長期金利が迫る運用部ショック時の2.44%、日本売り防ぐ処方箋は
はじめに
2026年1月、日本の10年物国債の利回りが2.380%まで上昇し、27年ぶりの高水準を記録しました。この水準は1998年の「運用部ショック」時に記録した約2.5%に迫る勢いです。
衆院選で与野党が競うように消費税減税を公約に掲げたことで、財政悪化への懸念から日本国債と円が同時に売られる「日本売り」の様相を呈しています。リーダーには、この危機的状況に対抗する処方箋を示す責任があります。本記事では、現在の状況と過去の教訓、そして今後の対策について詳しく解説します。
消えた「へそくり」と財政の実態
財務省の予算編成の仕組み
財務省は毎年の予算編成で、投資家が国債を買いやすくするために、10年物国債の利回りを一定水準に抑える努力をしてきました。これは「予算のへそくり」とも呼ばれ、金利上昇時の利払い増加に備えた安全装置でした。
しかし2026年、この「へそくり」が消えたと財務省内で波紋が広がっています。つまり、金利上昇に対する余裕が完全になくなり、予算執行に直接影響が出始めているのです。
国債と円の同時安という異常事態
通常、国債が売られて金利が上昇すれば、高い金利を求めて円が買われるはずです。しかし今回は、国債と円が同時に売られるという異常な事態が発生しています。
野村證券の岩下真理氏によれば、これは「悪い金利上昇」と呼ばれる現象です。財政悪化懸念による金利上昇は、円を買う理由にはならず、むしろ日本という国全体への信頼低下を示します。実際、12月19日の海外取引では、ドル円が157円台に突入しました。
運用部ショックとは何だったのか
1998年の債券市場危機
「運用部ショック」は1998年末から1999年にかけて発生した、日本の国債市場の大混乱です。当時の大蔵省(現財務省)の資金運用部が、国債購入の削減または停止を発表したことが引き金となりました。
マネースクエアの資料によると、このショックで金利は短期間に約1%急騰し、0.9%程度から2%近くに達しました。その後、春には2.5%近くまで上昇し、国債価格は急落しました。
2026年の状況との類似点
ベテラン債券投資家は、現在の状況に1990年代のデジャブを感じています。日本経済新聞の報道によれば、金利のある1990年代を経験した投資家ほど、今回の債券安に警戒感を強めています。
当時と同様、財政拡張政策と市場との対話不足が金利急騰を招いています。運用部ショック時の最高水準2.5%に迫る現在の2.380%は、市場の強い警告と受け止めるべきでしょう。
2026年の金利急騰の背景
日銀の利上げ加速観測
日本経済新聞によれば、2026年1月5日、長期金利は一時2.125%に上昇しました。これは日銀の利上げペースが速まるとの思惑による債券売りが原因です。
12月の日銀政策決定会合後、新発10年物国債の利回りは中立金利の上昇を前提に上昇を続け、12月22日には一時2.1%に達しました。中立金利(経済を過熱も冷却もさせない金利水準)の上昇は、さらなる利上げ余地があることを意味します。
衆院選での消費税減税公約
財政悪化懸念の最大の要因は、衆院選での各党の消費税減税競争です。自民党は「飲食料品の消費税率を2年間ゼロにする」ことを検討し、他の野党も同様の政策を掲げました。
JBpressの分析によれば、高市政権の2026年度予算は過去最大の122兆円に達する見込みで、この巨額予算の持続可能性に市場が疑問を呈しています。
市場参加者の見通し
QUICKの12月月次調査によると、債券市場参加者の2026年の10年物国債利回りの最高予想の中央値は2.3%です。年末時点では2.1%程度と予想されていますが、財政拡張懸念が続く限り、一時的な急騰は十分あり得ます。
日本売り防ぐ処方箋
市場との対話の重要性
2022年の英国トラスショックが示したように、市場との対話を軽視した財政拡張は、いかに政治的に人気があっても、市場の力によって阻止されます。
ニッセイ基礎研究所のレポートによれば、2026年の金利・為替市場の最大のテーマは、財政の持続可能性と市場の信頼回復です。政府は実現可能な財政計画を明確に示し、海外投資家を含む市場参加者と丁寧に対話する必要があります。
財政健全化へのコミットメント
片山さつき財務相が指摘したように、海外へのコミュニケーション不足が誤解を生んでいる面はあるでしょう。しかし、それ以上に重要なのは、具体的な財政健全化の道筋を示すことです。
消費税減税が期間限定であること、その後の財政再建計画が確実に実行されることを、数字とともに明示する必要があります。言葉だけでなく、行動で示すことが市場の信頼回復には不可欠です。
日銀との政策協調
日銀の岩下真理氏によれば、日銀は利上げを進めつつも、市場の混乱を避けるために慎重な姿勢を保つ必要があります。政府と日銀が密接に協調し、財政政策と金融政策の整合性を保つことが重要です。
無秩序な金利上昇は、政府の利払い費を急増させ、財政をさらに悪化させます。日銀の適切なペース配分と、政府の財政規律の両立が求められます。
注意点・今後の展望
利払い費の急増リスク
長期金利が2%台で推移すると、新規発行国債の利払い費が大幅に増加します。財務省の試算では、金利が1%上昇すると、年間の利払い費は数兆円規模で増加します。
「へそくり」が消えた現在、この増加分を他の予算から削減するか、増税で賄うか、さらなる国債発行で凌ぐかの選択を迫られます。いずれの選択も痛みを伴うため、早期の対策が重要です。
海外投資家の動向
Trading Economicsのデータによると、日本の10年物国債利回りは1966年以来の長期データが蓄積されています。海外投資家は、この歴史的なデータと現在の財政状況を詳細に分析しています。
海外投資家の存在感が増す中、日本の財政への査定はより厳格になります。国内投資家だけに頼る時代は終わり、国際的な評価に耐えうる財政運営が必須となっています。
まとめ
日本の長期金利が27年ぶりの高水準に達し、1998年の運用部ショック時の2.5%に迫る勢いです。衆院選での消費税減税公約が財政悪化懸念を招き、国債と円が同時に売られる「日本売り」の様相を呈しています。
財務省の「へそくり」は消え、金利上昇への余裕がなくなりました。リーダーには、市場との丁寧な対話、具体的な財政健全化計画の提示、日銀との政策協調という処方箋を実行する責任があります。
運用部ショックの教訓を活かし、市場の信頼を取り戻す行動が今こそ求められています。言葉ではなく、実行で示す時です。
参考資料:
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