イラン反政府デモ死者3000人超:体制揺るがす危機
はじめに
2025年12月28日にテヘランで始まったイランの反政府デモは、わずか2週間で全国31州に拡大し、死者数は3000人を超えたと報じられています。1979年のイスラム革命以来、最大規模の抗議活動となっており、イラン・イスラム共和国体制を揺るがす事態に発展しています。
本記事では、イラン反政府デモの経緯と背景、国際社会の対応について解説します。
デモ発生の経緯
テヘランのバザールから全国へ
2025年12月28日、テヘランのグランドバザール(大市場)で商店主たちが物価高騰に抗議するデモを開始しました。イラン通貨リヤルの急落により輸入品価格が高騰し、生活必需品の価格が急上昇していたことが直接のきっかけでした。
当初は経済的不満を訴える抗議活動でしたが、すぐに現政権への批判、さらにはイスラム共和国体制そのものへの反対へとエスカレートしていきました。
180都市以上に拡大
デモ発生から2週間で、抗議活動は180都市以上、285か所以上に拡大しました。大学生を中心に若者の参加が急増し、労働者によるストライキも各地で発生しています。
「独裁者に死を」「イスラム共和国に終わりを」といったスローガンが叫ばれ、最高指導者ハメネイ師の退陣を求める声も上がっています。
死者数をめぐる情報
報道による数字の違い
死者数については、情報源によって大きな開きがあります。2026年1月13日時点の主な報道は以下の通りです。
米紙ニューヨーク・タイムズ: 治安当局者を含め約3000人が死亡したと報道。
ロイター通信: イラン当局者の話として、約2000人が死亡したと報道。
人権活動家ニュース機関(HRANA): デモ参加者の死者490人、拘束者1万人以上、治安要員40人以上が死亡と発表。
一部の反体制メディア: 死者数は1万2000人以上に達する可能性があると報道。
情報遮断による不透明さ
イラン政府は1月9日頃からインターネットを大規模に遮断しており、国内からの正確な情報発信が困難になっています。このため、死者数の確認が難しく、実際の被害規模は報道よりも大きい可能性が指摘されています。
クラウドフレア社は、イラン国内のインターネットが政府により完全に遮断された可能性があると報告しています。
治安当局の対応
武力による鎮圧
イラン治安当局は、革命防衛隊(IRGC)や警察を動員してデモの鎮圧にあたっています。ライフル銃や散弾銃、放水車、催涙ガスなどが使用され、多数の死傷者が出ています。
アムネスティ・インターナショナルは、治安部隊が平和的なデモ参加者に対して違法な武力を行使していると非難しています。
「神の敵」宣告
イランのモハマド・モバヘディ・アザド検事総長は、デモ参加者を「神の敵」(モハレベ)と見なすと警告しました。「神の敵」はイスラム法で死刑に相当する罪であり、デモへの参加だけでなく、参加者を助けた者も同様の扱いを受けると脅迫しています。
外国民兵の投入
1月6日には、イラクのシーア派民兵組織約800人がイランに入国し、抗議活動の鎮圧を支援していると報じられました。イラン政府が自国の治安部隊だけでは対応しきれなくなっている可能性を示唆しています。
デモの背景
深刻な経済危機
イランは長年にわたる米国の経済制裁により、深刻な経済危機に直面しています。インフレ率は年間50%を超え、失業率は公式統計で約10%(実際はさらに高いとされる)に達しています。
通貨リヤルは対ドルで歴史的な安値を更新し続けており、輸入品価格の高騰が市民生活を直撃しています。食料品や医薬品など生活必需品の価格上昇が、市民の不満を爆発させました。
2022年以来の蓄積
今回のデモは、2022年9月に起きた「マフサ・アミニ」抗議活動以来、最大規模となっています。当時は、ヒジャブ(スカーフ)の着用違反で逮捕された22歳の女性マフサ・アミニが拘束中に死亡したことをきっかけに、全国的な抗議活動が発生しました。
当時の抗議活動は数か月で鎮圧されましたが、市民の不満は解消されず、むしろ深まっていました。今回のデモは、その蓄積された不満が再び噴出した形です。
体制への不信
イラン国民の間では、腐敗した特権層への不満、宗教指導者による統治への疑問、女性の権利制限への反発など、体制そのものへの不信感が広がっています。経済問題をきっかけに、これらの不満が一気に表面化しました。
国際社会の対応
米国の姿勢
トランプ大統領は、イラン当局がデモ参加者に暴力を振るえば攻撃すると繰り返し警告しています。1月13日には、ルビオ国務長官、ヘグセス国防長官らと対イラン政策について協議を行い、制裁強化や軍事介入の選択肢を検討したと報じられています。
トランプ大統領はSNSで「イランの愛国者たちよ、抗議を続けろ。制度を掌握せよ」と呼びかけ、「デモ参加者の無意味な殺害が止まるまで、イラン当局者との全ての会合をキャンセルした」と宣言しています。
イランの警告
イラン政府は、外国の介入があれば報復すると米国とイスラエルに警告しています。介入は「内政干渉」であり、地域の不安定化を招くと主張しています。
人権団体の訴え
アムネスティ・インターナショナルや人権団体は、イラン当局による弾圧を強く非難し、国際社会に対して圧力をかけるよう求めています。国連人権理事会への緊急報告や、責任者への制裁を求める声が上がっています。
今後の見通し
体制崩壊の可能性
一部の専門家は、今回の抗議活動がイスラム共和国体制の崩壊につながる可能性を指摘しています。1979年の革命以来、これほど広範かつ激しい反体制運動は発生しておらず、体制の正統性が根本から問われています。
ただし、革命防衛隊をはじめとする治安組織は依然として体制を支持しており、短期間での体制転換は困難との見方もあります。
国際情勢への影響
イランの政情不安は、中東地域全体に影響を及ぼす可能性があります。イランが支援するレバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派、イラクの民兵組織への支援が弱まれば、地域のパワーバランスが変化する可能性があります。
また、原油価格への影響も注視されています。イランは主要な産油国であり、政情不安が長期化すれば供給不安が生じる可能性があります。
まとめ
イランで2025年12月末から続く反政府デモは、死者3000人以上という深刻な事態に発展しています。経済危機を発端に始まった抗議活動は、体制そのものへの反対運動へと変化し、イスラム革命以来最大の危機となっています。
インターネット遮断により正確な情報把握が困難な中、国際社会の対応とイラン国内の情勢推移が注目されます。トランプ政権の対応次第では、中東情勢全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。
参考資料:
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