柏崎刈羽原発6号機が原子炉停止、制御棒に不具合で調査へ
はじめに
東京電力ホールディングスは2026年1月22日、柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)6号機の原子炉を停止すると発表しました。燃料の核分裂反応を抑える制御棒を引き抜く作業中に、制御装置の不具合を知らせる警報が鳴り、作業を中断していたためです。
6号機は2026年1月21日に13年10カ月ぶりに再稼働したばかりでした。東京電力が原発を再稼働させるのは2011年の福島第1原発事故後初めてであり、わずか29時間での停止は大きな注目を集めています。
本記事では、今回の不具合の詳細、制御棒の役割と仕組み、そして柏崎刈羽原発再稼働の意義と課題について解説します。
不具合の経緯
再稼働後の警報発生
2026年1月21日、柏崎刈羽原発6号機が再稼働しました。しかし、その約29時間後の22日午前0時30分ごろ、原子炉内の制御棒を引き抜く作業中に警報が発生し、作業を停止しました。
東電は原因特定に時間がかかるとして、22日午後11時56分に制御棒の挿入を開始し、23日午前0時3分に全ての制御棒を挿入して原子炉を停止しました。
東電の柏崎刈羽原発・稲垣武之所長は記者会見で「調査は1、2日で終わるとは想定していない」と述べており、調査終了時期は未定としています。
外部への影響はなし
東電は「外部への放射能の影響はなく、発電プラントの状態は安定している」と説明しています。原子力規制委員会も「原子炉の状態は安定しており、安全上問題はない」との見解を示しています。
再稼働前にも不具合が発覚
30年前からの設定ミス
実は再稼働前の試験段階でも、制御棒に関する不具合が見つかっていました。2026年1月17日、再稼働に向けた試験中に、制御棒の操作に誤りがあった際に作動するはずの警報が出ない不具合が発覚しました。
18日の発表によると、この不具合の原因は制御棒の不用意な引き抜きを防ぐ機能の設定ミスでした。驚くべきことに、この設定ミスは6号機の営業運転開始時(1996年)から、つまり30年間にわたって放置されていたことが判明しました。
発見されなかった理由
6号機には燃料の核分裂反応を抑える制御棒が205本あります。誤った設定は約2万組ある組み合わせの約0.4%にあたる88の組み合わせで存在していました。
これまでの検査ではサンプル検査で行われていたため、設定ミスが発見されていませんでした。今回の再稼働前の全数検査で初めて発覚した形です。
再稼働延期
この問題を受け、当初1月20日に予定されていた再稼働は延期されました。東電は設定を修正した上で、1月21日に再稼働を実施しましたが、その直後に新たな不具合が発生した形となります。
制御棒の仕組みと役割
原子炉のブレーキ
制御棒は、原子炉の出力を調整するための重要な炉心設備で、いわば原子炉のブレーキの役割を果たします。核分裂は中性子がウランにぶつかって起こるため、制御棒の出し入れによって炉内の中性子の数を変え、核分裂の割合を調節します。
制御棒には、ホウ素やカドミウムなど中性子を吸収しやすい物質が使われています。柏崎刈羽原発のような沸騰水型原子炉(BWR)では、炭化ホウ素やハフニウムが制御棒の中性子吸収材として使用されます。
沸騰水型原子炉の特徴
沸騰水型原子炉では、平らな板2枚を十字形に組み合わせた制御棒が燃料集合体の間を動きます。110万kW級では185本の制御棒があり、圧力容器の下部から挿入される構造となっています。
容器上部に汽水分離器があるため、沸騰水型軽水炉では容器下側から水圧で制御棒を押し込む構造が採用されています。
臨界制御の重要性
2本以上の制御棒が同時に抜けると、核分裂反応が連続する「臨界」が予期せず始まり、原子炉温度が想定以上に上昇するリスクがあります。そのため、こうした運転を防ぐ制限が設けられています。
緊急時には全ての制御棒が自動的に挿入され、原子炉を緊急停止(スクラム)させます。沸騰水型炉の制御棒は、高圧で蓄えてある水の力で押し込まれる仕組みです。
柏崎刈羽原発再稼働の意義
福島事故後初の東電原発再稼働
柏崎刈羽原発6号機の再稼働は、2011年の福島第1原発事故後、東京電力として初めての原発再稼働でした。事故の当事者である東電が原発を動かすことは、国の原子力政策における大きな転換点とされています。
柏崎刈羽原発は福島事故後に全7基が停止し、今回の再稼働は実に14年ぶりのことでした。
東西の電気料金格差
東日本大震災後、原子力発電所が1基も再稼働していない東日本では、すでに合計12基が再稼働している西日本に比べ、電気料金が2割から3割程度高くなっています。この「西高東低」の状況を解消する上で、柏崎刈羽原発の再稼働は重要な意味を持っています。
東京電力によると、柏崎刈羽原発1基の再稼働による燃料費削減効果は年約1,000億円とされています。
AI時代の電力需要
人工知能(AI)の普及でデータセンター向けの電力需要が高まる中、日本は原発活用を推し進めています。安定的な大容量電源として、原発の役割が再評価されている背景があります。
課題と懸念
東電の経営と福島の廃炉
東電は福島第1原発の廃炉問題を抱えたままです。廃炉や賠償など福島の事故処理費用は23兆4,000億円に上り、東電の負担はうち16兆円となっています。柏崎刈羽原発の再稼働は、苦境にある経営改善が目的でもあるとされています。
地元住民の不安
新潟県が公表した調査では、住民の60%が再稼働の条件は整っていないと回答し、約70%が東電による運営に不安を感じているとされています。今回の相次ぐ不具合は、こうした不安をさらに高める可能性があります。
電気料金への影響は限定的
政府は電気料金抑制や電力供給面で再稼働のメリットを訴えてきましたが、東京電力は「料金は下がらない」と認めています。再稼働による燃料費削減効果は、福島の事故処理費用や安全対策費用に充当される見込みであり、消費者への直接的な還元は限定的となる可能性があります。
注意点と今後の展望
調査の行方
東電は今回の不具合の原因究明を進めていますが、調査終了時期は未定です。30年前から放置されていた設定ミスと今回の新たな不具合が関連しているのか、あるいは別の問題なのかも含め、徹底した調査が求められます。
信頼回復への道のり
東電は福島事故後、14年間にわたって信頼回復に向けた取り組みを続けてきました。しかし、6号機・7号機は2017年に原子力規制委員会の審査に一度合格しながらも、テロ対策不備などの不祥事が相次ぎ、地元同意は難航しました。
今回の再稼働直後の不具合は、東電の安全管理体制に対する疑念を再び呼び起こす可能性があります。
他号機への影響
柏崎刈羽原発は全7基を有する世界最大級の原子力発電所です。6号機に続いて7号機の再稼働も計画されていますが、今回の不具合が他号機の再稼働スケジュールに影響を与える可能性もあります。
まとめ
柏崎刈羽原発6号機は、再稼働からわずか29時間で原子炉停止に追い込まれました。制御棒の不具合という安全に直結する問題であり、東電には徹底した原因究明と再発防止策が求められます。
福島原発事故後初となる東電の原発再稼働は、日本のエネルギー政策にとって重要な転換点でした。しかし、今回の相次ぐトラブルは、東電の安全管理体制に対する信頼を揺るがしかねません。
東電は「外部への放射能の影響はない」と説明していますが、地元住民や国民の不安を払拭するためには、透明性の高い情報公開と誠実な対応が不可欠です。調査結果と今後の対応を注視する必要があります。
参考資料:
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