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by nicoxz

長期金利急上昇と消費税減税論争、市場の警告を読み解く

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はじめに

2026年1月、日本の債券市場が大きく揺れています。20日には超長期債を中心に利回りが急上昇し、40年物国債の利回りが4%の大台に到達しました。30年物国債も前日比で0.25%程度と大幅に上昇するなど、異例の展開となっています。

この金利上昇の背景にあるのが、2月8日投開票予定の衆議院選挙を前に、与野党が競って消費税減税を公約に掲げていることです。高市早苗政権は食料品の消費税率を2年間ゼロにする減税策を検討し、自民党の公約に盛り込む方針を示しています。

市場は、選挙結果にかかわらず財政支出が拡大するとの懸念を強めており、「世界の勘違い」と片付けることはできない深刻な財政リスクが浮き彫りになっています。本記事では、この事態の本質と今後の見通しについて詳しく解説します。

長期金利急上昇の実態

超長期債利回りが4%に到達

2026年1月20日の日本国債市場では、40年物国債の利回りが4.0%に到達し、30年物も3.14%と歴史的な高水準を記録しました。これは前日比で0.25%程度という異例の上昇幅です。

10年物国債の利回り(長期金利)も上昇傾向にあり、27年ぶりの水準に近づいています。市場関係者が注目する節目の一つが、1998年につけた水準である2.44%です。当時は金融システム不安と財政リスクが債券市場を揺さぶった時期でした。

高市政権下で加速する金利上昇

高市政権誕生以降、日本の長期金利の上昇に弾みがついています。政策金利と長期金利のスプレッド(利回り差)が急拡大しているのは、高市政権が志向する財政拡張に対して投資家が警戒感を抱いていることの証左です。

通常、中央銀行が政策金利を引き上げると長期金利も上昇しますが、現在の状況は日銀の金融政策だけでは説明がつきません。財政リスクプレミアム、すなわち日本政府の財政運営に対する市場の不安が金利上昇を引き起こしているのです。

固定金利住宅ローンへの影響

長期金利の上昇は、住宅ローンの固定金利にも直接的な影響を及ぼします。金融機関の住宅ローン固定金利は長期金利を参照して設定されるため、高市政権の「責任ある積極財政」により、国債の発行増加が意識されやすくなり、固定金利が高めの水準で推移することが考えられます。

実際、大手銀行の35年固定住宅ローン金利は、2025年後半から上昇傾向にあり、2026年に入ってさらに上昇ペースが加速しています。住宅購入を検討している個人にとって、金利上昇は重い負担となります。

消費税減税論争の実態

与野党が競う減税公約

2月8日投開票の衆院選に向け、主要政党のほぼすべてが消費税減税を公約に掲げるという異例の事態となっています。自民党の高市政権は食料品の消費税率を2年間ゼロにする案を検討しており、これにより政府の税収は約5兆円減少すると試算されています。

野党も「消費税減税+α」の政策で対抗しており、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党などが5〜10%の消費税率引き下げや軽減税率の拡大を訴えています。こうした政治環境では、選挙結果にかかわらず財政支出が拡大することが確実視されています。

「年収の壁」改革との関係

消費税減税論が盛り上がる背景には、物価高対策への国民の期待があります。2025年に配偶者控除の所得要件が103万円から123万円に引き上げられたものの、社会保険の適用拡大により新たな「社会保険の壁」が意識され、多くのパート労働者が就業調整を続けています。

消費税減税は、こうした所得制限に関わらず全国民が恩恵を受けられる施策として、政治的に訴求力があります。しかし、その財源をどう確保するかという根本的な問題が置き去りにされています。

財源問題の深刻さ

消費税は日本の税収の約3割を占める基幹税です。食料品のみでも年5兆円、全品目なら年20兆円超の税収があります。これを国債発行で穴埋めすれば、財政はさらに悪化します。

第一生命経済研究所のエコノミストは、「消費税減税を決めれば、日本国債の格下げも十分にあるとみられ、これは長期金利の上昇要因となる」と警告しています。財源に大穴が開いた状態で財政を運営することは、市場の信認を失うリスクが高いのです。

市場が見る日本の財政リスク

先進国最悪の政府債務

国際通貨基金(IMF)によると、日本の政府債務残高の対GDP比は2025年時点で234.9%と、先進国平均の110.1%の2倍以上に達しています。これは先進国の中で突出して高い水準です。

財務省のデータによると、2026年3月期には利払い費の税収に占める割合が8年ぶりの高水準に達する見込みです。金利が上昇すれば、今後の利払い費はさらに膨らみ、財政を圧迫します。

国債格下げリスクの再浮上

2月の衆院選で消費税減税が公約として確認され、財政収支が悪化すれば、海外格付け機関が日本国債を格下げする可能性が高まっています。これは10年ぶりの格下げとなる可能性があります。

最後の格下げは2015年9月16日にS&Pが実施したもので、日本の格付けをAA-からA+に引き下げました。現在、投資適格の最低ゾーンであるBBBまであと3段階です。格下げが進めば、機関投資家の投資制約に抵触し、日本国債の保有を減らす動きが広がる恐れがあります。

