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by nicoxz

長期金利2.2%台に急上昇、27年ぶり水準の背景と影響

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はじめに

2026年1月19日、国内債券市場で長期金利の指標となる新発10年物国債利回りが一時2.275%まで上昇し、1999年2月以来約27年ぶりの高水準を記録しました。前週末からの上昇幅は0.09%と、単日としては異例の大きさです。

この急激な金利上昇の背景には、2月8日投開票が見込まれる衆議院選挙を前に、与野党各党が消費税減税を公約に盛り込む動きがあります。財政悪化への懸念が債券売りを加速させています。

本記事では、金利上昇の要因を詳しく分析し、家計や企業への影響、そして今後の見通しについて解説します。

長期金利上昇の背景

27年ぶりの高水準とは

新発10年物国債の利回りは、日本の長期金利の代表的な指標です。2.275%という水準は、日本がデフレに突入する直前の1999年2月以来となります。この間、日本銀行は「ゼロ金利政策」から「マイナス金利政策」まで、異例の金融緩和を続けてきました。

2024年3月にマイナス金利政策を解除して以降、長期金利は上昇基調にあります。2025年末には2.1%台、そして今回2.2%台へと、着実に水準を切り上げています。

消費税減税の財政インパクト

金利上昇の最大の要因は、衆院選を控えた与野党の消費税減税競争です。自民党の鈴木俊一幹事長は1月18日のNHK番組で消費税減税に言及し、日本維新の会との連立合意書に触れて「誠実に実現していくのが基本的な立場だ」と強調しました。

自民党と日本維新の会が2025年10月に交わした連立政権樹立の合意書には、「飲食料品については2年間に限り消費税の対象としないことも視野に法制化の検討を行う」と明記されています。

日本維新の会の藤田文武共同代表は1月17日、次期衆院選の公約に食料品の消費税率ゼロを盛り込む考えを示しました。「物価高で家計が非常に痛んでいる」というのがその理由です。

野党各党の減税姿勢

野党側も減税を強く主張しています。参政党、れいわ新選組、共産党は「消費税廃止」を求めています。立憲民主党も含め、各党が家計支援策として消費税への対応を競っている状況です。

こうした動きを受けて、債券市場では財政拡張への警戒感が一気に高まりました。藤田共同代表は「無制限な減税は論外だ。市場から信認を得られない」と指摘し、期限を設ける必要があるとの認識を示していますが、市場の不安は収まっていません。

「日本版トラス・ショック」への懸念

英国トラス政権の教訓

2022年9月、英国のリズ・トラス首相が大型減税など拡張的な財政運営を掲げたことで、長期金利の急上昇と通貨下落が同時に発生しました。この「トラス・ショック」は、市場との対話を軽視した財政拡張がいかに危険かを示す象徴的な事例となりました。

トラス首相は就任からわずか45日で辞任に追い込まれ、英国経済は大きな混乱に見舞われました。日本の金融市場関係者の間では、与野党の消費税減税競争が「日本版トラス・ショック」を引き起こすのではないかという警戒感が広がっています。

市場が注視するポイント

金融市場が党派を超えて財政への目配りが乏しいと判断すれば、金利上昇や円安に拍車がかかるリスクがあります。実際、円相場は対ドルで157円台後半で推移しており、金利上昇と通貨安が同時進行する兆候も見られます。

重要なのは、減税の規模と期間、そして財源の手当てです。「2年間限定」という条件がついていても、その後の財政再建の道筋が示されなければ、市場の信認を得ることは難しいでしょう。

日銀の利上げ観測との関係

利上げペース加速の見方

長期金利上昇のもう一つの要因は、日本銀行の利上げ観測です。米ブルームバーグ通信は1月14日、「一層の円安が今後の利上げペースを速める可能性」に言及しました。

ロイター通信も1月15日、「日銀の一部では、市場が想定する半年に1度というペースより早いタイミングでの利上げが必要になる可能性もあるとの声が出ている」と報じています。

政策金利の現状

日銀は直近の金融政策決定会合で政策金利を0.75%に引き上げました。これは1995年以来の高水準です。市場は次の利上げを6月頃に織り込んでいますが、円安が進行すればより早いタイミングでの利上げもあり得ます。

政策金利と長期金利のスプレッド(差)が急拡大していることも注目点です。通常、利上げ局面ではこのスプレッドは拡大しにくいため、財政懸念という別の要因が長期金利を押し上げていることを示唆しています。

