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by nicoxz

出光興産が製油所閉鎖を撤回、EV普及遅れで方針転換

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はじめに

出光興産が、国内製油所の閉鎖方針を撤回する方針を固めました。2030年までは国内6カ所の製油所体制を維持します。2022年に策定した経営計画では、石油精製能力を2割削減する目標を掲げていましたが、電気自動車(EV)の普及が想定を大きく下回り、ガソリン需要が依然として堅調であることから、計画の見直しに踏み切りました。

この決定は、2026年3月に発表される新たな中期経営計画に盛り込まれる予定です。脱炭素社会への移行を「理想」から「現実」へと軌道修正する動きとして、エネルギー業界全体に波及する可能性があります。

EV普及率2%の現実

想定を大きく下回るEV販売

日本国内のEV普及は、政府や業界の予想を大幅に下回っています。2025年の新車販売に占めるEVの比率はわずか約1.6%にとどまり、プラグインハイブリッド車(PHEV)を合わせても約3.2%という水準です。さらに、EVの新車販売台数は2年連続で減少しています。

政府は2035年までに乗用車新車販売で電動車100%を目指す方針を掲げていますが、現状のペースでは達成が極めて困難な状況です。充電インフラの不足、車両価格の高さ、航続距離への不安など、消費者がEV購入をためらう要因は依然として解消されていません。

世界的な脱炭素政策の後退

日本に限らず、世界的にもEV普及ペースの鈍化が見られます。米国ではトランプ政権がEV優遇策の見直しを進め、欧州でも一部の国がEV義務化の目標を緩和する動きが出ています。こうした国際的な潮流も、出光興産の方針転換に影響を与えたと考えられます。

出光興産の製油所戦略の転換

6拠点維持の決断

出光興産は2024年3月に山口県の製油所を閉鎖し、精製能力の削減を進めてきました。2022年の経営計画では、2030年までに日量30万バレルの精製能力を削減する方針でしたが、今回この目標を撤回します。

現在、出光興産は北海道、千葉、神奈川、愛知、三重などに製油所を展開しており、これら6カ所の体制を2030年まで維持する方針です。精製能力の急激な削減は、供給の安定性を損なうリスクがあるとの判断が背景にあります。

ガソリン需要の見通し

経済産業省の石油製品需要想定検討会によると、2024〜2029年度のガソリン需要は年平均2.4%の減少が見込まれています。需要は確かに減少傾向にありますが、そのペースはEVの急速な普及を前提とした予測よりも緩やかです。

ハイブリッド車(HV)の人気が高く、燃費改善によるガソリン消費量の漸減はあるものの、ガソリン車自体が急速に市場から姿を消す状況にはありません。出光興産はこうした需要動向を踏まえ、製油所の急速な閉鎖はリスクが高いと判断しました。

エネルギー業界への波及効果

石油元売り各社の動向

出光興産の方針転換は、他の石油元売り各社にも影響を与える可能性があります。ENEOSホールディングスなども脱炭素に向けた精製能力削減を計画していましたが、EV普及の遅れを受けて計画の見直しを迫られる可能性があります。

日本全体の石油精製能力は、過去の需給調整で既に大幅に縮小してきました。しかし、エネルギー安全保障の観点からは、一定の精製能力を国内に維持することが不可欠です。今回の出光興産の判断は、この点でも現実的な対応と言えます。

脱炭素と安定供給のバランス

2030年度のエネルギーミックスでは、石油等が依然として約31%を占める見通しです。再生可能エネルギーの比率を高める努力は続きますが、石油は当面の間、日本のエネルギー供給の重要な柱であり続けます。

脱炭素の推進は重要ですが、性急な計画が供給不安やエネルギー価格の高騰を招くリスクもあります。出光興産の方針転換は、「理想的な目標」と「現実的な移行」のバランスを取り直す動きとして注目されます。

注意点・展望

出光興産の方針転換を「脱炭素の後退」と捉えるのは早計です。同社は再生可能エネルギーや次世代燃料の開発を引き続き推進する方針であり、脱炭素そのものを放棄したわけではありません。あくまで移行のスピードを現実に合わせて調整したものです。

今後注目されるのは、2026年3月に発表される新中期経営計画の具体的な内容です。製油所の維持と並行して、どのような脱炭素投資を進めるのかが焦点となります。

また、日本のEV普及が今後加速する可能性も否定できません。充電インフラの整備や車両価格の低下が進めば、再び精製能力削減の議論が浮上するかもしれません。エネルギー企業には、柔軟に対応できる経営体制が求められます。

まとめ

出光興産の製油所閉鎖撤回は、EV普及率2%という現実を直視した経営判断です。2022年に掲げた精製能力2割削減という目標は、EVの急速な普及を前提としたものでしたが、その前提が崩れたことで方針転換を余儀なくされました。

この動きは、エネルギー業界全体が「脱炭素の理想」と「エネルギー安定供給の現実」の間で揺れている状況を象徴しています。今後は、各社がどのように現実的な移行計画を策定し、長期的な脱炭素目標との整合性を保つかが問われることになるでしょう。

参考資料:

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