トランプ大統領、対韓関税25%引き上げ表明の背景と影響
はじめに
2026年1月26日、トランプ米大統領は韓国への関税を15%から25%に引き上げると表明しました。理由として、韓国国会が米韓貿易協定の履行に向けた法案を承認していないことを挙げています。
この発表は、昨年の首脳会談で合意した3500億ドル規模の対米投資計画が履行されていないことへの強い不満の表れです。韓国の主要輸出品である自動車産業への影響が懸念される中、韓国政府は対応を急いでいます。
本記事では、米韓貿易交渉の経緯と今回の関税引き上げ表明の背景、そして韓国経済への影響について解説します。
米韓貿易交渉の経緯
2025年の相互関税発動
トランプ政権は2025年4月、各国に対して相互関税を発動しました。韓国に対しても25%の相互関税が設定され、それまで米韓FTA(自由貿易協定)により関税ゼロで輸出できていた韓国製品に大きな影響が出ました。
韓国はもともと米国とFTAを結んでおり、自動車についても関税ゼロという優位性がありました。日本やEUの対米輸出には2.5%の基本税率がかかっていたため、韓国メーカーは競争上有利な立場にあったのです。
7月の関税引き下げ合意
2025年7月、トランプ大統領は韓国との貿易交渉で合意に達したと発表しました。自動車を含む韓国からの輸入品に対する関税を15%に引き下げる一方、韓国側は米国のエネルギーや造船などの分野に対し、総額3500億ドル(約52兆円)の投資を行うことが盛り込まれました。
この合意により、韓国は8月1日から発効予定だった25%の関税を回避する形となりました。数カ月にわたる交渉の成果でしたが、日本やEUと同じ15%の関税率となり、韓国の対米輸出における優位性は失われました。
10月の首脳会談と最終合意
2025年10月29日、トランプ大統領と韓国の李在明大統領は韓国南東部の慶州で会談し、相互関税と自動車関税の15%への引き下げについて首脳間で合意しました。
11月14日には両国の関税と安全保障分野の交渉結果を盛り込んだ共同説明資料(ジョイント・ファクトシート)が確定。韓国は今後4年間にわたり米国産エネルギーを1000億ドル購入することでも合意しました。12月4日には米商務省が関税の修正を官報で公示し、正式に実施されました。
今回の関税引き上げ表明の理由
韓国国会での法案審議の遅延
トランプ大統領が不満を示している直接の理由は、韓国国会が米韓貿易協定の履行に必要な法案を承認していないことです。
トランプ氏は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で「われわれは合意された内容に従って、関税を迅速に引き下げた」と主張し、「韓国の国会は、彼らの権限だが、歴史的な貿易協定を承認していない」と批判しました。投稿では「議会」という言葉を3回使い、「なぜ韓国の議会はまだこれを承認しないのか」と反問しています。
3500億ドル投資計画の履行問題
米韓合意の核心は、韓国による3500億ドル規模の対米投資です。2025年11月には、この投資に必要な特別基金設立法案が韓国与党「共に民主党」により国会に提出されましたが、審議は滞っています。
米韓の合意文書には韓国国会承認の期限は明記されていませんでしたが、トランプ政権は韓国側の対応の遅さに苛立ちを募らせていたとみられます。報道によると、米国は韓国に対して3回の警告状を送っていたとされています。
韓国国内政治の影響
韓国メディアは、国会での審議遅延の背景に国内政治の問題があると指摘しています。野党による激しいボイコットと、与党自身の選挙に向けた政治的計算が、法案を塩漬けにしている主因だと報じられています。
野党陣営は今回の米韓交渉の結果を「屈辱外交」と批判しており、法案審議に協力的ではありません。与党も選挙を控えて政治的な判断を優先している面があるとされています。
韓国経済への影響
自動車産業への打撃
韓国にとって最も深刻な影響を受けるのは自動車産業です。自動車は韓国の対米輸出額の約27%を占める主要品目であり、韓国の自動車産業は米国への依存度が極めて高く、輸出の約半分が米国向けとなっています。
関税が15%から25%に引き上げられれば、韓国製自動車の価格競争力は大きく低下します。現代自動車やKIA(起亜自動車)などの韓国メーカーにとって、米国市場での販売戦略の見直しが迫られる可能性があります。
木材・医薬品にも影響
トランプ大統領は自動車だけでなく、木材や医薬品なども関税引き上げの対象として挙げています。韓国からの輸入品全般に影響が及ぶ可能性があり、韓国経済全体への打撃が懸念されます。
日本との比較
日本は2025年に米国との貿易交渉で合意し、自動車関税を含めて15%の関税が適用されています。韓国の関税が25%に引き上げられれば、日本車との間で10ポイントの関税差が生じることになります。
韓国は従来、米韓FTAにより対米輸出で有利な立場にありましたが、今回の関税引き上げが実施されれば、むしろ日本より不利な状況に置かれることになります。
韓国政府の対応
李在明大統領の発言
韓国の李在明大統領は27日の閣議で、トランプ氏の投稿には直接言及せず、「(全体的に)政府の基本政策に関する国会の立法が遅れ、仕事ができない」と不満を吐露しました。国会での法案審議の遅れに対する大統領自身のいらだちも示された形です。
訪米協議の予定
大統領府は、金正官産業通商相が近く訪米し、ラトニック米商務長官と協議すると発表しました。正式な関税引き上げの通知はまだ出ていないため、外交チャンネルを通じた交渉で事態の打開を図る方針とみられます。
与党の法案処理方針
韓国与党幹部は2月中に関連法案の処理を目指す意向を示しています。ただし、野党の協力が得られるかどうかは不透明であり、国会での審議がスムーズに進むかどうかは予断を許しません。
今後の展望と注意点
正式通知はまだ
重要な点として、トランプ政権は関税引き上げを実施するための正式な通知をまだ出していません。今回の発表はあくまでトランプ大統領個人のSNS投稿であり、正式な政策決定ではない段階です。
外交交渉の余地は残されており、韓国政府の対応次第では関税引き上げが回避される可能性もあります。ただし、トランプ大統領は過去にもSNSでの発言を実際の政策に移してきた経緯があり、楽観視はできません。
日米関係への示唆
今回の韓国への対応は、同盟国であっても貿易交渉では厳しい姿勢で臨むというトランプ政権の方針を改めて示しています。日本も米国との貿易交渉で合意した内容の履行を求められる可能性があり、今後の動向を注視する必要があります。
まとめ
トランプ大統領による対韓関税25%引き上げ表明は、韓国国会が米韓貿易協定の履行に向けた法案を承認していないことへの強い不満の表れです。昨年合意した3500億ドル規模の対米投資計画が履行されていないことが直接の理由とされています。
韓国の自動車産業は輸出の約半分を米国に依存しており、関税引き上げが実施されれば大きな打撃を受けます。韓国政府は訪米協議を予定し、与党は2月中の法案処理を目指すとしていますが、国内政治の混乱もあり先行きは不透明です。
正式な関税引き上げの通知はまだ出ていませんが、トランプ政権の姿勢は明確であり、韓国政府には迅速な対応が求められています。
参考資料:
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