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by nicoxz

水島エチレン停止で石油化学再編が加速する背景

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はじめに

日本の石油化学産業が大きな転換期を迎えています。三菱ケミカルグループと旭化成が、岡山県倉敷市の水島コンビナートで共同運営するエチレン生産設備を停止し、三井化学が大阪府に持つ設備へ生産を集約する方針を固めました。

これは民間主導では初となる、地域をまたぐエチレン生産設備の再編です。背景には中国の供給過剰による市況悪化があり、日本のものづくりを支えてきた石油化学産業の構造転換が本格化しています。

この記事では、今回の再編の背景、エチレン産業の現状、そして今後の石化業界の見通しについて詳しく解説します。

エチレンとは何か、なぜ重要なのか

プラスチックの原料となる基礎化学品

エチレンは石油化学産業における最も基本的な原料の一つです。ナフサ(粗製ガソリン)を高温で分解して製造され、ポリエチレンやポリ塩化ビニルなど、さまざまなプラスチック製品の原料となります。

自動車部品、家電製品、食品包装材、建築資材など、私たちの生活を支える製品の多くがエチレンを起点に作られています。そのため、エチレンの生産能力は国の産業基盤を示す指標の一つとも言えます。

日本のエチレン生産能力

日本には全国に12カ所のエチレン製造設備(エチレンセンター)があり、年間生産能力は約650万トンに達します。しかし、近年は稼働率が大きく低下しており、好不況の目安とされる90%を大幅に下回る状態が続いています。

2025年6月時点でエチレン生産設備の稼働率は75%となり、70%台が5カ月連続で続くのはデータがある1999年以降で最長となりました。

水島コンビナートとエチレン生産の歴史

西日本を代表する石化拠点

水島コンビナートは、岡山県倉敷市南部の水島臨海工業地帯に立地する、全国有数の規模を誇るコンビナートです。製造品出荷額は3兆円を超え、石油化学のほか鉄鋼、自動車など複数の産業が集積しています。

旭化成の水島製造所は1965年にポリスチレンの製造を開始し、その後スチレンモノマー、アクリロニトリル、エチレンなど基礎化学原料の製造を行ってきました。1972年にはエチレン生産設備が稼働を開始しています。

2016年の統合経緯

三菱ケミカル(当時は三菱化学)と旭化成は2013年8月、水島コンビナートでのエチレン生産統合を決定しました。旭化成のエチレン生産設備を停止し、三菱化学の設備に集約する形で、2016年4月に両社折半出資の「三菱化学旭化成エチレン」を設立しました。

この統合は汎用品の採算悪化に対応するための事業整理の一環でした。両社は海底パイプラインを通じて原料・製品を相互融通するなど、企業系列を超えた効率化を進めてきた歴史があります。

今回の再編の詳細と背景

3社連携による生産集約

今回の再編では、三菱ケミカルグループと旭化成が水島のエチレン生産設備を停止し、三井化学が大阪府高石市に持つ設備に生産を集約します。これにより、西日本のエチレン生産は3社共同運営体制に移行します。

2025年8月には、旭化成、三井化学、三菱ケミカルグループの3社が有限責任事業組合(LLP)を設立しました。各社が3分の1ずつ出資し、温暖化ガス排出削減や効率的な生産に向けた検討を進めています。

停止時期は2030年頃を計画しているとみられ、人員の配置転換や跡地活用も今後の課題となります。

中国の供給過剰が引き金

再編の最大の理由は、中国における化学品の大増産です。S&Pグローバルによると、中国はエチレンプラントで数千万トンの生産能力を持ち、さらに大規模な増強計画があります。石化関連の供給過剰は少なくとも2028年頃まで続く見通しです。

中国製品の流入により国際市況が悪化し、日本国内のエチレン生産設備の稼働率は長期にわたって低迷しています。2025年10月時点の稼働率は77.4%で、90%を27カ月連続で下回るという、1991年以降で最長の低迷が続いています。

日本全体の石化再編の動き

各地で進む設備集約

水島だけでなく、日本各地でエチレン生産設備の再編が進んでいます。

千葉地区では4基あるエチレン製造設備を2基に集約する方向です。出光興産と三井化学は2027年7月に千葉県市原市の製造設備を統合すると発表しています。

川崎地区では2基を1基に集約する計画が進んでいます。国内12カ所あったエチレンセンターは最終的に8カ所程度に集約され、生産能力は600万トンから400万トン前後に減少する見通しです。

経済産業省の見通し

経済産業省は2050年の国内エチレン需要を年間400万トンと想定しています。現在の生産能力600万トンは明らかに過剰であり、今回のような再編は避けられない流れと言えます。

みずほ銀行の分析によると、2026年以降のエチレンプラント3基停止に伴い、市況低迷で採算が厳しいエチレン輸出分を中心に生産が減少することが予想されています。

韓国の動向

東アジア全体でも供給体制の見直しが進んでいます。韓国政府は2025年夏、基礎原料エチレンの生産能力を270万〜370万トン削減する方針を発表しました。日本と同様に中国の供給過剰への対応を迫られています。

注意点・今後の展望

コスト競争力の確保が焦点

プラスチックは自動車部品や家電など幅広い製品に使われ、経済活動の根幹を支える産業です。生産集約によってコスト競争力を高められるかが、日本の石化産業の生き残りを左右します。

三井化学の橋本社長は「国内でお客様、経済安全保障、投資効率、他製品とのシナジーを見ながら、何を最終的に残していくか」と述べ、競争力ある状態をつくる必要性を強調しています。

脱炭素対応との両立

再編は単なる設備削減ではなく、脱炭素対応という課題とも密接に関わっています。LLPの設立目的にも温暖化ガス排出削減が掲げられており、効率化と環境対応を両立させる取り組みが求められています。

川下誘導品の再編も視野

エチレンに続き、川下の誘導品(エチレンを原料とする製品)や半導体材料分野でも再編の動きが広がる可能性があります。2026年は「再編第2幕」として、さらなる業界地図の書き換えが進むと見られています。

まとめ

三菱ケミカルグループと旭化成による水島エチレン生産設備の停止は、日本の石油化学産業が直面する構造的課題を象徴する出来事です。中国の供給過剰により稼働率が低迷する中、民間主導で地域をまたぐ初の再編が実現しようとしています。

今後は千葉、川崎など他地域でも再編が進み、国内のエチレン生産能力は大幅に削減される見通しです。日本の石化産業が国際競争力を維持できるか、脱炭素対応と両立できるかが、今後の注目点となります。

参考資料:

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