超長期債も大幅上昇

20年債・30年債の動向

長期金利の上昇は10年債だけにとどまりません。20年債利回りは一時3.25%、30年債利回りは一時3.585%まで上昇しました。いずれも前週末比で0.09%〜0.115%の大幅な上昇です。

超長期債の金利上昇は、年金基金や生命保険会社の運用に影響を与えます。一方で、これらの機関投資家にとっては、高い利回りで長期資金を運用できる機会が生まれているとも言えます。

国債発行計画への影響

財務省は2026年度の国債発行計画で、金利上昇局面を踏まえて超長期債の発行額を減らす方針を示しています。しかし、国債の短期化が進めば、将来の金利上昇局面で利払い負担が急増するリスクもあります。

2026年度予算案の一般会計総額は122兆3092億円と、2年連続で過去最大を更新しました。このうち国債費は31兆円に達しており、金利上昇が財政を直撃する構造が鮮明になっています。

家計・企業への影響

住宅ローン金利への波及

長期金利の上昇は、住宅ローンの固定金利に直接影響します。各金融機関は長期金利を参考に固定型住宅ローンの金利を設定しているため、今後さらなる金利引き上げが予想されます。

変動型住宅ローンは日銀の政策金利に連動するため、長期金利上昇の影響は限定的です。ただし、日銀が利上げペースを加速させれば、変動型も上昇に転じる可能性があります。

企業の資金調達コスト

企業にとっても、社債発行や銀行借入のコストが上昇します。特に設備投資を計画している企業や、借り換えを予定している企業にとっては、金融環境の悪化は経営計画の見直しを迫る要因となり得ます。

一方で、金利上昇は預金金利の上昇にもつながるため、高齢者など貯蓄を多く持つ層にはプラスの面もあります。金融環境の正常化という観点では、必ずしも悪いことばかりではありません。

国債格下げリスク

格付け会社の見方

日本国債の格下げリスクを巡る議論が活発化しています。チャールズ・シュワブのキャシー・ジョーンズ氏は「日本は再び格下げのリスクに直面している」との見方を示しています。

歳入に対する利払い費の比率は、2026年3月までの年度に8年ぶりの高水準に達する見通しです。財政赤字の拡大に対する世界的な不安感が、日本の債券市場にも圧力をかけています。

格下げの影響

ムーディーズのクリスチャン・ド・グズマン氏は、「現在の財政提案による格付けへの影響は、その内容や規模、恒久性」および将来的な政策によって左右されると指摘しています。

S&Pのレイン・イン氏は、選挙後に財政状況が悪化したとしても日本のソブリン格付けに直ちに影響を及ぼすことは想定していないとしています。ただし、日本国債が2〜3ノッチ格下げされた場合、日本の銀行のドル資金調達コストが急上昇するリスクがあり、企業の海外事業にも影響を及ぼしかねません。

今後の注意点と展望

衆院選後の政策運営

2月8日の衆院選投開票後、新政権がどのような財政政策を打ち出すかが最大の焦点です。消費税減税を実施する場合でも、財源の裏付けや期間限定の明確化など、市場の信認を得るための措置が不可欠です。

高市早苗首相の「責任ある積極財政」路線が継続される場合、日銀の金融政策との整合性も問われます。財政拡張と金融引き締めが同時に進めば、長期金利にはさらなる上昇圧力がかかる可能性があります。

個人投資家・家計の対応

住宅購入を検討している方は、金利動向を注視しつつ、固定型と変動型のメリット・デメリットを十分に比較検討することが重要です。既存の住宅ローンを抱えている方も、借り換えのタイミングを見極める必要があります。

預金や債券投資を行っている方にとっては、金利上昇は運用利回り改善のチャンスでもあります。ただし、債券価格は金利上昇局面で下落するため、保有債券の評価損には注意が必要です。

まとめ

長期金利の27年ぶりの高水準は、日本の財政と金融政策が大きな転換点を迎えていることを示しています。衆院選を控えた消費税減税競争は、短期的な家計支援と中長期的な財政健全性のバランスという難題を浮き彫りにしました。

市場は政治に対して、財政規律を維持しながら経済を支えるという「狭い道」を歩むよう求めています。選挙後の政策運営次第では、金利上昇がさらに加速するリスクも、落ち着きを取り戻す可能性もあります。

住宅ローンや企業の資金調達、そして国の財政運営に広く影響を与える長期金利の動向から、今後も目が離せません。

参考資料:

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