川崎新アリーナに味の素・三菱化工機が参画、水素都市へ
はじめに
DeNAと京浜急行電鉄が川崎市で進める新アリーナ建設プロジェクト「Kawasaki Arena-City Project」に、新たな展開がありました。食品大手の味の素と水素製造装置を手がける三菱化工機がパートナー企業として参画することが発表されたのです。
このプロジェクトは、単なるスポーツアリーナの建設にとどまりません。2030年10月の開業を目指し、最大1万5000人を収容する施設を核に、水素エネルギーを活用したカーボンネガティブな都市モデル「Kawasaki 2050 Model」の実現を掲げています。
本記事では、川崎新アリーナ計画の全体像と、味の素・三菱化工機の参画が持つ意味について詳しく解説します。
プロジェクトの概要と規模
京急川崎駅前に誕生する複合施設
新アリーナは京急川崎駅の東側(多摩川側)、KANTOモータースクール川崎校跡地に建設されます。敷地面積は約1万3640平方メートルで、メインアリーナと17階建ての商業棟で構成される複合エンターテインメント施設となります。
収容人数は当初計画の1万人から大幅に拡大され、最大1万5000人規模となりました。川崎ブレイブサンダースがホームアリーナとして使用する際は1万2000人規模での運用が想定されています。現在のホームであるとどろきアリーナ(約6500人収容)の約2倍の規模です。
世界初のルーフトップパーク
本施設の特徴的な取り組みとして、1万人以上収容可能なアリーナとしては世界初となるルーフトップパーク(屋上公園)の整備があります。多摩川河川敷との連携も計画されており、スポーツやエンターテインメントだけでなく、市民の憩いの場としても機能する施設を目指しています。
経済効果は年間1270億円
DeNAの試算によると、施設完成後の年間来場者数は330万人、経済波及効果は約1270億円に達する見込みです。羽田空港に近い立地を活かし、国際的なイベント会場としての活用も視野に入れています。
味の素・三菱化工機の参画意義
川崎に縁のある2社の参画
パートナー企業第1弾として発表された味の素と三菱化工機は、ともに川崎市に深い縁を持つ企業です。
味の素は1914年に川崎工場を開設し、100年以上にわたって同地で事業を展開してきました。現在も川崎事業場として主力製品の製造拠点となっています。同社が掲げる「食」のテーマは、アリーナでのフードサービスや地域の食文化発信において重要な役割を担うことが期待されています。
三菱化工機は川崎市に本社を置く企業で、水素製造装置やプラント設計を主力事業としています。同社が2025年7月に発足した「MKK PROJECT」は、川崎市を拠点に循環型社会の実現を目指すプロジェクトで、DeNAとの連携も含まれています。
クリーンエネルギー供給の担い手
三菱化工機の参画における最大の意義は、水素エネルギーの供給です。同社が開発した水素吸蔵合金・燃料電池一体型システム「HyDel(ハイデル)」の運用が2025年12月からカワサキ文化公園で開始されており、アリーナへの水素エネルギー導入に向けた実証実験が進んでいます。
施設で使用する電力の一部を水素由来のクリーンエネルギーで賄うことで、環境負荷の低い「カーボンネガティブアリーナ」の実現を目指しています。
Kawasaki 2050 Model とは
5つの重点テーマ
本プロジェクトの核となる「Kawasaki 2050 Model」は、社会実装型サステナビリティプラットフォームとして位置づけられています。世界共通の社会課題から選定された5つの重点テーマが設定されています。
- Climate Change(気候変動): カーボンネガティブアリーナの実現
- Nature Positive(自然再興): 多摩川の生態系改善
- Circular Economy(循環経済): 廃棄物の90%再資源化
- Human Empowerment(個性の躍動): 多様な人材が活躍できる環境づくり
- Well-being(心身の健康): スポーツ・エンターテインメントを通じた健康増進
国際認証の取得を目指す
DeNAはサステナビリティに注力したアリーナや文化施設の開発・運営実績を持つオークビュー・グループと業務提携し、環境認証「LEED for Communities」の取得を目指しています。これが実現すれば、日本のアリーナとしては先駆的な取り組みとなります。
川崎ブレイブサンダースの移転計画
B.LEAGUE PREMIER参入を果たす
