ホルムズ海峡とは?世界の原油2割が通る要衝
はじめに
2026年2月末の米国・イスラエルによるイラン攻撃を受け、「ホルムズ海峡」という言葉が連日ニュースで取り上げられています。世界の原油と液化天然ガス(LNG)の約2割がこの海峡を通過しており、エネルギー市場における最重要の「チョークポイント(戦略的要衝)」として知られています。
この記事では、ホルムズ海峡の地理的特徴から過去の封鎖危機の歴史、そして日本のエネルギー安全保障との深い関わりまで、基礎からわかりやすく解説します。
ホルムズ海峡の地理と戦略的重要性
世界で最も重要な海上交通路
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ狭い水路です。北岸にはイラン、南岸にはオマーンの飛び地であるムサンダム半島とアラブ首長国連邦(UAE)が位置しています。
最も狭い場所の幅はわずか33キロメートルです。タンカーはS字状に曲がる航路を進む際に何度も舵を切る必要があり、航行の難所としても知られています。国際海事機関(IMO)が定めた通航分離帯では、入港・出港それぞれの航路幅はわずか約3.2キロメートルしかありません。
通過するエネルギー量
2024年のデータによると、ホルムズ海峡を通過する石油は日量約2,020万バレルに達し、世界の海上石油輸送量の25%以上を占めています。ペルシャ湾から輸出される石油の約88%がこの海峡を通過します。
LNGについても、世界のLNG取引量の約20%がホルムズ海峡を経由しています。カタールは世界有数のLNG輸出国ですが、その輸出のほぼすべてがホルムズ海峡を通るルートに依存しています。
周辺の産油国
ホルムズ海峡を挟む形で、世界有数の産油国が集中しています。サウジアラビア、イラク、UAE、クウェート、イラン、カタールなどのOPEC主要国がペルシャ湾岸に位置しており、これらの国々の原油輸出の大部分がこの海峡を通過します。
代替ルートと迂回手段の限界
パイプラインの制約
ホルムズ海峡を迂回して原油を輸出できるパイプラインを持つ国は、サウジアラビアとUAEの2カ国のみです。サウジアラビアには紅海側へ原油を送る東西パイプライン、UAEにはフジャイラ港へ直結するパイプラインがあります。
しかし、両国合わせたパイプラインの利用可能容量は日量約650万バレルにとどまります。ホルムズ海峡を通過する日量2,020万バレルの3分の1程度しかカバーできない計算です。
海上ルートの迂回
海上輸送でホルムズ海峡を迂回する場合、タンカーはアフリカ南端の喜望峰を回る必要があり、輸送日数とコストが大幅に増加します。これは現実的な代替手段とは言い難く、ホルムズ海峡の「代替不可能性」を示しています。
過去の封鎖危機の歴史
タンカー戦争(1984〜1988年)
ホルムズ海峡が初めて世界的な注目を集めたのは、イラン・イラク戦争中の「タンカー戦争」です。イラクがイランの石油積み出し港やタンカーを攻撃し、イランも報復として湾岸のタンカーを攻撃しました。
興味深いことに、この時期でもホルムズ海峡の石油流通が完全に途絶えることはありませんでした。しかし原油価格は1バレル30ドル超に上昇し、世界経済に影響を与えました。
2019年のタンカー攻撃事件
2019年6月には、ホルムズ海峡付近で日本関連を含む2隻のタンカーが攻撃される事件が発生しました。米国はイランの関与を主張しましたが、イランは否定しました。この事件は一時的に原油価格を押し上げましたが、海峡の封鎖には至りませんでした。
2026年の事実上の封鎖
そして2026年2月末、米国・イスラエルのイラン攻撃後にイラン革命防衛隊がホルムズ海峡周辺の船舶に対して「通過は安全ではない」と通告し、事実上の封鎖状態に至りました。過去の危機とは異なり、実際にタンカーの通航がほぼ停止する事態は初めてのことです。
日本とホルムズ海峡の関係
極めて高い依存度
日本はホルムズ海峡への依存度が突出して高い国の一つです。原油輸入の約87%、LNG輸入の約20%がホルムズ海峡を経由しています。つまり日本のエネルギー供給の「生命線」とも言える存在です。
エネルギー政策への影響
ホルムズ海峡の封鎖リスクは、日本のエネルギー政策において常に議論の対象となってきました。石油備蓄制度の整備、調達先の多角化、再生可能エネルギーの推進といった政策は、いずれもホルムズ海峡リスクを念頭に置いたものです。
日本は現在254日分の石油備蓄を保有しており、短期的な供給途絶には対応可能とされています。しかし封鎖が長期化した場合、備蓄だけでは対応しきれない可能性があります。
注意点・今後の展望
封鎖の定義に注意
「ホルムズ海峡の封鎖」と言っても、物理的に海峡が閉ざされたわけではありません。イラン側の警告により保険会社がリスク引き受けを停止し、海運各社が通航を見合わせた結果の「事実上の封鎖」です。外交交渉や安全保障の枠組みが整えば、通航再開の可能性は残されています。
エネルギー転換の加速
今回の危機は、化石燃料に依存するエネルギー構造のリスクを改めて浮き彫りにしました。再生可能エネルギーや原子力など、海峡リスクに左右されないエネルギー源への転換を加速させる契機になる可能性があります。
まとめ
ホルムズ海峡は幅わずか33キロメートルの狭い水路ですが、世界の原油・LNGの約2割が通過する「エネルギーの大動脈」です。代替ルートが限られるため、この海峡の通航障害は世界のエネルギー市場に即座に影響を与えます。
特に中東産原油に9割近く依存する日本にとって、ホルムズ海峡は文字通りの「生命線」です。今回の事実上の封鎖は、エネルギー安全保障の見直しと調達先の多角化を進める重要な転機となるでしょう。
参考資料:
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