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by nicoxz

退職代行モームリ違法あっせんの全容と労働組合悪用の実態

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はじめに

退職代行サービス「モームリ」を運営するアルバトロス社の社長らが2026年2月3日に弁護士法違反容疑で逮捕されました。この事件では、利用者を弁護士に有償で紹介する違法なあっせん行為が行われていただけでなく、その紹介料を労働組合への「賛助金」として偽装していた実態が明らかになっています。

業界シェア7割を占めていたとされる最大手の逮捕は、急成長する退職代行業界に大きな衝撃を与えました。本記事では、事件の全容と違法スキームの仕組み、弁護士法72条が禁じる「非弁行為」の基本、そして利用者が安全な退職代行サービスを選ぶための注意点を解説します。

モームリ事件の経緯と逮捕の詳細

家宅捜索から逮捕へ

事件が表面化したのは2025年10月です。警視庁保安課がアルバトロス社(横浜市)に対し、弁護士法違反(非弁行為)の疑いで家宅捜索を実施しました。捜査の結果、2026年2月3日に同社社長の谷本慎二容疑者(37)と、従業員で妻の志織容疑者が逮捕されました。

逮捕容疑は、2024年7月から10月にかけて、弁護士資格がないにもかかわらず、報酬を得る目的で公務員や会社員の男女6人を弁護士に紹介した弁護士法違反です。弁護士事務所からは1人あたり約1万6,500円の紹介料が支払われていました。

提携弁護士も書類送検

逮捕から2日後の2月5日には、モームリからあっせんを受けていた提携弁護士側も書類送検されました。対象となったのは弁護士法人オーシャン代表の梶田潤弁護士(45)と、弁護士法人みやび代表の佐藤秀樹弁護士(48)、同法人の男性事務員(43)の計3人です。

捜査によると、アルバトロス社は2023年2月から2025年3月ごろまでの約2年間で、約220人の利用者をあっせんし、合計約370万円の紹介料を受け取っていたとみられています。警視庁はいずれも起訴を求める「厳重処分」の意見を付けて書類送検しました。

労働組合を悪用した偽装スキームの仕組み

「賛助金」と「広告費」による紹介料ロンダリング

この事件で最も注目される点は、違法な紹介料の支払いを巧妙に偽装していた仕組みです。弁護士法72条は、弁護士でない者が報酬を得て法律事務のあっせんを行うことを禁じています。これを回避するため、モームリ側と提携弁護士側は2つの偽装名目を使い分けていました。

1つ目は「労働組合への賛助金」です。モームリは形式上、労働組合を設置していました。弁護士側からの紹介料をこの労働組合への賛助金として処理することで、違法な報酬であることを隠蔽しようとしたとされています。

2つ目は「アフィリエイト広告の業務委託費」です。紹介料をウェブ広告の業務委託費として振り込む形式にすることで、あたかも正当な広告ビジネスの取引であるかのように見せかけていました。

実態のない労働組合

警視庁の捜査で明らかになったのは、この労働組合に活動実態がなかったという事実です。組合の代表者は警視庁の事情聴取に対し、「モームリを運営するための仕組みだった」と説明しています。つまり、労働組合はあくまで違法な紹介料を合法的な支出に見せかけるための「隠れみの」だったことになります。

書類送検された弁護士側も、「弁護士法違反を回避するために考えたスキーム」「本当は紹介料だが、広告費とすれば違反ではないと装うことができると思った」と供述しています。このことから、双方が違法性を認識しながら偽装工作を行っていた疑いが強まっています。

元従業員の証言

事件に関連して、元従業員からも内部告発的な証言が出ています。元従業員によると、「違法だから言わないで」とくぎを刺されていたといいます。一方で、逮捕された谷本容疑者と志織容疑者は取り調べに対し、「弁護士法違反になるとは思っていなかった」と容疑を否認しています。

弁護士法72条と退職代行の法的境界線

非弁行為とは何か

弁護士法72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことを禁止しています。違反した場合は2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。

退職代行サービスにおいて、この法律が問題となるのは以下のような場面です。退職の意思を「伝えるだけ」であれば、法律事務には該当しないため合法とされています。しかし、会社との退職条件の交渉、有給休暇の消化日数の調整、未払い残業代や退職金の請求といった行為は法律事務に該当し、弁護士資格なしに行えば非弁行為となります。

退職代行サービスの3つの類型

現在、退職代行サービスは運営主体によって大きく3つに分類されます。

第1に、弁護士が運営するサービスです。法的資格を持つため、退職交渉から未払い賃金の請求、訴訟対応まで幅広く対応できます。料金は比較的高めですが、法的リスクはありません。

第2に、労働組合が運営するサービスです。憲法で保障された団体交渉権を根拠に、会社との退職条件交渉が可能です。弁護士運営より安価な場合が多いです。ただし、訴訟代理はできません。

第3に、民間企業が運営するサービスです。退職の意思を伝達する「使者」としての役割に限定されます。会社との交渉に踏み込めば非弁行為となるリスクがあります。

モームリの位置づけ

モームリは民間企業であるアルバトロス社が運営していました。本来であれば退職意思の伝達のみが許される立場ですが、退職交渉が必要なケースでは利用者を弁護士に紹介し、その紹介料を得ていたことが違法とされました。弁護士への有償あっせん自体が弁護士法72条に抵触するためです。

退職代行業界への影響と利用者が知るべき注意点

業界への衝撃

退職代行の市場規模は拡大を続けており、大企業の15.7%が社員による退職代行利用を経験しているとの調査結果があります。利用者は20代が約6割を占め、若年層を中心に定着しつつあるサービスです。

その中でモームリは業界シェア7割を占める最大手でした。最大手の社長逮捕という事態は、業界全体の信頼性に疑問を投げかけるものです。今後、行政による監視強化や業界の自主規制の動きが加速する可能性があります。

安全な退職代行サービスの選び方

この事件を受けて、退職代行サービスを利用する際には以下の点に注意が必要です。

まず、運営主体を必ず確認してください。公式サイトの運営者情報で、弁護士事務所なのか、労働組合なのか、民間企業なのかを確認します。料金の振込口座名義も確認すると、実際の運営元がわかります。

次に、「労働組合提携」という表記に注意が必要です。今回の事件で明らかになったように、民間企業が形式的に労働組合の名義を利用しているケースがあります。労働組合に活動実態があるかどうかを見極めることが重要です。

さらに、交渉が必要なケースでは弁護士運営のサービスを選ぶことが安全です。未払い賃金の請求やハラスメント被害の損害賠償など、法的な交渉が必要な場合は、弁護士が直接対応するサービスを選択すべきです。

利用者への救済措置

モームリの社長逮捕を受けて、弁護士法人アディーレ法律事務所はモームリ利用者や依頼を検討していた方への救済措置を実施すると発表しています。同様の動きは他の法律事務所にも広がる可能性があります。

まとめ

退職代行モームリの事件は、急成長する退職代行業界の構造的な問題を浮き彫りにしました。実態のない労働組合を設立し、違法な紹介料を「賛助金」や「広告費」に偽装するスキームは、弁護士側も含めて組織的に行われていたことが捜査で明らかになっています。

退職代行サービスの利用を検討する際は、運営主体が弁護士または実態のある労働組合であることを確認し、「安さ」だけで選ばないことが重要です。退職は労働者の正当な権利であり、適法なサービスを通じて安全に行使することが、自分自身を守ることにつながります。

参考資料:

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