プロバスケットボールチーム「川崎ブレイブサンダース」は、2026-27シーズンからB.LEAGUE PREMIER(Bプレミア)への参入が決定しています。新リーグの厳格なアリーナ基準を満たすため、段階的なホームアリーナの移転が計画されています。
3段階の移転スケジュール
川崎ブレイブサンダースのホームアリーナは以下の計画で移転します。
第1段階(2026-27〜2027-28シーズン): 現在のとどろきアリーナを継続使用
第2段階(2028-29〜2029-30シーズン): 川崎市市民ミュージアム跡地に整備される「新とどろきアリーナ(仮称)」を使用
第3段階(2030-31シーズン以降): Kawasaki Arena-City Projectの新アリーナに本拠地を移転
開業延期の経緯
新アリーナは当初2028年10月開業を予定していましたが、建設業界の人員不足や専門工事業者の確保困難により、2030年10月以降に延期されました。この2年の遅れに対応するため、中間施設として新とどろきアリーナが活用されることになりました。
今後の展望と課題
パートナー企業の追加募集
DeNAは今後、最大20社程度のパートナー企業をさらに募集する予定です。食とクリーンエネルギーという2つの柱に加え、モビリティ、テクノロジー、ウェルネスなど多様な分野からの参画が期待されています。
新とどろきアリーナの整備問題
中間施設となる新とどろきアリーナについては、VIPルームやラウンジ、エレベーターの増設などB.LEAGUE PREMIERの基準を満たす設備整備が課題となっています。川崎市が整備を見送る場合、チームの他都市への移転や下部リーグへの降格も想定されており、行政との調整が続いています。
地域との共存
アリーナ周辺は住宅地も近接しているため、大規模イベント開催時の交通対策や騒音対策など、地域住民との共存に向けた取り組みも求められます。多摩川河川敷との連携整備を含め、地域全体の価値向上につながるプロジェクトとなるかが注目されます。
まとめ
川崎新アリーナ計画への味の素・三菱化工機の参画は、単なるスポンサー契約ではありません。それぞれの企業が持つ専門性—食文化と水素エネルギー—を活かし、世界に先駆けたサステナブル都市モデルの構築を目指す取り組みです。
2030年の開業に向けて、DeNAと京急電鉄はさらなるパートナー企業の募集を続けています。川崎がアジアを代表するエンターテインメントシティとなるか、今後の進展に注目が集まります。
参考資料:
関連記事
インフレ時代の不動産戦略と「トキ消費」が牽引するアリーナ市場
日本経済がインフレ型に転換する中、不動産市場と消費者行動がどう変化しているのか。アリーナ建設ラッシュと「トキ消費」の関係性から、新たな投資・事業機会を読み解きます。
ファミマがToo Good To Goと連携、売れ残り食品を割引販売
世界最大の食品ロス削減アプリ「Too Good To Go」が日本上陸。ファミマやNewDaysと連携し、売れ残り商品を2〜7割引きで販売。スマホ予約で店舗受け取りの仕組みを解説します。
ESG投資が防衛産業を容認する時代へ、欧州で進む新原則の策定
欧州の投資家が「責任ある防衛投資原則(PRDI)」の策定を進めています。かつてESGで排除されていた防衛関連株への投資が急増する中、サステナビリティと安全保障を両立させる新たな枠組みを解説します。
最新ニュース
ビットコイン7万ドル台急落、テック株売りが暗号資産に波及
ビットコインが約1年3カ月ぶりの安値となる7万2000ドル台に急落しました。米ハイテク株の売りが暗号資産市場に波及した背景と、MicroStrategyの含み損問題について解説します。
日銀の量的引き締め出遅れと円安の関係を解説
日銀のマネタリーベース縮小が米欧に比べ緩やかな理由と、それが円安に与える影響について解説します。FRB新議長候補ウォーシュ氏の金融政策姿勢にも注目が集まっています。
書店600店の在庫を一元化|返品率30ポイント削減の新システム
紀伊国屋書店、TSUTAYA、日販が出資するブックセラーズ&カンパニーが、56社603店の在庫を横断管理するデータベースを始動。返品率6割減を実現した事例と、出版業界の構造改革を解説します。
中国海警局の尖閣周辺活動が過去最多に、日中の緊張続く
2025年、中国海警局の船舶が尖閣諸島周辺の接続水域に357日出没し過去最多を更新。日本の対応策と偶発的衝突防止の課題を解説します。
中国の土地売却収入がピーク比半減、地方財政に深刻な打撃
中国の地方政府の土地売却収入が2025年も前年比14.7%減少し4年連続の減少を記録。ピークの2021年から52%減となり、不動産不況が地方財政を圧迫し続けています。