「へそくり」の消失

財務省内では「へそくり」が消えたと波紋が広がっています。財務省は毎年の予算編成で、投資家が国債を買ってくれるよう、予想より低めの金利を設定して利払い費を抑えていました。この差額が「へそくり」として、次年度の予算の余裕となっていたのです。

しかし、長期金利の急上昇により、実際の金利が予想を上回り、この「へそくり」が消失しました。これは、市場が日本政府の財政運営に対する信認を失いつつあることを示す象徴的な出来事です。

高市政権の「責任ある積極財政」の矛盾

積極財政の理念と現実

高市政権は「責任ある積極財政」を掲げ、景気浮揚策を推進しています。理論的には、財政支出を拡大することで需給ギャップをプラスに転じさせ、デフレ脱却と持続的な経済成長を実現するという構想です。

しかし、「責任ある」という部分が問題です。財源の裏付けなき財政拡張は、市場の信認を失い、金利上昇を招きます。金利上昇は民間の投資や消費を抑制し、かえって経済成長を阻害する可能性があります。

「世界の勘違い」論の問題点

片山さつき財務相は1月22日、「海外に対するコミュニケーション(意思疎通)が欠けている。誤解されたらたまらない」と語り、長期金利上昇の原因を「世界の勘違い」とする見方を示しました。

しかし、この説明は市場の懸念に正面から向き合っていません。格付け機関や海外投資家は、日本の財政状況を詳細に分析した上で判断を下しています。「誤解」で片付けるのではなく、財政健全化への明確な道筋を示すことが求められています。

トラスショックの教訓

英国では2022年、トラス首相(当時)が財源の裏付けのない大規模減税を打ち出したところ、債券市場が暴落し、ポンドが急落する「トラスショック」が発生しました。市場との対話を軽視した財政拡張の末路として、日本も教訓とすべき事例です。

トラス首相は就任からわずか49日で辞任に追い込まれました。市場の信認を失った政権は、政策を実行する基盤を失います。高市政権も、市場との対話を重視し、財政運営の持続可能性を示す必要があります。

日本銀行の苦悩と金融政策

利上げと財政の板挟み

日本銀行は2024年以降、マイナス金利政策を解除し、段階的な利上げを進めてきました。インフレ率が2%を超えて推移する中、金融政策の正常化を進める必要があるためです。

しかし、利上げは国債の利払い費を増やし、財政を悪化させます。2026年度の利払い費は、金利上昇により当初予算を大幅に超過する見込みです。日銀は財政政策とは独立しているとはいえ、利上げが財政に与える影響を無視することはできません。

「主な意見」でのアピール

野村総合研究所のエコノミストによると、日銀は金融政策決定会合後に公表される「主な意見」で、追加利上げへの積極姿勢をアピールしています。これは、金融政策の正常化を進める意思を市場に示すことで、長期金利の過度な上昇を抑制しようとする試みです。

しかし、高市政権との軋轢は続いており、政府は利上げに慎重な姿勢を求めています。金融政策の独立性が試される局面です。

今後の見通しと注意点

衆院選後の財政運営

2月8日の衆院選の結果次第では、消費税減税が現実のものとなる可能性があります。その場合、財政悪化への懸念がさらに高まり、長期金利の上昇圧力が強まるでしょう。

一方、仮に消費税減税が見送られたとしても、すでに122兆円という過去最大規模の2026年度予算が編成されています。積極財政の流れは変わらず、財政健全化への道筋は見えていません。

国債格下げのシナリオ

格付け機関は、日本の財政運営を注視しています。消費税減税の決定、財政収支の大幅悪化、金利上昇による利払い費の膨張などが重なれば、格下げが現実のものとなる可能性があります。

格下げが実施されれば、国債利回りはさらに上昇し、財政はさらに悪化するという悪循環に陥るリスクがあります。2015年以来の格下げを避けるためには、財政健全化への具体的なコミットメントが必要です。

国民生活への影響

長期金利の上昇は、住宅ローン金利の上昇、企業の資金調達コストの増加、年金・保険などの運用環境の変化など、国民生活に広範な影響を及ぼします。

特に、これから住宅を購入する若い世代や、固定金利ローンの借り換えを検討している世帯にとっては、金利上昇は重い負担となります。また、企業の投資意欲が減退すれば、経済成長や賃上げにも悪影響が出る可能性があります。

まとめ

2026年1月の長期金利急上昇は、日本の財政運営に対する市場の警告と受け止めるべきです。消費税減税という政治的に人気のある政策を競って掲げる与野党の姿勢は、財政リスクへの認識が欠如していることを示しています。

先進国最悪の政府債務を抱える日本が、財源の裏付けなき財政拡張を続ければ、市場の信認を失い、国債格下げや金利急騰という深刻な事態を招きかねません。「世界の勘違い」で片付けるのではなく、財政健全化への明確な道筋を示すことが急務です。

政治家は選挙での勝利を優先するあまり、財政規律を軽視してはなりません。英国のトラスショックは、市場との対話を軽視した財政拡張の末路を如実に示しています。日本も同じ轍を踏まないよう、責任ある財政運営が求められています。

投資家や企業、そして国民一人ひとりが、この財政リスクを正しく理解し、政治に対して財政責任を果たすよう求めていく必要があります。

参考資料:

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