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by nicoxz

日本の水素ステーションが閑古鳥の理由と中国との差

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はじめに

日本の水素ステーションが深刻な利用不足に陥っています。1日の来客が10台に満たないステーションも珍しくなく、多額の税金を投じて整備されたインフラが十分に活用されていない状況です。

一方、中国は540カ所以上の水素ステーションを建設し、さらなる拡大を計画しています。水素社会の実現で「先行者」だったはずの日本が、なぜ後れを取りつつあるのでしょうか。本記事では、日本の水素ステーションが直面する課題と、中国との差が広がる構造的な要因を解説します。

日本の水素ステーションの現状

設置数と利用実態

2025年時点で、日本全国の水素ステーション数は約152カ所です。首都圏に45カ所、中京圏に49カ所、関西圏に18カ所と、都市部に集中しています。

しかし、設置数以上に深刻なのが利用率の低さです。水素ステーションの主な利用者は燃料電池車(FCV)のオーナーですが、日本国内のFCV保有台数は約8,500台程度にとどまっています。政府が2025年の目標として掲げていた20万台とは、大きくかけ離れた数字です。

この結果、多くのステーションで1日あたりの利用台数が10台未満という状態が続いています。ガソリンスタンドが全国に約29,000カ所あることと比較すると、水素インフラの貧弱さは明らかです。

巨額の補助金と採算問題

水素ステーション事業には多額の公的資金が投入されています。東京都の場合、ステーション1カ所の建設に最大10億円の整備費補助、さらに年間最大約4,000万円の運営費補助が支給されます。国からの補助金と合わせると、1カ所あたりの公的支援は極めて大きな金額となります。

それにもかかわらず、事業としての自立が見通せない状況です。利用台数が少ないため収入は限られ、水素ステーションの運営は補助金に依存し続けています。一部では「補助金漬け」との批判も出ており、税金の使い方として妥当かどうかが問われています。

なぜ日本の水素ステーションは苦戦しているのか

「三すくみ」の悪循環

日本の水素ステーション普及が進まない根本的な原因は、「三すくみ」と呼ばれる構造的な問題にあります。

自動車メーカーは「水素ステーションが少なければFCVは売れない」と考え、積極的な車種展開に踏み切れません。現在、日本で購入できる乗用タイプのFCVは、トヨタ「MIRAI」とヒョンデ「NEXO」のごく限られた選択肢しかありません。

インフラ事業者は「FCVが普及しなければ採算が取れない」として新規投資に慎重です。ユーザーは「車種もステーションも少ないなら購入しない」と判断します。この三者の思惑が絡み合い、悪循環から抜け出せない状態です。

FCV価格の高さ

FCVの車両価格の高さも大きな障壁です。トヨタMIRAIの車両本体価格は約710万円からで、国の補助金を利用しても実質500万円台以上となります。同クラスのEVやハイブリッド車と比較すると、価格差は歴然です。

2023年度のFCV新車販売台数はわずか422台で、全体の0.02%に過ぎません。対照的にEVは約44,000台で、FCVの100倍以上の販売実績があります。

水素価格の高騰

追い打ちをかけるように、水素の価格も高騰しています。岩谷産業は36%、ENEOSは33%の値上げを決定しました。ガソリンと比較して水素の燃料コストは割高であり、FCVの経済的なメリットはさらに薄れています。

急速に拡大する中国の水素インフラ

540カ所超のステーション網

中国は水素エネルギー分野で急速な発展を遂げています。2024年時点で、中国全土に540カ所以上の水素ステーションが建設されており、日本の約3.5倍の規模です。

中国政府は2022年に「水素エネルギー産業発展中長期計画」を発表し、国家戦略として水素インフラの整備を推進しています。各省・地級市レベルでの目標を合算すると、2025年にステーション1,168カ所、燃料電池車の生産台数11.5万台という意欲的な計画です。

中国が急拡大できる理由

中国の水素インフラが急速に拡大する背景には、いくつかの要因があります。

第一に、政府の強力な産業政策です。国家レベルで水素産業を戦略的に位置づけ、補助金だけでなく規制緩和や産業クラスターの形成を一体的に推進しています。

第二に、商用車を軸にした普及戦略です。中国では乗用車よりも先に、トラックやバスなどの商用車でFCVの導入を進めました。商用車は走行ルートが決まっているため、ステーションの配置を効率的に計画できます。この戦略により、ステーションの利用率を高めながらインフラを拡大することに成功しています。

第三に、水素生産コストの優位性です。中国は再生可能エネルギーの導入が進んでおり、グリーン水素の製造コストを低減する取り組みも積極的に進めています。2024年の水素エネルギーの年間生産・消費規模は3,650万トンを超えました。

日本が巻き返すために必要なこと

商用車シフトの可能性

日本においても、乗用車中心の普及戦略を見直す議論が始まっています。トラックやバスなどの商用車は、長距離走行やルート固定という特性から、水素ステーションとの相性が良いです。

市場調査によると、FCVの将来的な主力は「EVが苦手な領域」、すなわち長距離輸送や大型車両にあるとされています。この分野に注力することで、水素インフラの利用率を高める道が開ける可能性があります。

マルチステーション化

今後は、水素だけでなくEV充電も併設する「マルチステーション」への転換も検討されています。既存のガソリンスタンドに水素供給設備を追加するなど、インフラの複合利用によってコストを分散する方向性です。

注意点・展望

水素社会への過度な期待は禁物

水素は脱炭素社会の実現に向けた有力な選択肢の一つですが、すべてのモビリティに適しているわけではありません。乗用車の分野ではEVがすでに大きなリードを獲得しており、FCVが追いつくことは現実的に困難です。

日本の水素戦略は、乗用車への固執を見直し、商用車・産業用途・定置型発電など、水素の強みが活きる分野に資源を集中させる必要があります。

政策の転換が急務

現行の補助金制度は、ステーションの数を増やすことに重点を置いてきましたが、利用率の向上こそが本質的な課題です。ステーション数の目標達成に執着するのではなく、需要と供給を一体的に育てる政策への転換が求められています。

まとめ

日本の水素ステーションは、設置数・利用率ともに当初の目標を大きく下回り、多額の公的資金を投入しながら「閑古鳥」が鳴く状態が続いています。FCV普及の停滞、水素価格の高騰、そして「三すくみ」の悪循環が、この状況を生み出しています。

一方、中国は540カ所以上のステーションを整備し、商用車を軸にした戦略で着実に水素インフラを拡大しています。日本が巻き返すためには、乗用車偏重からの転換と、需要側の創出を含めた政策の抜本的な見直しが不可欠です。

参考資料:

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