれる状況でした。
リーマンショックによる世界的な景気後退が直接の原因でしたが、それ以前から日立は「何でも屋」として事業が肥大化し、収益性の低下が進んでいました。
川村・中西時代の改革
経営を引き継いだ川村隆会長と中西宏明社長(いずれも当時)は、大胆な改革に着手しました。不採算事業の売却・撤退、人員削減、そして選択と集中を断行。2012年3月期には過去最高の当期利益を達成し、V字回復を果たしました。
しかし、これで終わりではありませんでした。
東原会長が見た「二番底危機」
甘えが残る組織
2014年に中西氏からバトンを受けて社長COOに就任した東原敏昭氏は、社内の実態を知るにつけ危機感を抱きました。「このままでは日立がもう一回赤字になる」—V字回復ではなく「W回復」になりかねない状況だったのです。
営業利益率は2016年3月期に6%まで改善していましたが、社内には甘えがありました。大企業病、「ゆでガエル現象」が払拭しきれていなかったのです。
「二番底」への覚悟
東原氏は就任当初、「二番底危機を覚悟していた」と後に振り返っています。せっかくのV字回復も、組織の体質が変わらなければ長続きしない。根本的な改革が必要だと確信しました。
「ブルドーザー」の改革
上場子会社22社をゼロに
東原氏がCEOを務めた2016年4月から2022年3月までの6年間で、最も象徴的な改革が上場子会社の整理です。2006年度に22社あった上場子会社を、2022年度にはゼロにしました。
日立化成、日立金属、日立建機など、有名企業を次々と売却・整理。小島啓二社長兼CEO(現任)は、そのすさまじさを「ブルドーザーのような勢いで『整地』した」と表現しています。
カンパニー制からBU制へ
組織構造も大きく変えました。それまでのカンパニー制を廃し、すべての事業を社長直轄のビジネスユニット(BU)制に移行。縦割りの壁をたたき壊し、社長自らがハンズオンでマネジメントする体制を構築しました。
「サイロを壊す」—東原氏が掲げたスローガンです。部門間の壁を取り払い、グループ全体で最適な資源配分を行う体制を目指しました。
大型M&Aの断行
一方で、成長分野への投資も積極的に行いました。2021年にはデジタル・IT企業の米グローバルロジックを約1兆円で買収。日立のデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略を加速させました。
「売る」と「買う」を同時に進める大胆な事業ポートフォリオの入れ替えが、東原改革の特徴でした。
「稼げる会社」への転換
Lumada事業の成長
東原氏が推進したのは、Lumada(ルマーダ)事業を軸とするビジネスモデルへの転換です。Lumadaは日立のデジタルソリューション・サービスの総称で、顧客企業のデータを活用して価値を創出するプラットフォームです。
Lumada事業の売上高は2023年度に約2兆3000億円と、全社の3割近くに成長しました。ハードウェア中心の製造業から、ソフトウェア・サービス中心のIT企業への転換が進んでいます。
株価は約5倍に
改革の成果は株価にも表れています。東原氏がCEOに就任した2016年当時、日立の株価は2600円前後でしたが、その後約5倍に上昇しました。投資家からも「改革に成功した企業」として高く評価されています。
営業利益率の改善
収益性も大きく改善しました。かつては6%程度だった営業利益率は、構造改革を経て大幅に向上。「稼げる会社」への転換が数字に表れています。
改革成功の要因
トップダウンの重要性
東原氏は「まずトップダウン。結果が出れば社員は納得する」と語っています。巨大組織を動かすには、トップが強い意志を持って改革を主導することが不可欠です。
合議制や根回しを重視する日本企業の文化の中で、トップダウンで改革を断行することは容易ではありません。しかし、危機的状況を脱するには、スピード感のある意思決定が求められました。
3代のトップによる継続
日立の改革が成功した大きな要因は、川村・中西・東原の3代にわたるトップが、一貫して同じ方向性で改革を進めたことです。10年以上にわたって改革の流れが途絶えなかったのは、経営陣の継続的なコミットメントがあったからです。
「黒船」の活用
東原氏は外部人材の登用も積極的に行いました。社内の論理に染まっていない「黒船」を呼び込むことで、改革のスピードを加速させました。グローバルロジックの買収も、外部のデジタル人材を取り込む狙いがありました。
まとめ
日立製作所は、2008年度の7,873億円赤字という危機から、見事に復活を遂げました。東原敏昭会長が主導した構造改革では、上場子会社22社をゼロに整理し、カンパニー制からBU制への組織変更、大型M&Aによる事業ポートフォリオの入れ替えを断行。Lumada事業を軸とした「稼げる会社」への転換を実現しました。
「まずトップダウン。結果が出れば社員は納得する」—東原氏の言葉は、大企業改革の一つのモデルを示しています。日本の製造業が変革を迫られる中、日立の事例は多くの示唆を与えてくれます。
参考資料:
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