ホンダ株を有力投信が全売却、自動車株の行方は
はじめに
日本の自動車株に対する市場の評価が大きく揺らいでいます。2026年3月13日の東京株式市場で、ホンダ株は朝方から売り優勢となり、一時前日比7%安まで下げ幅を広げました。
背景にあるのは、ホンダが発表した2026年3月期の業績下方修正です。北米向けEV3車種の開発中止に伴う巨額損失の計上により、上場以来初の最終赤字に転落する見通しとなりました。日米の有力投資信託がホンダ株を全売却していたことも明らかになり、長期投資先としての魅力が問われています。
本記事では、ホンダの経営危機の実態、EV戦略見直しの影響、そして「最後の砦」と目されるトヨタとスズキの展望について解説します。
ホンダの巨額赤字転落
上場以来初の赤字見通し
ホンダは2026年3月12日、2026年3月期の連結業績予想を大幅に下方修正しました。最終損益は従来の3,000億円の黒字予想から、4,200億円~6,900億円の赤字に転落する見通しです。通期での最終赤字・営業赤字は、1957年の上場以来初めてのことです。
営業損益についても、5,500億円の黒字予想から2,700億円~5,700億円の赤字に修正されました。この発表を受けてホンダ株は大幅に下落し、11か月ぶりの下落率を記録しています。
EV戦略見直しの決断
赤字転落の最大の要因は、四輪電動化戦略の抜本的な見直しです。ホンダは北米で生産を予定していたEV3車種の開発・発売中止を決定しました。中止となったのは「Honda 0 SUV」「Honda 0 Saloon」「Acura RSX」の3車種です。
EV需要が大幅に減少している事業環境のもとで、これらの車種の生産・販売を開始すると将来にわたってさらなる損失拡大を招く恐れがあるという判断です。今期の営業費用として最大1兆1,200億円、持分法投資損失として最大1,500億円を計上する見込みです。
最大2.5兆円の損失規模
今期の損失にとどまりません。来期以降の連結業績においても四輪電動化戦略の見直しに関連した追加費用が計上される可能性があり、今期分と合わせて最大で2兆5,000億円に達すると試算されています。三部敏宏社長は報酬の一部を自主返上する方針も示しています。
投資信託の全売却が示すもの
機関投資家の判断
ホンダ株を巡っては、日米の有力投資信託が保有する同社株をすべて売却していたことが明らかになりました。長期投資を旨とするファンドが全量を手放したことは、ホンダへの構造的な懸念を反映しています。
モルガン・スタンレーもホンダの投資判断を「イコールウエート」(中立)に引き下げ、今後15日間で国内株価指数に対して下落するとの見方を示しています。同社はこのシナリオに70~80%の確率を見込んでいます。
日産統合破談の影響
ホンダを取り巻く環境は、EV戦略の失敗だけにとどまりません。2024年12月に日産自動車と経営統合の基本合意を締結したものの、2025年2月にはわずか3か月足らずで破談に至りました。
日産のリストラ計画がホンダの期待を下回ったことや、意思決定スピードの違い、企業文化の相違が破談の要因とされています。統合による規模拡大の機会を逃したことで、ホンダは単独でのEVシフト対応を迫られましたが、その結果が今回の巨額損失につながった形です。
「最後の砦」トヨタとスズキ
トヨタのハイブリッド戦略が好調
自動車株全体の存在感が低下する中、長期投資の対象として注目されるのがトヨタ自動車です。トヨタはEV一辺倒ではなく、ハイブリッド車(HEV)を軸とした「全方位戦略」を堅持しています。
ハイブリッド車の9か月累計販売台数は約320万台と前年同期比24%増加しており、欧米を中心にHEVの需要が急拡大しています。PBR(株価純資産倍率)は1倍程度、配当利回りは3%超と、バリュエーション面でも魅力的な水準です。
スズキの堅調な業績
スズキもまた、相対的に堅調な業績を維持しています。インドをはじめとするアジア新興国市場に強い基盤を持ち、小型車・軽自動車を中心としたラインナップでコスト競争力を発揮しています。
EV投資の負担が相対的に小さく、財務の健全性が保たれていることも投資家からの評価を支える要因です。
自動車株投資の新たな選別基準
市場は自動車メーカーに対して、より厳しい選別眼を向けるようになっています。かつてのように「日本の自動車株」として一括りに投資する時代は終わり、個別企業のEV戦略の実現性、ハイブリッド技術の優位性、海外市場でのポジション、そして財務の健全性が投資判断の基準となっています。
注意点・今後の展望
ホンダの回復シナリオ
ホンダは今後、次世代ハイブリッド車を軸に収益改善を図る方針です。EV戦略の「膿出し」を一気に行ったと見ることもでき、来期以降の収益回復に向けた布石とも解釈できます。ただし、2兆5,000億円規模の損失処理が完了するまでには時間がかかる見通しです。
関税リスクへの警戒
米国のトランプ政権による自動車関税の動向も、日本の自動車メーカーにとって大きなリスク要因です。関税引き上げが実施されれば、北米市場への依存度が高いメーカーほど打撃が大きくなります。トヨタは現地生産比率が高いものの、完全に影響を回避することは難しい状況です。
まとめ
ホンダ株の大幅下落と有力投信の全売却は、日本の自動車株が構造的な転換期を迎えていることを象徴しています。EV戦略の見直しで最大2兆5,000億円の損失を抱えるホンダに対し、ハイブリッド戦略で堅調なトヨタとスズキが「最後の砦」として市場の期待を集めています。
投資家にとっては、各社のEV・ハイブリッド戦略の実現性と財務体質を見極めることが、これまで以上に重要になっています。自動車産業の変革期において、どのメーカーが生き残るのかを冷静に判断する視点が求められます。
参考資料:
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