Research

Research

by nicoxz

退職代行モームリ事件が問う非弁行為の境界線

by nicoxz
URLをコピーしました

はじめに

退職代行サービス「モームリ」を運営するアルバトロス(横浜市)の社長・谷本慎二容疑者(37)と妻の志織容疑者(31)が、2026年2月3日に弁護士法違反の疑いで警視庁に逮捕されました。さらに2月24日には東京地検が両容疑者と法人を起訴しています。

退職代行サービスは近年急速に利用者が増加し、2025年には市場規模が60億円に達するとも推計されています。特に20代の若年層を中心に「退職手段の一つ」として定着しつつありました。そうした中で業界大手の摘発は、退職代行サービスが抱える構造的な問題を浮き彫りにしています。

この記事では、モームリ事件の全容と弁護士法72条の論点、そして退職代行業界の今後について解説します。

モームリ事件の全容

逮捕・起訴の経緯

警視庁保安課は2026年2月3日、アルバトロス社長の谷本慎二容疑者と、従業員で妻の志織容疑者を弁護士法違反(非弁提携)の疑いで逮捕しました。逮捕容疑は、2024年7月から10月にかけて、弁護士資格がないにもかかわらず、報酬を得る目的で公務員や会社員の男女6人を弁護士に紹介した疑いです。

その後の捜査で対象は大幅に拡大し、2月24日の起訴状によると、2023年6月から2025年2月頃にかけて、計174人を特定の弁護士に紹介したとされています。紹介先の弁護士法人の代表弁護士2人と事務員1人も書類送検されました。

違法あっせんのスキーム

事件の核心は、退職代行の利用者を弁護士に「有償で紹介」していた点にあります。モームリの利用者のうち、退職交渉が難航するケースや未払い残業代の請求などが絡むケースでは、法律の専門知識が必要になります。モームリはこうした利用者を特定の弁護士に紹介し、1件あたり約1万6,500円の報酬を受け取っていたとされます。

問題はこの報酬の処理方法です。弁護士法72条に抵触することを認識した上で、紹介料を「広告費」や労働組合への「賛助金」という名目に偽装して処理していた疑いが浮上しています。

労働組合の「隠れみの」利用

捜査の過程で、報酬の受け皿として労働組合が悪用されていた実態が明らかになりました。警視庁の調べに対し、この労働組合の代表者は「モームリを運営するための仕組みだった」と説明しています。

労働組合には実質的な活動実態がなく、弁護士から支払われる紹介料を「賛助金」という名目で受け取る受け皿として機能していたとみられています。労働組合という公的な性質を持つ団体を介在させることで、金銭の流れを合法的に見せかけようとしていた構図が浮かびます。

弁護士法72条と退職代行の法的論点

非弁行為とは何か

弁護士法72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことを禁止しています。違反した場合、2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。

退職代行サービスとの関連で重要なのは、「周旋」(あっせん)も規制対象に含まれる点です。弁護士を紹介して報酬を受け取る行為は、たとえ紹介者自身が法律事務を行わなくても、弁護士法72条に抵触する可能性があります。

退職代行の「限界」と構造的課題

退職代行サービスには、法的な限界が存在します。弁護士資格のない業者が合法的に行えるのは、依頼者の退職の意思を会社に伝達する「使者」としての役割に限られます。会社側と退職条件の交渉を行った瞬間に、非弁行為に該当するリスクが生じます。

この制約が、業界全体の構造的な問題につながっています。合法的な範囲でサービスを提供しようとすると、誰でもできる単純な事務連絡業務に留まらざるを得ません。参入障壁が低いため競合が増え続け、価格競争が激化します。収益を上げるために法的にグレーな領域に踏み込む誘因が生まれやすい構造です。

労働組合型の退職代行

退職代行サービスの中には、労働組合が運営するタイプもあります。労働組合には団体交渉権が認められているため、会社側との交渉が可能です。しかし今回の事件では、労働組合が実際の団体交渉を行うためではなく、資金の流れを偽装するために利用されていた点が悪質とされています。

退職代行業界への影響と今後の展望

利用者への影響

退職代行サービスの利用率は年々増加しており、2024年には企業の23.2%が退職代行を利用した従業員を経験しています。特に20代の利用率は18.6%と高く、若年層の間で定着しつつあります。

モームリ事件を受け、大手弁護士法人のアディーレ法律事務所がモームリ利用者への救済措置を発表するなど、業界全体に波紋が広がっています。利用者側は、自身が依頼した退職代行サービスが適法に運営されているか、改めて確認する必要があります。

業界の健全化に向けて

今回の事件は、退職代行業界に対する法規制の議論を加速させる可能性があります。現状では、退職代行サービスに特化した法律や規制は存在せず、弁護士法や労働組合法の枠組みの中で運営の適法性が判断されています。

利用者が安心してサービスを利用できる環境を整備するためには、退職代行サービスの業務範囲を明確に定義するルールの整備や、事業者の登録制度の導入など、新たな法的枠組みの検討が求められます。

適法な退職代行サービスの選び方

退職代行サービスを利用する際は、以下の点を確認することが重要です。運営主体が弁護士または弁護士法人であれば、法律事務を含む幅広い対応が可能です。労働組合が運営する場合は、実際の活動実態があるかどうかを確認しましょう。一般企業が運営する場合は、退職の意思伝達に限定されたサービスであることを理解した上で利用する必要があります。

まとめ

退職代行モームリ事件は、急成長する退職代行業界の構造的な問題を露呈させました。弁護士法72条が定める非弁行為の規制と、退職代行サービスの業務範囲との間にある曖昧さが、今回のような事件を生む温床となっています。

労働組合を隠れみのにした紹介料の偽装は悪質ですが、同時に退職代行サービスが合法的な範囲では十分な収益を上げにくいという業界の構造的課題も見えてきます。今後は業界全体の信頼回復に向けた法整備や自主規制の議論が進むことが期待されます。利用者としては、サービスの運営主体や業務範囲を十分に確認した上で利用することが重要です。

参考資料:

関連記事

最新ニュース