日本の車が長寿化、平均車齢10歳目前の背景と今後
はじめに
日本で走る自動車の「年齢」が、かつてないほど高くなっています。自動車検査登録情報協会の調査によると、2025年の乗用車の平均車齢は9.44歳となり、33年連続で上昇を続けています。このまま推移すれば、平均車齢が10歳を超える日も遠くありません。
自動車は日本経済を支える基幹産業であり、政府はこれまで新車購入を促す補助金政策を中心に自動車産業を支援してきました。しかし、クルマの長寿命化が進む現在、その政策モデル自体が転換期を迎えています。本記事では、平均車齢上昇の背景と、それが日本の自動車政策や経済に与える影響について詳しく解説します。
平均車齢が上昇し続ける3つの理由
自動車の耐久性が飛躍的に向上
現代の自動車は、1980年代や1990年代の車と比べて格段に耐久性が向上しています。エンジン技術の進化、防錆処理の改善、電子制御システムの信頼性向上などにより、10年以上乗り続けても大きな故障なく使用できる車が増えました。
国土交通省の「数字でみる自動車2025」によると、貨物車の平均使用年数は16.29年に達し、13年連続で長期化しています。乗用車についても13.32年と、過去最長を更新し続けています。技術革新により、「車は10年乗ったら買い替え」という従来の常識は過去のものとなりつつあります。
中古車市場の活性化と価格高騰
中古車市場の拡大も、平均車齢上昇の大きな要因です。2009年から2023年にかけて、中古車販売額は約1.6倍に成長しました。これは自動車市場全体の伸び率(約1.1倍)を大きく上回る数字です。
2024年の国内中古車小売市場規模は4兆4,492億円と推計されており、複数の自動車メーカーによる認証不正問題で新車供給が滞ったことから、中古車の慢性的な在庫不足が続きました。その結果、中古車価格は高値で推移し、「新車が手に入らないなら中古車で」という消費者の選択が増加しています。
また、日本の中古車輸出は2024年に95万台超となり、前年比5.9%増を記録しました。品質の高い日本の中古車は海外でも人気が高く、これが国内市場での在庫不足に拍車をかけています。
経済的理由による買い替え先送り
新車価格の上昇と維持費の負担増加も、買い替えを先送りする要因となっています。日本自動車工業会の2023年度調査によると、保有期間は平均7.2年で、10年超保有する世帯が2割強を占めています。
減車意向が増車意向を上回る傾向は継続しており、特に低年収層や高齢層で顕著です。経済的な要因として「ガソリン代・駐車場代」の負担感が2021年度より大きく増加していることが指摘されています。
新車販売の現状と自動車産業への影響
2024年の新車販売は7.5%減
2024年の国内新車販売台数は442万1,494台となり、前年比7.5%減とマイナスに転じました。内訳を見ると、軽自動車が前年比10.7%減の155万7,868台、登録車が同5.6%減の286万3,626台でした。
特に大きな打撃を受けたのがダイハツで、大規模な認証不正問題の影響により38.3%減と大幅に落ち込みました。ダイハツから車両供給を受けるマツダ、スバルもマイナスとなり、トヨタ(レクサス含む)も13.8%減と振るいませんでした。
2025年は回復傾向にあり、1-12月累計販売は前年比3.3%増の456万5,777台となりました。ただし、ダイハツ、スズキ、マツダが2桁増となる一方で、ホンダ、日産が2桁減と明暗が分かれる結果となっています。
自動車アフターマーケット市場の拡大
車両の長寿命化は、自動車アフターマーケット市場(部品交換、整備、カーケア用品など)の拡大を後押ししています。2024年の自動車アフターマーケット市場規模は、前年比105.5%の22兆1,235億円と推計されています。
2024年末時点での国内車両保有台数は7,897万台を維持しており、車両の長寿命化が保有台数維持の一因となっています。新車販売が伸び悩む中でも、既存車両の維持・修理需要は堅調に推移しているのです。
自動車補助金政策の現状と課題
新車購入偏重の支援策
現在の日本の自動車関連補助金は、新車購入を前提としたものが中心です。代表的なのが経済産業省のクリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)で、2025年度の補助金上限額は以下の通りです。
- 電気自動車(EV):上限85万円
- 軽電気自動車(軽EV):上限55万円
- プラグインハイブリッド自動車(PHEV):上限55万円
- 燃料電池自動車(FCV):上限255万円
日本は「2035年までに、乗用車新車販売で電動車100%」という目標を掲げています。しかし2023年度時点で、EV・FCV・PHEVの合計シェアは約3.5%にとどまり、ハイブリッド車(HEV)が約50%を占める状況です。
中古車・長期保有への支援不足
問題は、中古車購入や長期保有に対する支援策が手薄なことです。平均車齢が10歳に迫る現在、多くのドライバーは新車ではなく中古車を選択したり、現在の車を長く乗り続ける選択をしています。
自治体レベルでは、東京都の「燃料電池自動車等の導入促進事業」や愛知県の「先進環境対応自動車導入促進費補助金」など独自の支援策がありますが、これらも基本的には新車が対象です。既存車両のエコカー改造支援や、環境性能の高い中古EV購入への補助といった施策は、まだ十分とは言えません。
今後の展望と課題
政策見直しの必要性
車齢の上昇傾向が続く中、政府には自動車政策の見直しが求められています。新車販売促進だけでなく、既存車両の環境性能向上を支援する施策や、適切な時期での買い替えを促進する制度設計が必要です。
例えば、古い車から環境性能の高い中古EVへの乗り換えに対する補助金制度や、長期保有車の定期点検・整備を促進するインセンティブ制度なども検討の余地があります。
電動化時代への対応
2050年の脱炭素達成を目標に電動化を推進する中で、ガソリン車は徐々に規制されて需要も縮小する見込みです。しかし電気自動車については、ユーザーに一通り行きわたるまでは中古車のストック不足や価格高騰が想定されています。
電動化への移行期においては、ガソリン車の長期使用と新世代EVへの段階的移行をバランス良く支援する政策が求められます。
若者の自動車保有意識
「若者の車離れ」については、調査によって結果が分かれています。デロイトトーマツグループの調査では29歳以下の自動車保有率は低下傾向にある一方、別の調査では20代のマイカー所有率が60.5%と全年代で最も高いという結果も出ています。
Z世代の調査では、車の所有について意欲的な人が6割以上いる一方で、「若者の車離れ」に対する実感は肯定と否定が半々という複雑な状況です。公共交通機関の発達した都市部と、車が必需品である地方での意識差も大きいと考えられます。
まとめ
日本の自動車の平均車齢が33年連続で上昇し、10歳に迫っている背景には、耐久性の向上、中古車市場の活性化、経済的理由による買い替え先送りといった複合的な要因があります。
この傾向は、新車販売を軸とした従来の自動車産業政策に見直しを迫るものです。電動化への移行期において、新車偏重の補助金政策から、中古車や長期保有車両も視野に入れた総合的な自動車政策への転換が求められています。
自動車は日本経済の基幹産業であり続けますが、その支援のあり方は、消費者の行動変容に合わせて柔軟に変化していく必要があるでしょう。
参考資料:
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