長期金利27年ぶり高水準、債券市場が示す財政への警鐘
はじめに
日本の債券市場が財政政策に対して明確な拒絶反応を示しています。2026年1月20日、長期金利の指標となる新発10年物国債の流通利回りが一時2.380%に上昇し、1999年2月以来約27年ぶりの高水準を記録しました。
高市早苗首相が19日の衆院解散表明で食料品を2年間消費税の対象から外す方針を掲げたことがきっかけです。与野党がそろって消費税減税を掲げる中、市場は財政悪化への懸念を強め、「消費税減税ショック」とも呼ばれる事態が発生しています。
本記事では、長期金利急騰の背景と影響、日本の財政状況、そして市場の警鐘に向き合う必要性について解説します。
長期金利急騰の背景
消費税減税ショック
2026年1月20日の東京債券市場では、国債を売る動きが加速しました。高市首相が衆院解散を表明し、食料品への消費税を2年間免除する方針を示したことで、財政悪化懸念が一気に高まったのです。
長期金利は前日比0.120%高い2.380%に上昇し、27年ぶりの高水準となりました。この急激な金利上昇は「消費税減税ショック」と呼ばれ、市場の財政政策に対する拒絶反応として注目を集めています。
与野党の消費税減税競争
2月8日投開票の衆院選に向け、与野党各党が消費税減税を訴えています。自民党は食料品への軽減税率拡大、野党各党も消費税率引き下げを掲げており、選挙結果にかかわらず財政支出が拡大するとの懸念が強まっています。
市場は政治家の「選挙向けバラマキ」を警戒しているのです。
高市政権の財政拡張路線
2025年11月に高市早苗首相が誕生して以降、日本の長期金利の上昇に弾みがついています。高市政権の財政拡張志向の強さが意識されているためです。
通常、利上げ局面では政策金利と長期金利のスプレッド(差)は拡大しません。しかし現在は異常な形でスプレッドが拡大しており、市場が財政リスクを織り込んでいることを示しています。
市場の反応と影響
株式・為替への波及
金利上昇の影響は債券市場にとどまりません。1月20日には金利高を嫌気して株式市場も大幅に下落しました。円は対ドルで158円を挟んで推移し、円安傾向が続いています。
金利上昇は企業の資金調達コストを高め、住宅ローン金利の上昇を通じて個人消費にも悪影響を与えます。市場の混乱は有権者にも打撃が及ぶ形となっています。
財務大臣の火消し
急激な金利上昇を受け、片山さつき財務大臣が市場参加者に冷静さを求める発言を行いました。これにより利回りはやや緩和しましたが、市場の財政懸念が払拭されたわけではありません。
日銀の対応
日本銀行は2025年12月の利上げ後、2026年1月の金融政策決定会合で政策金利を0.75%に据え置くことが広く予想されています。長期金利の上昇は日銀の利上げというよりも、財政への懸念が主因となっています。
日本の財政状況
先進国最悪の債務水準
日本政府の借金総額(国債及び借入金現在高)は1,257兆円を超え、国内総生産(GDP)の2倍強に達しています。先進国の中で公債残高がGDPの200%を超えているのは日本だけです。
この異例の債務水準は、国際的な格付けにも影響しています。日本国債の格付けは、S&PがA+、ムーディーズがA1、フィッチがAと、最上位のAAAからは大きく下回っています。
プライマリーバランスの赤字継続
基礎的財政収支(プライマリーバランス)とは、税収・税外収入と国債費を除く歳出との収支のことです。プライマリーバランスがマイナスということは、国債を発行しないと支出をまかなえない状態を意味します。
日本はプライマリーバランスの赤字が続いており、2025年度の黒字化目標はすでに困難な状況となっています。このまま赤字が続けば、債務残高は膨らみ続けます。
格下げリスク
ムーディーズは、恒久的な減税で財政赤字が拡大すれば格下げ方向に働くと注意を促しています。消費税減税が実現し、その財源手当てが不十分であれば、格付け引き下げのリスクが高まります。
格下げが実現すれば、国債の調達コストがさらに上昇し、財政をいっそう圧迫するという悪循環に陥る可能性があります。
財政規律をめぐる議論
専門家の見解の相違
日本の財政をめぐり、専門家の議論は大きく3つの立場に分かれています。
財政規律を重視する立場(財政規律派)は、債務残高の削減とプライマリーバランスの黒字化を優先すべきと主張します。日本政府、財務省はこの立場にあります。
デフレからの脱却を優先する立場(リフレ派)は、財政出動による景気刺激を重視します。高市政権の政策はこちらに近いとされています。
円建て国債がいくら増えても債務不履行にならないとする立場(MMT派)は、財政赤字の拡大を許容する考え方です。
市場の判断
今回の長期金利急騰は、市場が財政政策に対して「ノー」を突きつけた形といえます。財政規律を軽視した政策運営には、金利上昇というペナルティが科せられることを示しています。
イギリスでは2022年、トラス政権が大規模減税を打ち出した際に債券市場が急落し、「トラス・ショック」と呼ばれる混乱が起きました。トラス首相は就任からわずか44日で辞任に追い込まれました。日本でも同様の事態が起きる可能性を市場は警戒しています。
今後の展望と課題
選挙後の財政運営
衆院選の結果次第で、財政運営は大きく変わる可能性があります。消費税減税を掲げる各党が当選すれば、何らかの形で減税が実施される可能性が高まります。
その際、減税の財源をどう確保するかが問われます。他の増税や歳出削減で財源を手当てしなければ、財政赤字がさらに拡大し、市場の懸念は一層強まるでしょう。
財政と成長の両立
市場の警鐘に耳を傾けつつ、財政の信認向上と堅実な成長戦略の両立を図ることが求められています。単なる減税ではなく、生産性向上や成長分野への投資など、中長期的な経済基盤の強化が必要です。
プライマリーバランスの黒字化に向けた道筋を示しながら、必要な支出は確保するという難しいバランスを取ることが、次期政権に課せられた課題となります。
有権者への示唆
有権者にとって、消費税減税は魅力的な公約に映ります。しかし、その裏側にある財政リスクを理解することも重要です。目先の減税が将来の増税や社会保障の削減につながる可能性があることを、冷静に判断する必要があります。
市場の警鐘は、有権者に対するメッセージでもあるのです。
まとめ
長期金利が27年ぶりの高水準を記録した今回の事態は、債券市場が財政政策に対して明確に拒絶反応を示した異例の出来事です。与野党がそろって消費税減税を掲げる中、市場は財政悪化への懸念を強めています。
日本の財政は先進国最悪の債務水準にあり、プライマリーバランスの赤字も続いています。この状況で財政拡張路線を続ければ、格下げリスクや金利上昇による悪循環に陥る可能性があります。
選挙後の政権には、市場の警鐘に真摯に向き合い、財政の信認向上と成長戦略の両立を図ることが求められます。有権者も、目先の減税公約だけでなく、その財源と将来への影響を見極める姿勢が必要です。
参考資料:
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