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by nicoxz

メキシコがキューバへの原油供給を停止した背景

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はじめに

2026年2月、メキシコのシェインバウム大統領がキューバへの原油供給停止を発表しました。この決定の背景には、トランプ米政権による強力な経済圧力があります。

キューバはすでに深刻なエネルギー危機に直面しており、1日12時間以上の停電が常態化しています。ベネズエラからの原油供給が途絶えた今、メキシコが唯一のまとまった原油供給国でした。

この記事では、メキシコの決定に至った経緯、キューバのエネルギー事情、そして今後の国際関係への影響について解説します。

トランプ政権の対キューバ圧力政策

大統領令による関税威嚇

トランプ大統領は2026年1月29日、キューバに石油を販売する国からの輸入品に追加関税を課す大統領令を発表しました。この大統領令は米国東部時間1月30日午前0時1分に発効しています。

大統領令における「石油」の定義は原油と石油精製品を含み、「間接的な供給」も対象としています。つまり、石油がキューバに渡る可能性を認識しながら第三国や仲介業者に販売することも制裁対象となります。

トランプ大統領はキューバを「米国の国家安全保障にとって異常かつ重大な脅威」と位置づけています。この強硬姿勢は、キューバの共産主義体制への圧力を強める政策の一環です。

メキシコへの事実上の最後通牒

2026年1月にベネズエラのマドゥロ大統領が米軍によって拘束されて以降、ベネズエラからキューバへの原油輸出は完全に停止しました。これにより、メキシコがキューバにとって唯一の主要な原油供給国となりました。

統計によると、キューバの原油輸入の44%をメキシコが、33%をベネズエラが占めていました。ベネズエラからの供給が途絶えた今、トランプ政権の関税威嚇はメキシコに対する事実上の最後通牒となっています。

メキシコの苦渋の決断

シェインバウム大統領の発表

メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領は2月3日の定例記者会見で、キューバ向けの原油供給を停止したことを明らかにしました。同時に、原油の代わりに食料や生活必需品を送る方針を示しています。

シェインバウム大統領は、この決定が「主権的な判断」であり、米国からの圧力によるものではないと主張しています。また、「トランプ大統領とキューバへの石油について話し合ったことはない」と述べています。

しかし、メキシコ政府内では、供給を継続すれば米国が制裁などで対抗する可能性があるとの警戒感が高まっていたことは明らかです。

外交姿勢と経済安全保障の板挟み

メキシコにとってこの決定は、外交姿勢と経済安全保障が絡む難しい判断でした。シェインバウム大統領は1月30日の時点で、「メキシコに対する関税は望んでいないが、キューバとの連帯に向けた外交ルートを模索していく」と発言していました。

同時に、キューバへの原油輸出を遮断すれば「広範囲にわたる人道危機」が生じ、交通、病院、食糧の入手に影響を及ぼす可能性があると強調していました。

メキシコは2月2日時点でも「対立を避けながら人道的理由で原油を送り続ける」外交努力を続けると表明していましたが、最終的には米国の圧力に屈する形となりました。

原油供給量の推移

メキシコ国営石油会社ペメックスの報告によると、2025年1月から9月までの間、キューバへ1日あたり約2万バレルの原油を輸出していました。しかし、2025年9月にルビオ米国務長官がメキシコを訪問した後、その量は約7,000バレルにまで減少したとされています。

2026年に入ってからは、年初に一度だけ8万4,900バレルが供給されたのみでした。

キューバが直面するエネルギー危機

原油在庫は15〜20日分のみ

データ分析企業ケプラーの分析によると、キューバの原油在庫は現在の需要水準と国内生産量を考慮すると、わずか15日から20日分程度しかありません。この数字は、メキシコからの供給停止により、キューバが数週間以内に深刻な燃料枯渇に陥る可能性を示しています。

慢性的な電力不足

キューバでは電力不足が深刻化しており、ピーク時の最大需要3,100メガワットに対し、稼働可能な発電量は1,398メガワットにとどまっています。実に1,702メガワットもの電力が不足している状況です。

ハバナを含む全土で1日12時間以上の停電が常態化しており、一部地域では20時間に及ぶこともあります。国民は調理も水の確保もままならない絶望的な状況に置かれています。

過去の大規模停電

2024年10月17〜18日にはキューバ全土で大規模な停電が発生し、学校が休校になるなど影響が広がりました。発電所の故障と燃料不足が原因でした。2025年3月14日にも電力網が崩壊し、全国が停電状態に陥りました。

これらの事態は、キューバのエネルギーインフラの脆弱性と、外部からの燃料供給への依存度の高さを浮き彫りにしています。

国際関係への影響と今後の展望

人道危機の深刻化

メキシコからの原油供給停止により、キューバの人道危機はさらに深刻化する見通しです。すでに国民の約88〜89%が「極度の貧困」状態にあると推計されており、2021年から2024年の間に総人口の10〜18%にあたる100万人以上がキューバを去ったとされています。

これはキューバ史上最大規模の人口流出であり、エネルギー危機の悪化によりこの傾向はさらに加速する可能性があります。

代替供給源の限界

キューバの原油輸入の約10%はロシアから供給されていましたが、これだけでは国内需要を満たすことはできません。中国からの支援も限定的であり、キューバを救うために「火中の栗を拾う」同盟国は現状では見当たりません。

メキシコの人道支援継続

シェインバウム大統領は、原油の代わりに「キューバ国民にとって不可欠な製品」を送ると表明しています。食料や生活必需品による人道支援は継続する方針ですが、電力供給の根本的な解決にはなりません。

注意点と今後の見通し

トランプ政権の対キューバ政策の行方

トランプ政権の対キューバ強硬姿勢は、今後も継続・強化される可能性が高いです。キューバの共産主義体制を崩壊に追い込むことが政策目標とみられ、経済的締め付けはさらに厳しくなる可能性があります。

メキシコの立場

メキシコはUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)を通じて米国との経済関係が深く、米国との対立は大きな経済的損失をもたらします。今回の決定は、伝統的なラテンアメリカ連帯よりも経済安全保障を優先せざるを得なかった苦渋の選択といえます。

キューバの選択肢

キューバにとって残された選択肢は限られています。体制改革による米国との関係改善か、中国・ロシアへのさらなる依存か、いずれにしても容易な道はありません。

まとめ

メキシコのキューバへの原油供給停止は、トランプ政権の強硬な対キューバ政策が具体的な成果を上げた象徴的な出来事です。ベネズエラからの供給途絶に続くこの決定により、キューバは1959年の革命以来最も深刻なエネルギー危機に直面しています。

今後数週間でキューバの燃料在庫が底をつく可能性があり、人道危機のさらなる深刻化が懸念されます。国際社会がこの状況にどう対応するか、注視が必要です。

参考資料:

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