国内テレビ市場で中国系が6割超へ、ソニーTCL合弁の衝撃
はじめに
ソニーグループがテレビ事業を中国大手TCLグループとの合弁会社に移管することを発表しました。この決定により、国内テレビ市場における「中国系」メーカーのシェアは6割を超える見通しとなっています。
かつて世界を席巻した日本のテレビ産業は、韓国・中国メーカーとの競争に敗れ、次々と撤退や事業売却を余儀なくされてきました。ソニーの今回の決断は、「家電の王様」からの日本勢の撤退戦の象徴的な出来事といえます。
本記事では、ソニーとTCLの提携内容、国内テレビ市場の現状、日本家電メーカーの事業転換について解説します。
ソニーとTCLの合弁会社設立
提携の概要
ソニーグループの子会社ソニーは2026年1月20日、中国の家電メーカーTCL Electronicsとホームエンタテインメント領域において戦略的提携に向けた協議を進めることに基本合意したと発表しました。
両社は、ソニーのホームエンタテインメント事業を承継する合弁会社を設立する方針で、出資比率はTCLが51%、ソニーが49%となる見通しです。新会社では、テレビやホームオーディオ機器の製品開発から製造、販売、物流、顧客サービスまでを一貫してグローバルに展開します。
ブランドは継続
新会社の製品には、引き続き「ソニー」および「ブラビア」(BRAVIA)のブランド名称が使用されます。店頭に並ぶ製品の見た目は変わらないものの、その背後にある事業主体は中国資本が主導する企業となります。
今後のスケジュール
両社は2026年3月末を目処に法的拘束力のある確定契約の締結を目指しています。新会社は関係当局の許認可取得などを条件として、2027年4月の事業開始を想定しています。
対象事業の範囲
合弁会社に移管されるのは、テレビやサウンドバー、ネックスピーカーなどのホームオーディオ事業です。一方、ヘッドホンやイヤホンは対象外となり、ソニーが引き続き自社で事業を継続します。
国内テレビ市場の現状
中国系メーカーのシェア拡大
国内の薄型テレビ市場では、すでに中国系メーカーの存在感が圧倒的になっています。BCNの調査によると、2024年1月から9月にかけて、海信集団(ハイセンス)が傘下のTVS REGZA(旧東芝映像ソリューション)を含めてシェア40.4%で1位となりました。
TCLは9.5%で3位に入り、両社の合計シェアは49.9%に達しています。2019年には12.1%だったので、わずか5年で約4倍にまで拡大した計算になります。
日本メーカーの苦戦
2024年の通年データでは、ソニーのシェアは9.6%、パナソニックは8.8%にとどまりました。かつてシェア20%超を誇った両社の凋落は明らかです。
シャープは20.6%で2位につけていますが、同社自体が2016年に台湾の鴻海精密工業の傘下に入っており、純粋な日本資本とはいえません。
ソニーの事業分離後の市場構図
ソニーの事業がTCL主導の合弁会社に移管されると、国内市場のシェア構図は大きく変わります。ハイセンス・レグザ連合、TCL・ソニー合弁、そして鴻海傘下のシャープを「中国・台湾系」と捉えると、そのシェアは6割を超えることになります。
日本テレビメーカー衰退の歴史
相次ぐ撤退と事業売却
日本の家電メーカーは、テレビ事業から次々と撤退してきました。テレビの国内生産からは、2012年に日立製作所、2018年にシャープ、2021年にはパナソニックが撤退しています。
東芝は2018年にテレビ事業を中国のハイセンスに売却し、「レグザ」ブランドは現在ハイセンス傘下のTVS REGZAが展開しています。日立製作所は2018年に国内販売自体から撤退、三菱電機も2021年に液晶テレビからの事実上の撤退を表明しました。
衰退の要因
日本メーカー衰退の要因として、まず技術戦略の誤りが挙げられます。パナソニックはプラズマテレビに過度に投資しましたが、液晶の大型化と高精細化の進展が速く、2013年には事業終結に追い込まれました。
また、日本メーカーは「過剰品質」の罠に陥ったとも指摘されています。商品の価値や新機能を増やし続けながら質を高め続けようとした結果、消費者が求めていない機能にまでコストをかけ、価格だけが高騰していきました。
一方、中国・韓国メーカーは必要十分な機能を低価格で提供することに注力し、コストパフォーマンスを重視する消費者の支持を集めました。
世界市場での敗北
世界市場に目を向けると、2020年代のシェアトップはサムスン電子、2位はLG電子と韓国勢が上位を独占しています。3位以降にはTCLやハイセンスといった中国メーカーが続き、ソニーは5位前後にとどまっています。
事業転換を迫られる日本メーカー
パナソニックの改革
パナソニックホールディングスは、テレビやキッチン家電などを低収益事業として位置づけ、「事業、商品・地域からの撤退やベストオーナーへの事業承継を含む抜本的な対策を講じる」方針を示しています。2026年度末までに課題事業を一掃する考えです。
国内薄型テレビ市場におけるパナソニックのシェアは、2010年代中ごろには24%ほどありましたが、最近は9%程度まで下がっています。
ソニーのエンタメ企業への転換
ソニーは早い段階から家電事業への依存度を下げる戦略を進めてきました。音楽や映画、ゲーム、金融といった事業に軸足を移し、現在はCMOSセンサーなどの半導体やカメラを含む電機事業は連結売上高の3割程度にとどまっています。
今回のテレビ事業分離は、電機メーカーからエンターテインメントカンパニーへの転換を完結させる一歩といえます。実際、ソニーのテレビ事業の売上高は2021年度の8,588億円から2024年度には5,641億円まで34%減少しており、経営資源を成長分野に集中させる判断には合理性があります。
合弁による延命戦略
ソニーがTCLとの合弁を選んだのは、完全撤退ではなく「延命」を図る戦略といえます。TCLの先端ディスプレイ技術やコスト競争力、垂直統合型サプライチェーンの強みを活用しながら、ソニーの高画質・高音質技術やブランド力を維持しようという狙いがあります。
今後の展望と課題
市場競争の行方
TCLは日本市場でのシェア20%、トップ3入りを目標に掲げています。ソニーブランドを手に入れることで、この目標の達成は現実味を帯びてきます。
一方、ハイセンス・レグザ連合との競争も激化します。同じ中国系同士の競争により、価格競争がさらに進む可能性があります。
日本メーカーの生き残り策
日本メーカーに残された道は限られています。コモディティ化したテレビ市場で戦い続けるのではなく、高付加価値な領域に特化するか、他社との提携によりスケールメリットを確保するか、あるいは事業そのものからの撤退かという選択を迫られています。
ソニーの決断は、ブランドを維持しながら事業の持続可能性を確保するという点で、一つのモデルケースとなりうるでしょう。
まとめ
ソニーのテレビ事業分離は、日本の家電産業の歴史的転換点を象徴しています。国内テレビ市場は中国系メーカーが6割を超える寡占状態となり、「メイド・イン・ジャパン」の時代は事実上終焉を迎えました。
しかし、これは単純な「敗北」ではありません。ソニーは収益性の低いハードウェア事業から撤退し、エンターテインメントや半導体といった成長分野に経営資源を集中させる戦略的判断を下しました。
消費者にとっては、中国メーカーの台頭によりコストパフォーマンスの高い製品が手に入りやすくなるメリットがあります。一方で、かつて世界をリードした日本の家電技術がどのように継承されていくのか、産業政策の観点からも注目が集まります。
参考資料:
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