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by nicoxz

大手生保4社の営業拠点が5年連続で減少、効率経営への転換

by nicoxz
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はじめに

日本の大手生命保険会社が、全国に展開する営業拠点の統廃合を加速させています。日本生命、第一生命、明治安田生命、住友生命の大手4社の2026年度における拠点数は合計5000カ所強となり、5年連続の減少が見込まれています。この水準はデータをさかのぼれる2015年度以降で最少です。人口減少や少子高齢化による市場環境の変化に加え、新型コロナウイルス禍を契機としたデジタル化の進展が、生保業界の営業体制を根本から変えようとしています。本記事では、大手生保が拠点削減を進める背景、デジタルツールの導入による営業改革、そして今後の展望について詳しく解説します。

拠点削減が進む背景と構造的要因

人口減少と市場環境の変化

生命保険業界が営業拠点の削減を進める最大の要因は、日本の人口構造の変化です。日本の総人口は減少局面に入っており、新規契約者の絶対数は先細りする見通しとなっています。生命保険の世帯加入率はすでに9割近い飽和状態にあり、新規顧客の獲得余地は限られています。こうした状況で、全国津々浦々に拠点を維持するコストの合理性が問われるようになりました。

特に地方部では、人口流出による顧客数の減少が顕著です。かつては地域に密着した営業拠点が顧客との関係構築に重要な役割を果たしていましたが、一拠点あたりの顧客数が減少するなかで、拠点維持にかかる賃料や人件費などの固定費が経営を圧迫するケースが増えています。

営業職員数の減少と人手不足

拠点削減の背景には、営業職員数の減少という構造的な問題もあります。大手4社の営業職員数は2023年度末時点で約15万3000人と、2020年度末のピーク時から約1割減少し、過去10年間で最少の水準に落ち込みました。日本生命では営業職員数が5万人を割り込む事態となっています。

生命保険の営業職員は、従来から高い離職率が課題とされてきました。入社5年目の在籍率は約25%にとどまり、大量採用・大量離職の構造が長年続いてきました。近年は各社が待遇改善に取り組んでおり、第一生命では入社1年目の離職率を20%から10%に改善し、入社6年目の残存率を50%まで引き上げることを目標としています。しかし、人手不足が深刻化する日本の労働市場において、営業職員の確保は依然として厳しい状況にあります。

営業職員が減少すれば、それに見合った拠点数へのスリム化は自然な流れです。各社は限られた人材を効率的に配置し、一人あたりの生産性を高める方向へと舵を切っています。

固定費の圧縮と経営効率の向上

営業拠点の維持には、賃料、光熱費、通信費、事務機器のリース料など多額の固定費がかかります。拠点を統廃合することで、これらのコストを大幅に圧縮し、経営効率を改善することが可能になります。大手生保各社は「構造革新」や「生産性向上」を中期経営計画の柱に据えており、拠点網の見直しはその中核的な施策の一つに位置づけられています。

デジタル化と営業モデルの変革

オンライン相談とデジタルツールの普及

新型コロナウイルスの感染拡大を機に、生命保険業界ではオンライン相談やデジタルツールの導入が一気に加速しました。対面での営業活動が制限されるなか、各社はビデオ通話を活用したオンライン相談、スマートフォンアプリによる保険手続き、電子署名による申し込みなど、デジタル技術を活用した営業チャネルを急速に整備しました。

第一生命はコロナ禍を契機にオンライン販売を本格導入し、「100年続いた対面営業を変える」という方針のもと、デジタルとリアルを融合させた新しい営業モデルの構築を進めています。日本生命はLINEを活用した営業活動の革新に取り組み、成約率を従来の6倍以上に引き上げる成果を上げています。さらに、Google Maps Platformを活用した出店戦略システムを導入し、データに基づく最適な拠点配置を実現しています。

こうしたデジタルツールの普及により、物理的な営業拠点がなくても顧客との接点を維持できる環境が整いつつあります。オンライン相談であれば、地理的な制約なく全国の顧客に対応可能であり、一つの拠点でカバーできるエリアが大幅に拡大します。

AI・RPAの活用による業務効率化

デジタル化は顧客接点だけにとどまりません。各社はAI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用し、バックオフィス業務の自動化にも積極的に取り組んでいます。

日本生命はRPAを全社的に導入し、事務作業の自動化による効率化とコスト削減を推進しています。また、AI接客アバターの導入も進めており、来店客への初期対応をAIが担う仕組みを構築しています。第一生命ホールディングスはマイクロソフトとの提携を発表し、生成AIの活用による業務変革を推進しています。

こうしたテクノロジーの導入により、営業職員一人あたりの生産性は着実に向上しています。従来は経験やスキルに依存していた営業活動が、顧客データの分析に基づく科学的なアプローチへと変わりつつあり、「足で稼ぐ営業」から「データで攻める営業」への転換が進んでいます。

来店型ショップとチャネル多様化

一方で、「ほけんの窓口」や「保険クリニック」といった来店型保険ショップの存在感は拡大を続けています。保険市場では全国745店舗のネットワークを構築し、オンライン相談件数は24万件を超えています。これらの来店型ショップは複数の保険会社の商品を比較・提案できるため、消費者にとっての利便性が高く、生保各社にとっても効率的な販売チャネルとなっています。

大手生保が自前の営業拠点を削減する一方で、こうした代理店チャネルへの依存度が高まる可能性があります。自社の営業職員を通じた販売と、外部チャネルを組み合わせたハイブリッドな販売体制の構築が今後の課題となるでしょう。

注意点・展望

拠点削減は経営効率化に寄与する一方で、いくつかの課題やリスクも指摘されています。

まず、地方における顧客サービスの低下が懸念されます。高齢者を中心にデジタルツールの利用に不慣れな層も少なくなく、対面での相談を望む顧客は依然として多く存在します。金融庁の保険モニタリングレポートでも、インターネットでの加入を希望する層は増加傾向にあるものの、成約段階では面談を視野に入れる顧客層が拡大していると指摘されています。拠点削減によって対面サービスの機会が失われれば、顧客満足度の低下や解約率の上昇につながるリスクがあります。

また、大手各社は国内市場の縮小を見据え、海外事業の拡大や非保険領域(介護・ヘルスケアなど)への進出を加速させています。国内の拠点削減で生じたコスト削減分を、こうした成長分野への投資に振り向ける動きも活発化しています。PwCの分析によれば、大手生保は中長期の事業環境の変化に対応するため、ビジネスモデルの本格的な変革を進めており、営業拠点の再編はその一環と位置づけられます。

今後は「デジタルとリアルの融合」がキーワードとなるでしょう。単純な拠点削減ではなく、デジタルツールで補完しつつ、必要な地域には質の高い対面サービスを維持するというバランスの取れた戦略が求められます。

まとめ

大手生保4社の営業拠点が5年連続で減少し、2026年度には過去最少の5000カ所強になる見通しです。この動きの背景には、人口減少による市場縮小、営業職員の減少と人手不足、デジタルツールの普及によるオンライン対応の充実、そしてコスト圧縮による経営効率化の追求があります。各社はAIやRPAの活用、LINEなどのプラットフォーム連携、データドリブンな営業手法の導入により、拠点に依存しない営業モデルへの転換を進めています。ただし、対面サービスを重視する顧客への配慮や、地方の金融サービスアクセスの確保といった課題にも目を配る必要があります。生命保険業界は、効率化と顧客体験の向上を両立させる新たな営業モデルの確立に向けて、大きな転換期を迎えています。

参考資料

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