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by nicoxz

円安止まらず、口先介入の効果に限界か。実弾介入の条件は

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はじめに

2026年に入り、円安が止まりません。1月中旬には1ドル=159円台と、約1年半ぶりの水準まで下落しました。背景には、衆院選に向けて与野党が消費税減税を公約に掲げ、財政悪化への懸念が高まっていることがあります。

片山さつき財務相は「断固たる措置を取る」と繰り返し発言していますが、三村淳財務官との足並みが揃わない場面も目立ちます。市場参加者は、政府・日銀による実際の円買い・ドル売り介入までの距離感を測りかねている状況です。本記事では、現在の円安の背景と、為替介入の可能性について解説します。

消費税減税論と財政懸念が円安を加速

与野党の減税競争

2026年2月に予定される衆院選を前に、与野党の減税競争が過熱しています。自民党の鈴木俊一幹事長は、連立を組む日本維新の会との政策合意にある「2年間の時限的な食料品消費税0%」について言及しました。野党も同様の減税策を掲げており、財政拡張への懸念が急速に高まっています。

この動きを受けて、金融市場では「トリプル安」とも呼ばれる状況が発生しています。

  1. 国債価格の下落(金利上昇): 40年物国債利回りは史上最高を更新し、長期金利も27年ぶりの水準に
  2. 円安の進行: 対ドルで159円台まで下落
  3. 株価の下落: 金利高を嫌気した売りが続く

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田啓介シニア債券ストラテジストは「消費減税の可能性が意識されて超長期債中心に値動きが大きく、適正な価格が分からなくなっている」と市場の混乱ぶりを指摘しています。

「トラス・ショック」の再来懸念

専門家の間では、2022年に英国で起きた「トラス・ショック」との類似性が指摘されています。当時、リズ・トラス首相が大型減税など拡張的な財政運営を掲げて就任した直後、長期金利の急騰と通貨下落が発生し、わずか1か月半で辞任に追い込まれました。

第一生命経済研究所の熊野英生氏は、消費税減税を決めれば日本国債の格下げも十分にあり得るとみており、「かなり厳しいダウングレードになるだろう」と警告しています。

口先介入の足並みが揃わない政府

片山財務相の「断固たる措置」

片山さつき財務相は、円安進行に対して繰り返し強いメッセージを発信しています。2025年12月22日のインタビューでは、日銀総裁の会見後に進んだ円安について「ファンダメンタルズではなくて投機だ」と断じ、為替介入の可否には「フリーハンドがある」と述べました。

2026年1月16日には、日米財務相共同声明を踏まえ「為替介入に制約や制限はついていない」と明言しています。

しかし、片山財務相の発言は市場に「狼少年」と受け止められつつあるとの指摘もあります。実弾を伴わない口先介入を繰り返すことで、警戒感が薄れているとの見方です。

三村財務官との温度差

財務官は為替政策の実務を担う立場であり、市場との対話において重要な役割を果たします。三村淳財務官は「為替の実際の動きと日米の国債の金利差の推移を見ると、最近はやや乖離が見られる」と述べ、介入の用意があることを示唆しました。

この発言を受け、円相場は一時1ドル=156円70銭台まで反発しましたが、効果は限定的でした。市場参加者からは「財務相と財務官の発信に統一感がない」との声が上がっています。

特に、介入警戒感が後退しがちな海外時間帯には円安が進みやすく、政府の発言だけでは円安を止められない状況が続いています。

実弾介入の条件とタイミング

為替介入の仕組み

日本における為替介入は、財務大臣の権限において実施されます。日本銀行は財務大臣の代理人として、財務省所管の「外国為替資金特別会計」(外為特会)の資金によって介入を行います。

介入の判断に際しては、日銀為替課が市場動向を把握・分析し、財務省に情報を提供します。為替相場が急激に変動し、財務大臣が介入が必要と判断すると、財務省から日銀に介入実行の指示が出される仕組みです。

過去の介入実績から見る条件

2022年以降、政府・日銀は計24.5兆円規模の為替介入を実施しています。直近では2024年4月〜5月にかけて9兆円規模の介入が行われました。

過去の介入には以下のような特徴があります。

  1. 水準だけでなくスピードも重視: 円安であるだけでなく、一定程度急速に円安が進んだ段階で介入
  2. 投機筋の動きが目立つ状況: 「過度な変動や無秩序な動きへの対応」と主張しやすい状況
  3. 市場の不意を突くタイミング: 巨額の資金を一気に投入し、介入の存在を印象付ける
  4. 覆面介入: 介入の有無を明かさないことで「疑心暗鬼」を生み出す

160円が一つの目安

東京が最後に為替市場に介入したのは2024年7月で、当時は38年ぶりの安値となる1ドル=161.96円をつけた後でした。

市場関係者の間では、投機的な円売りを伴う形で円安が進み160円をうかがう展開となれば、介入が再開される可能性が高いとみられています。「1ドル=160円」というキリの良い数字が心理的な節目として意識されています。

注意点・今後の展望

介入の持続的効果には限界

為替介入は相場の急激な変動を抑える一時的な手段であり、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を変えるものではありません。日米金利差が大きい状況が続く限り、介入の効果は限定的になりやすいとの指摘があります。

過去の例でも、介入後に円高に振れても、数日から数週間で元の水準に戻るケースが多く見られました。

日銀の利上げが鍵

円安の根本的な解決には、日銀の金融政策正常化が重要です。しかし、ニッセイアセットマネジメントの三浦英一郎氏は「インフレ高進により日銀の利上げ到達点が上がることも考えられる」と述べ、政策判断の難しさを指摘しています。

利上げは円高要因となりますが、同時に国内景気への悪影響や、国債利払い費の増加という副作用も伴います。衆院選後の政治情勢も含め、不確実性の高い状況が続きそうです。

まとめ

2026年の円安は、衆院選を前にした与野党の消費税減税競争による財政懸念と、日米金利差という構造的な要因が重なって進行しています。片山財務相は「断固たる措置」を繰り返しますが、三村財務官との発信に温度差があり、口先介入の効果には限界が見えています。

実弾介入の発動には「160円」が一つの目安とされますが、介入だけでは円安トレンドを転換することは困難です。日銀の金融政策や衆院選後の財政運営が、今後の為替相場を左右する重要な要素となります。

参考資料:

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