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by nicoxz

日本のLNG運搬船建造「絶滅」から復活なるか

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はじめに

日本のLNG(液化天然ガス)運搬船の建造能力が「絶滅」状態にあります。2019年を最後に国内での新規建造実績はなく、建造に必要なサプライチェーンも壊滅してしまいました。

日本は総発電電力量の約34%を天然ガス火力発電に依存しており、これは石炭(約30%)を上回る最大の割合です。AI需要の拡大に伴い電力消費が急増するなか、LNGの安定調達は国家のエネルギー安全保障に直結する課題です。

政府はこの「絶滅」した建造能力の復活について議論を本格化させ、2026年春ごろをめどに結論を出す見込みです。本記事では、日本の造船業が置かれた現状と復活への道筋を解説します。

なぜ日本はLNG運搬船を作れなくなったのか

かつての造船大国の凋落

日本はかつて世界の新造船建造量の半分以上を占める造船大国でした。しかし、2023年の統計では中国が1,750万CGT(世界シェア51%)、韓国が910万CGT(26%)に対し、日本は490万CGT(14%)にまで後退しています。

LNG運搬船の分野では事態がさらに深刻です。韓国勢がLNG運搬船の受注量で圧倒的なシェアを占めており、現代重工業が82隻、サムスン重工業が54隻、大宇造船海洋が35隻とトップ3を独占しています。韓国全体でLNG船受注の約70〜83%のシェアを握り、中国が残りの17〜30%を獲得する構図です。日本勢はこの市場から事実上撤退した状態にあります。

サプライチェーンの崩壊

LNG運搬船は極低温(マイナス162度)の液化天然ガスを運ぶための特殊なタンク技術や断熱材、専用の配管システムなど、高度な技術と部品調達網が必要です。長期間にわたり建造実績がなかったことで、これらの技術を持つ協力会社や熟練技術者が散逸し、サプライチェーンそのものが消滅してしまいました。

1隻あたりの建造費が400億円を超える高額案件であるにもかかわらず、日本がこの分野から脱落したことは、造船業界にとって大きな痛手です。

エネルギー安全保障上の危機感

LNG輸入への高い依存度

日本は天然ガスの産出地とパイプラインでつながっておらず、LNGとして船で輸入する以外に調達手段がありません。LNGは気体の約600分の1に液化して大量輸送が可能になりますが、その運搬にはLNG運搬船が不可欠です。

現在、日本はオーストラリア、マレーシア、アメリカ、ブルネイなどから調達先を多角化していますが、運搬船の建造・調達を韓国や中国に全面的に依存する状況は、安全保障上のリスクとなっています。

AI時代の電力需要増大

今後、生成AIやデータセンターの急速な普及に伴い、電力需要の大幅な増加が見込まれています。天然ガス火力発電は、再生可能エネルギーの変動を補う調整電源としても重要な役割を担っています。LNGの安定的な調達と輸送手段の確保は、日本の経済成長を支える基盤と言えます。

政府はこうした認識のもと、経済安全保障推進法に基づき天然ガスを「特定重要物資」に指定し、戦略的な余剰LNGの確保・運用にも取り組んでいます。

造船業復活に向けたオールジャパンの動き

今治造船によるJMU子会社化

2026年1月5日、国内最大手の今治造船がジャパンマリンユナイテッド(JMU)を子会社化しました。この再編により、国内建造量シェア約50%、世界第4位の造船グループが誕生しています。

今治造船の檜垣幸人社長は「シェア維持へ増産体制を整備する」と表明し、国内建造量を倍増させる方針を打ち出しました。JMUの広瀬崇社長も「液化CO2運搬船など新たな分野では会社の垣根を越えて進めていきたい」と述べており、グループの枠を超えた連携の姿勢を示しています。

政府の造船業再生ロードマップ

国土交通省は2025年12月に「造船業再生ロードマップ」を発表しました。主な目標は以下の通りです。

  • 2035年までに国内建造量を1,800万総トンへ倍増
  • 10年間で1兆円規模の投資を実現
  • 業界の連携・再編による生産能力の拡大

さらに政府は約65億ドル(約1兆円)規模の基金を造成し、造船業の設備投資や技術開発を支援する計画です。LNG運搬船の建造能力再構築は、このロードマップの中核的な課題として位置づけられています。

民間企業の大型投資

業界全体でも前例のない規模の投資が進んでいます。民間だけで約3,500億円を投じ、生産能力の増強と新技術の導入を推進する計画が報じられています。今治造船とJMUの連合に加え、三菱造船なども含めた「MI LNG」の連携体制のもと、新燃料船の設計や技術開発での協力が進んでいます。

注意点・今後の展望

LNG運搬船の建造能力復活には、大きな課題が立ちはだかっています。韓国勢が長年にわたり蓄積してきたコスト競争力と生産効率に対し、日本がゼロから追いつくのは容易ではありません。造船業の実務者からは「中韓と規模やコストで真正面から戦うのはもはや非現実的」との指摘もあります。

一方で、日本が強みを発揮できる領域もあります。液化CO2運搬船やアンモニア燃料船など、次世代の環境対応船舶では技術的なアドバンテージを活かせる可能性があります。また、米海軍の造船需要や北極海航路の開拓といった新たな市場機会も注目されています。

2026年春に予定される政府の結論が、日本の造船業の命運を左右する分岐点となるでしょう。オールジャパンの体制構築が実効性を持つかどうか、業界と政府の連携が試されます。

まとめ

日本のLNG運搬船建造能力は「絶滅」と言える状態にありますが、エネルギー安全保障上の危機感を背景に、復活に向けた動きが加速しています。今治造船によるJMU子会社化、政府の1兆円規模の造船業再生ロードマップ、民間の大型投資など、官民一体の取り組みが進行中です。

ただし、韓国・中国との競争は厳しく、単なる「復活」ではなく、次世代船舶での差別化戦略が求められます。2026年春の政府方針の決定が、今後の方向性を大きく左右することになります。

参考資料:

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