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by nicoxz

水島エチレン停止へ、石油化学再編が本格化する背景と影響

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はじめに

日本の石油化学産業が大きな転換点を迎えています。三菱ケミカルグループと旭化成が、岡山県倉敷市の水島コンビナートで共同運営するエチレン製造設備を停止する方針を固めました。

エチレンはプラスチックや合成繊維など、私たちの生活を支える基礎化学品の原料です。自動車部品から家電、日用品まで幅広い製品に使われ、経済活動の根幹を支えています。

今回の再編は単なる1拠点の閉鎖ではありません。中国の供給過剰という構造問題に直面した日本の石油化学産業が、生き残りをかけた本格的な再編に動き出したことを意味します。本記事では、その背景と今後の影響を詳しく解説します。

水島エチレン停止の概要

3社による生産集約

三菱ケミカルグループと旭化成が折半出資で水島コンビナートに保有するエチレン製造設備1基が停止の対象です。生産は三井化学が大阪府高石市の泉北工業所に持つ設備に集約され、3社による共同運営体制に移行します。

この3社は2025年8月に各社が同比率で出資する有限責任事業組合を設立し、再編の協議を進めてきました。今回の決定は、その協議の具体的な成果と言えます。

停止時期は2030年ごろ

水島のエチレン製造設備は2030年ごろの停止が計画されています。人員の配置転換や跡地活用など、地域経済への影響を考慮しながら段階的に進められる見通しです。

発表は2026年1月末にも行われる予定で、日本の石油化学業界にとって歴史的な転換点となります。

石油化学産業が直面する構造問題

中国の供給過剰が市況を圧迫

再編を余儀なくされた最大の要因は、中国の供給過剰問題です。中国は国内自給率の向上を目指し、2020年以降エチレン設備の増強を急速に進めてきました。

現在の中国のエチレン生産能力は約5,048万トンに達し、さらに2028年までに2,560万トンの追加能力が増強される計画です。一方で中国国内の景気低迷により需要は伸び悩み、余剰となった化学製品がアジア市場に流出しています。

この結果、アジア全体で需給バランスが悪化し、日本のエチレン製造設備の稼働率低下をもたらしました。

37カ月連続の「エチレン不況」

国内エチレン設備の稼働率は、2022年5月に好不況の目安とされる90%を割り込んで以降、長期にわたって低迷を続けています。2022年8月からは24カ月以上連続で90%を下回り、平均稼働率は81%程度にとどまっています。

これは2011年11月から2013年11月以来の危機的状況であり、「エチレン不況」と呼ばれる厳しい事業環境が続いています。内需の減少と中国の過剰生産という構造問題に直面し、稼働率が回復する見通しは乏しい状況です。

過剰設備の試算

現在、日本にはエチレンプラントが12基あり、年間生産能力は約650万トンです。稼働率が80%程度にとどまっているということは、能力の20%に相当する約130万トン(エチレンプラント2〜3基分)の設備が過剰と試算されています。

この過剰設備の削減なくして、日本の石油化学産業の競争力回復は困難という認識が業界内で共有されています。

業界全体で進む再編の動き

千葉でも設備統合が決定

水島だけでなく、千葉地区でも再編が進んでいます。出光興産と三井化学は、2027年7月に千葉県市原市のエチレン製造設備を統合すると発表しました。出光興産の設備を停止し、三井化学の設備に集約します。

これにより、三井化学は大阪と千葉の両拠点でエチレン生産の中核を担う立場を強化することになります。

1980年代以来の大規模再編

今後停止が予定されている3基の生産能力は計約126万トンに上ります。西日本での1基集約が実現すれば、国内全体の生産能力は現状から約3割減の440万トン程度となります。

これは1980年代に政府主導で行われた設備廃棄後と同じ水準まで下がることを意味し、約40年ぶりの大規模な産業再編と言えます。

業界の見方

業界幹部は「国内産業で唯一再編が進んでこなかった」と認めるほど、石油化学業界の再編は遅れていました。今回の動きを皮切りに、「依然として再編余地はある」「鉄鋼や石油精製のように最終的に数社に集約されるだろう」との見方が多くなっています。

注意点・展望

地域経済への影響

水島コンビナートは岡山県の産業を支える重要拠点です。エチレン設備の停止は、関連する誘導品工場や協力会社にも影響を及ぼす可能性があります。

人員の配置転換、跡地の有効活用、地域経済への支援など、慎重な対応が求められます。単なるコスト削減ではなく、持続可能な産業構造への移行という視点が重要です。

脱炭素への対応

石油化学産業は大量のCO2を排出する業種であり、カーボンニュートラルへの対応も課題です。三井化学は大阪工場でLNG冷熱を利用した省エネプロセスを導入するなど、先進的な取り組みを進めています。

設備集約による効率化と、脱炭素技術への投資を両立させることが、今後の競争力を左右するでしょう。

中国との競争は続く

中国のエチレン増産は今後も続く見通しです。日本のメーカーがコスト競争で中国に勝つことは難しく、高付加価値製品へのシフトや、独自技術を活かした差別化が不可欠となります。

再編はゴールではなく、新たな成長戦略を描くためのスタートラインと捉えるべきでしょう。

まとめ

三菱ケミカルと旭化成による水島エチレン設備の停止決定は、日本の石油化学産業が本格的な構造改革に踏み出したことを示しています。中国の供給過剰という構造問題は短期間で解消される見込みはなく、国内での設備集約は避けられない流れです。

今後は三井化学への生産集約による3社共同運営体制のもと、コスト競争力の強化が図られます。同時に、脱炭素対応や高付加価値製品へのシフトなど、次世代を見据えた戦略の実行が求められます。

私たちの生活を支える化学製品の安定供給を維持しながら、いかに競争力を高めていくか。日本の石油化学産業は、大きな転換期を迎えています。

参考資料:

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